1stアルバム『CHRONICLE』インタビュー

Daft PunkからBUMP OF CHICKEN、小島秀夫まで……CHRONICLEのルーツと1stアルバム制作に影響を与えたもの

3人がもっと深く交わりながら作品が作れるように

ーー『CHRONICLE』は映像と音楽が密接に結びついていますが、通常の音楽制作とはどのような違いがありますか?

KOJIMA:今回アルバムに収録した10曲では、本当に様々な音楽スタイル、ジャンルを取り入れながら、かなり自由にトラックとメロディを作っていきました。目指したのは、主役にも脇役にもなれる音楽。楽曲単体で聴いても成立しつつ、loundrawの描くイラストの背景としても機能すること。T.B.Aの歌声を際立たせたり、密接に寄り添ったりするようなトラックであること。そんなことを意識しながら作っていきました。

ーーある意味では映画のサントラにも近いけれども、単なるBGMではないということですよね。

KOJIMA:はい。僕はゲームクリエイター小島秀夫さんの作るゲームが大好きなんですよ。最近だと『DEATH STRANDING』もそうでしたが、小島さんの手掛けるゲームは劇中に歌モノの楽曲がガンガン流れるんです。フィールドを移動していたら急にバックで流れる音楽など、単体で聴いても素晴らしいのに、ゲームの中でも世界観を盛り上げる。そこにものすごく感動するんです。僕が幼少期にやっていたゲームの音楽は大抵インストだったし、それに慣れていたので、歌があることでゲームを邪魔しちゃいけないとか、歌があることで何かが削がれるのではないか? みたいな固定概念があったんですけど、それを覆してくれたのが小島さんでした。そして、まさに『CHRONICLE』でやりたかったのも「歌があって単体でも聴けるけど、背景にもなれる音楽」だったんです。

『DEATH STRANDING (デス・ストランディング)』発売日告知 2019トレーラー - 4K(日本語音声)

ーーそういえば小島さんが、ゲーム『MGSV:GZ(METAL GEAR SOLID V: GROUND ZEROES)』で使用していたジョーン・バエズの「勝利への讃歌(Here’s To You)」は、エンニオ・モリコーネによる楽曲でした。モリコーネもやはり映画の中で、ものすごく主張のあるメロディを作る音楽家でしたよね。最近のサントラというと、音数を極力削ぎ落としたアンビエントなものが主流ですが、モリコーネに影響を受けた小島さんがゲームでやろうとしていること、KOJIMAさんが『CHRONICLE』でやろうとしていることは、ある意味その逆をいくスタイルですよね。

KOJIMA:なるほど、確かにそうですね。昨今のサントラは、旋律でバックミュージックを作るというよりは「音色」で雰囲気を作るものが多い。その点、『CHRONICLE』は「旋律」で雰囲気作りをしているところがあるので、そういう部分もぜひ聴いてもらいたいなと思います。

ーーT.B.Aさんも、映像と音楽が融合する作品の中に自分の歌を吹き込むというアプローチは、通常のボーカルアプローチともかなり違う、ある意味では演じるようなものだと思うのですが。

T.B.A:おっしゃるように、「演じる」という意識が大きかったです。歌うというよりも、台詞を読み上げるというか。例えば「呼吸」「夕景」「full name」あたりは特に、語るように歌うことを意識していました。

CHRONICLE『呼吸』-Music Video-

ーーそういう部分で参考にした作品はありましたか?

T.B.A:ポエトリーリーディングですかね。伝えたいことを一つの尺の中に詰め込み、時にはメロディを逸脱して語り口調になったり、かと思えば言葉を削ぎ落として一言だけ発したり。そうやって言葉の説得力を持たせるという意味では、ポエトリーリーディングからのインスピレーションは大きかったです。

ーー具体的には、どんなアーティストをよく聴いていたのですか?

T.B.A:有名なところで言うと、MOROHAさんの作品は魂を削って歌っている感じがあって好きでした。ものすごいボリュームの歌詞を、あの熱量のまま歌い続けるという。そこに触発された部分は大きいと思います。

ーー「深層サーチャー」についてloundrawさんは、「人はなぜ嘘をつくのだろう?」と考えたときに浮かんだ理由の一つ、「自分を守るため」をテーマにした曲だとライナーノーツで解説していました。人の心の中にある、表裏一体の気持ちに関心があるのはどうしてですか?

CHRONICLE『深層サーチャー』-Lyric Video Short ver.-

loundraw:おそらくそれは、推理小説からの影響が大きいと思います。基本的に推理小説は、事件が起きて解決に向かっていくわけですが、その中では事件を起こした犯人の動機も描かれるじゃないですか。犯人側の心情や動機を知ると、事件を起こしてしまう心情にも共感できる。「自分も同じ立場だったら?」と考えてしまうんですよね。被害者から見れば容疑者は「悪」かもしれないことが、容疑者にとっては「正義」の場合もある。その人の立場や事情によって、真実の見え方が変わってくるということは、推理小説から学んだのかもしれないです。

