バンド生活30年の人間椅子が語る、活動の軌跡 「ようやく今は世界中の人に伝わるロックの歌詞が心から書ける」

「生きる」という方に向けて作品を作りたい

ーー穿った見方であることは承知なんですが、ハードロックとかメタルって歌詞を注意深く聴く音楽ではないじゃないですか。

和嶋:割と定型になっちゃいますよね。とにかく権力者をディスるみたいな(笑)。それか死への恐怖とか、大体そのどっちかなんですよ。その定型に陥らないようにっていうのは、常に意識してるかもしれないです。

ーーときに方言も用いながら、味わい深い日本語詞を歌い続けてきましたよね。

和嶋:単純に“死”について書くとして、よくある気味悪さや恐怖だけを語っても、自分の言葉じゃない気がするというか。

和嶋慎治

ーーいま“死”と“恐怖”とおっしゃいましたが、例えば〈独り見知らぬ畦道行けども行けども行けども針の山〉〈血だるま火だるま俺は堕ちてゆく〉(「針の山」)に代表されるように、進んでも進んでも地獄だってことを歌うのは変わらない部分ですよね。人間椅子で歌いたいことって、改めてどういうことなんだと思いますか。

和嶋:昔からずっと社会への違和感とかを書きたかったんですよね。つまりはロックっぽいことを言いたかった。反権力に関してもそうです。でも、昔と違うなって思うのは、売れない時代が20年くらい続いて、アルバイトやって苦しい生活をしたことで、報われない人の気持ちが肌でわかったんですよ。それでようやく今はロックの歌詞が書ける、世界中の人に伝わる歌詞が本当に心から書けるんじゃないかって思うんです。例えば「君のことを最後まで愛し続ける」みたいな歌詞ってあると思うんですけど、あんまりロックっぽくはないですよね。どっちかと言うと「女に見捨てられて苦しくて仕方ない」っていうのがロックの歌詞なわけですけど、売れない時代が長くあったことで、そういう人間の苦しみを昇華させる歌詞を芯の部分で歌えるようになったんじゃないかと思っていますね。30年前からやりたいことは同じなんですけど、内容は濃くなったかもしれないです。

NINGEN ISU/Hell's Mountain Of Needles (LIVE)〔人間椅子/針の山・ライブ映像〕

ーーもっと言うと、“売れなかった時代”の楽曲たちは、暗い場所からさらに深淵を覗き込むような曲が多かったと思うんです。でも最近の楽曲だと、立っている場所自体は変わらず暗闇でも、しっかり光差す方を見上げているという点では以前と違っていると思っていて。最新の代表曲「無情のスキャット」は、リフの刻み方にしても歌詞にしても、光に向かって歌っている感じがありますよね。

和嶋:やっぱり生きることへの希望を持たせたいなと思うんですよ。スーサイドの方向へは持っていきたくない。じゃないと聴いてる人が辛くてたまらんだろう......っていうか自分が辛いんですよね。だから「生きる」っていう方に向けて作品は作りたいなと思いますし、まさにバンドが上向きになり始めた2013年の頃からずっと心がけているんです。鈴木くんの書く曲も、地獄の怖い歌だけど意外とカラッとしていて明るいんですよ。そういうのが救いになりますよね。

ーーそうやって変わっていけたのはどうしてなんでしょうか。

和嶋:昔は割と後ろ向きだったというか、たぶん自分のために曲を書いてたんですよね。でも今は人のために、人に向かって曲を書いている。だから結果的にそういうメッセージになるんじゃないですかね。人に向かって「Death」とは言えないし、やっぱり「Live」って言わなきゃダメなんですよ。我々は聴いてくれる人に生かされてるし、ライブに来るお客さんがいて成り立ってるってことが、売れない時代を経てありありとわかったんで。だからそういう人たちに向かって、僕らなりの励ましっていうことなんでしょうね。映画でもお客さんが一緒にお祝いしてくれてる感じが映ってて、「本当にお客さんあっての僕らだな。いい映画だな」と思いましたよ、改めて。

NINGEN ISU / Heartless Scat(人間椅子 / 無情のスキャット)

鈴木:中野サンプラザが満員になったのも、何割かのお客さんはご祝儀で来てくれてるからだと思うんですよね。いつもならあんなに入るはずないから(笑)。「昔よく見ていたから、久々に行こうかな」なんて思ってる人が中野サンプラザにたくさん集まってくれたんだと思います。

