『小林私公演』2部レポート

小林私にある原石の輝き 初のバンドセットライブも自由奔放なステージに

 音楽に酔いしれた客席の雰囲気を一瞬でシュールなMCで変えてしまうことも、彼の唯一無二な部分である。「ライブや配信を観たり観なかったり三谷幸喜」とシュールなギャグを言ってスベったり、ライブ中に「いま何時かな?」と言ってスマートフォンを取り出し時間を確認したりととにかくマイペース。ステージで自然体な姿を曝け出すことも自身を表現する手段の一つなのだろう。MCから曲への繋げ方も自由だ。「『恵日』という曲をやろうかな? やめようかな? どうしようかな?」と言ってから重低音響くミドルテンポのロックナンバー「恵日」を披露。やはり演奏が始まるとMCとは別人のようにクールな姿になる。

 小林私名義では初のバンドセットでのワンマンライブだが、以前はmont-blanc!、ブラックラビットというバンドを組んでいたらしい。初めてのバンドセットとは思えない堂々としたフロントマンとしての佇まいにも納得だ。MC後にスタンドマイクで歌った「泪」は自信に満ちた表情と佇まいだった。

 バンドメンバーの紹介方法も独特でユーモアに溢れている。今回のメンバーに決まった理由やエピソードをメンバーごとに話していくが、紹介後に「可愛いですね」とメンバーに伝えていた。今回のメンバーはライブの1カ月前に揃えたという。しかしバンドは楽曲を完璧に再現し最高の演奏をしていた。「共犯」の複雑で疾走感ある演奏は、まるで活動を長年共にしたバンドが演奏しているかのようだった。これは小林私の才能を認めている周囲のミュージシャンも、実力や才能がある人たちが揃っていることを示しているのかもしれない。

 「俺、頑張ったよ。30分巻きで終わるけれど。アンコールはありません。ありがとうございました!」と言って、最後に演奏されたのは「生活」。小林私の知名度を上昇させたきっかけでもある代表曲だ。ステージを上手から下手まで動きながら楽しそうに歌っている。ときおり満面の笑顔でダブルピースをカメラにしている姿は可愛らしい。MCでユーモアを振りまき演奏中はクールな姿を見せるというギャップを交互に見せるようなライブだった。しかし「生活」を披露している時は幸福感に満ちていて、ユーモアとクールさが入り混じったパフォーマンスである。彼の音楽と人柄の魅力がこの1曲にぎっしりと詰まっているのだ。

 まだデビューしたばかりで荒削りな部分や未熟な部分はある。1時間半の予定を1時間で終えてしまうことは前代未聞だ。しかしライブへの満足度が低いかと言うとそういうことはない。他にはない唯一無二の個性を感じる歌声やパフォーマンスには自然と引き込まれた。その体験をできただけでも満足だ。

 まだ完成されていない原石のアーティスト。だからこそ今注目すべきアーティストで、ライブを観るべきかもしれない。2021年は小林私が成長する1年であると同時に、小林私が音楽シーンを自由に掻き回す1年になるだろう。

■むらたかもめ
オトニッチというファン目線で音楽を深読みし考察する音楽雑記ブログの運営者。出身はピエール瀧と同じ静岡県。移住地はピエール中野と同じ埼玉県。‬ロックとポップスとアイドルをメインに文章を書く人。
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