Ado、アイナ・ジ・エンド……強い個性とインパクト備えた女性ボーカルが台頭 昨今のトレンドを探る

 一方で男性シンガーはどうだろう。まずは「ドライフラワー」で知られるシンガーソングライターの優里。シンプルなアンサンブルと共に、人間が抱く普遍的な感情を真っ直ぐに切々と伝えようとしている印象だ。それは、「何があっても共に前に進もう」という熱い気持ちを“飛行船”に投影した新曲「飛行船」でも然り。語りかけるような優しい空気を纏いつつ、サビではエモーショナルに訴えかける。そんな抑揚の利いた歌唱スタイルで聴き手の喜怒哀楽に寄り添い、人々の心模様に深く入り込む。ほのかな艶やかさもあり、それでいて、まろやかで沁みる歌声だ。

優里 『ドライフラワー』Official Music Video(ショートver.)

 川崎鷹也は2018年にインディーズリリースしたアルバム『I believe in you』でシンガーソングライターとしての活動を本格的にスタート。同アルバムに収録されていた「魔法の絨毯」が、2020年後半頃から動画サイトで反響を呼び、注目を集める。そんな彼の魅力は、温かみのある声の質感と美しいビブラート。ふわりと柔らかく、包み込むようなボーカルは、聴く人の心を解きほぐす。「実体験しか書かない」と公言し、「魔法の絨毯」は、当時付き合っていた彼女へのラブソングとして書いたというエピソードも、その歌声をグッと身近なものとして引き付ける。

川崎鷹也-魔法の絨毯【OFFICIAL MUSIC VIDEO】

 Vaundyは弱冠20歳の現役大学生。2019年春頃からYouTubeに楽曲を投稿し、徐々にその名を広める。Spotify Premium 全国地上波テレビCM「Spotify Town」編CMソングに起用された「不可幸力」や、専門学校 首都医校・大阪医専・名古屋医専2021年度TVCMソング「しわあわせ」など、先進的なプロダクトに乗せた豊潤な声のバイブレーションと、流麗なボーカルワークは、類稀なるオリジナリティの極み。抑えた低音からクライマックスへ繋ぐレンジの広さの中で、細やかで深みのある機微を表現しながら、心地よく身を委ねられる世界観を作り出す。これはきっと、天性のものだ。

不可幸力 / Vaundy :MUSIC VIDEO
しわあわせ / Vaundy : MUSIC VIDEO

 女性が率先して自分の意思表示をし、男性がそれを大きな心で静かに受け止める。どことなくそんな図式が頭に浮かぶ相互のボーカリストの立ち位置。それは恐らく、現代社会を反映したものであり、バイオリズムとしての現象でもあり……。つまり、この距離感やバランスは、時代の流れとともに常に変化を遂げていくもの。“今”を象徴するという意味でも、非常に興味深い相関関係である。

■水白京
音楽・映像ソフトの制作・販売会社を経て、音楽ライターに。J-POPを中心にインタビュー、ライブレポート、 コラムなどの原稿執筆を行っている。主な執筆媒体は「リアルサウンド」「MANTANWEB」「オリコン」など。

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