ーー今のお話は、前回のインタビューでおっしゃっていた「『正解は一つじゃない』という時代にますますなってきて、その一方で非寛容さが問題となった1年」「『こうあるべきだ』みたいな規範と人は、どう対峙すべきか?」が大切だという話とも通じる気がします。

loundraw:本当にそう思います。例えば二度目の緊急事態宣言が出された今、不要不急の外出は控えるように言われています。が、本当に全員が外に出なかったら社会は回らない。理想論と現実論が相反する状態で、正論だけでは社会は回らないことを突きつけられているわけですよね。そういう場合に他者の考えを認めること、お互いの落としどころをポジティブに模索していくことの重要性を改めてこの1年で強く感じました。

ーーマスクで「声」が塞がれている現在だからこそ、その重要性が増しているような気がします。

loundraw:テキストとは違うなと改めて思いますね。マスクで表情が見えなくなったとしても、マスク越しでも直接話してみると、メールのみでのやり取りとは印象が全く違っています。声の情報があるだけで意味も伝わりやすくなるし、感情が乗るからテキストよりも「心のやりとり」ができる。人の体から発せられるものがいかに重要か、簡単にテクノロジーで置き換えられるものではないことを、この1年で思い知らされましたからね。

T.B.A:人間が他人に及ぼす影響は言葉だけじゃない。声色や表情によって情報量が何倍にも増幅することがあるわけですから。

KOJIMA:例えばレコーディングでも、面と向かって話している時に出てくるアイデアは膨大だなと思う。時に笑いながら、時に怒りながらのやり取りがどれだけ大切だったかを、コロナ禍でとても実感しているところがあって。事前にオンライン上でアイデアを詰めたとしても、いざ当日スタジオに入ると「まだこんなにあったのか」と思うくらい、アイデアが溢れ出るんです。それがすごく嬉しいし楽しくて。そのことを知らしめてくれた2020年は、貴重な年だったなとも思います。

ーー『CHRONICLE』はコロナ禍の前からスタートしたプロジェクトでしたが、物語の部分でコロナ禍が何かしらの影響を与えていますか?

loundraw:物語の世界観や設定など、本筋の部分は基本的には変わっていません。むしろ、どんな時代であっても普遍的なことを伝えていきたいと思っています。ただ、『CHRONICLE』にとって重要な要素である「声」や「音楽」が、コロナ禍で不要不急なものとされているというか。「果たして僕らが作っている作品は、人々にとって必要なものなのか?」ということはすごく考えるようになりました。その上で今は、「不要不急」と言われるアートやエンターテインメントこそが、人の心を支えていると強く感じています。その思いはきっと、物語に反映されていくのだろうなと思いますね。

ーーアルバム最後に収録された「三番線」のみ、作詞・作曲・編曲がCHRONICLE名義になっていますね。

loundraw:「三番線」は、レコーディングの最後にようやく出来た曲です。それまで3人で色々と意見交換をしながらコミュニケーションが円滑に取れるようになってきたところで、最後は個々の役割分担を超えてゼロから一緒に作ってみようという話になって。それで取り掛かったのがこの曲です。実は、最初のデモと仮の歌詞はT.B.Aが作っているんです。そこから3人で肉付けしたり、逆に削ぎ落としたりしながら完成させていったので、作詞作曲編曲はCHRONICLE名義となったわけです。

T.B.A:KOJIMAくんの素晴らしい楽曲が並ぶ中、最後に自分の曲で締めるなんておこがましくてめちゃくちゃプレッシャーでした(笑)。最初は全く曲が思い浮かばなかったんですけど、締め切りのギリギリになってようやく上げることができてほっとしましたね。

KOJIMA:「宇宙」を発表してから1年以上経つのかな。長い時間コツコツと作品を作っていくうちに、我々ならではの制作スタイルみたいなものが、ようやく固まってきた感じはありますね。だからこそ、この「三番線」が出来上がったわけですし、「3人で一つのものを作る」というテーマにおいては、まだまだ色々なアプローチがありそうだなとも感じています。今後はそこを追求しつつ、3人がもっと深く交わりながら作品が作れるようにしたいですね。

ーーすでに、次の構想は練っているのですか?

loundraw:構想はありますが、正直、今はまだまっさらな状態です(笑)。ただ、次はちょっと変わったアプローチもしたいなと思っているので、それはこれからメンバー、スタッフさんと相談します。時間軸としては、次は過去や未来のエピソードももう少し入ってくるかもしれないけれど、現代編でもまだ描ききれていないことがたくさんあるので、しばらくはこの現代編が続くと思います。期待していてください。

(※1 CINRA.NET CHRONICLEの音楽は人と共に変化する。「正解は一つじゃない」 https://www.cinra.net/interview/201908-chronicle_yjmdca)

■リリース情報
1st Album 『CHRONICLE』
2021年3月3日(水)リリース
品番:BVCL-1039
価格:¥3,000(税抜)
予約&購入はこちらから
<収録曲>
01.   宇宙(Cosmos)-album ver.-
02.   いつか飛べなくなるとして。(Till I lose my wings)
03.   深層サーチャー(Truth seeker)
04.   轍の唄(The song of ruts)
05.   救世主(Savior)
06.   呼吸(Breath)
07.   夕景(Twilight)
08.   full name
09.   ヒカリ(light)
10.   三番線(Track 3)
 
CHRONICLE公式サイト
CHRONICLEオフィシャルTwitter:@crncl_city

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