ーーでも、どんどんファンを獲得して大きくなってるバンドっていう印象ですよ。ライブの動員はもちろん、YouTubeの再生回数だってそうだと思いますし。

ナカジマ:お子さんの手が離れたっていう理由で、また来てくれるようになった人とかは確かにいますね。あとはもともと親子で好きだった方とか。

ーー親がハードロック好きだと、子どもも好きになる可能性は高いんじゃないかと思います。

ナカジマ:確かにお父さんのCD聴いてカッコよかったから来たっていう人もいたかな。音楽って、やる方も聴く方も年齢にこだわらなくていいんだよってなったのって、ここ10年くらいじゃないかなと思っていて。僕が若いころは「30歳でまだバンドやってんの?」「もう年とったらロックじゃないでしょ」みたいな空気があったと思うんです。でも今はそういうのが全くないじゃないですか。それも幸せな時代なのかなと思いますね。

ナカジマノブ

ーーそうなったのも人間椅子のようなバンドが続けてきてくれたからこそだと思います。個人的にも『Ozzfest Japan 2013』で出会えなかったら、人間椅子の楽曲との出会い自体もなかったかもしれないので。

ナカジマ: そうか。『Ozzfest Japan 2013』のときいくつだったってこと?

ーー自分は大学2年生でした。

和嶋:そりゃあ当時は知らないですよね。『イカ天』の話しちゃってすいません(笑)。

映画の見どころとバンドの未来

ーーいえいえ(笑)。では、せっかくなのでお一人ずつ、映画の見どころをお伺いしてもいいでしょうか。

ナカジマ:映像はもちろんですけど、音質にもすごくこだわったんですよ。ちゃんと作り込んだサウンドになっているので、ぜひでっかい音で、でっかいスクリーンで観てほしいですね。というより僕が観たいんです。試写会も舞台挨拶も今のところ特にないので、何とかして観にいっちゃおうかなって思ってる(笑)。

和嶋:いわゆる中野サンプラザの記録映像だけで終わるんじゃなく、間にテキストや回想シーンが入ったりして、すごく映画的な作りになってるので、普段のライブを観るのとはまた違った楽しみ方ができていいですよね。ヨーロッパツアーの映像も入ってますんで、まだまだバンドは続くだろうなというのを感じてもらえればと思います。

鈴木:ライブじゃないところにいろいろ面白いシーンがあって。こんなにたくさんのスタッフが一つのライブに関わっているのもわかるし、チラッと映る楽屋が全然和気あいあいとしてない感じも僕らっぽくていいなと思います(笑)。あと一番気に入ってるシーンは、ライブが完全に終わって自分はもう楽屋に戻ってるのに、まだノブがステージ上でなんか喋ってるっていう(笑)。

鈴木研一

ーーはははははは。自分もそのシーンは笑いました。

ナカジマ:あれはおかしかったよね! ケンちゃんもう戻ってるのに。

鈴木:あの回だけじゃなくて、すべてのライブがそうなんです。まだノブがなんか言ってるよっていつも思ってるんだけど、それが映像として残ってよかったなと(笑)。

ナカジマ:こういう風にお互いを見れたのは初めてだからね(笑)。

ーー人間椅子は30年で21作のアルバムをリリースされているんですよね。音楽性も貫きつつ、もの凄い多作ぶりだと思うんですけど、創作の源は一体何なんでしょうか。

和嶋:うーん……コンスタントに出すことを自らに課してる部分はありますね。アルバム出さないと不安なんですよ。すごく売れた人はアルバム出さなくても許されるかもしれないけど、僕らは作品を発表してライブをやることで認めていただけるっていうか。自分たちがロックバンドだなっていう手応えを得られるのは、やっぱりこのスタンスなんです。

鈴木:僕は1枚アルバム作ってツアーをやると、だいたい2〜3回目くらいのライブで「聴いてる方も飽きてくるんじゃないかな」と想像してしまうんですけど、そうするとやってる方もどんどん飽きてくるんですよ(笑)。だから新しい曲を作ってみんなに聴かせたくなるし、飽きたなと思われるのが嫌なので。

和嶋:そうだね。過去曲だけでずっとツアーをやるのは苦痛だなぁ(笑)。聴いたことない曲で人をびっくりさせたいんですよ。

鈴木:新ネタがなくてもちょこまかと楽器を変えたり、衣装やエフェクターを変えたりとかさ、少しでも変化を出して新ネタっぽく更新していくんだけど、それも3回くらいやるとネタが尽きるので。新曲を作らなきゃって思うようになるから。

ーー鈴木さんは今どんな新曲を作りたいんでしょう?

鈴木:『新青年』は30周年の大きいライブをやるっていう目標がありながら作ったアルバムなので、結果的にノリのいい曲が多かったけど、せっかく31年目になったんだからまったく違う、ノリたくてもノレないような、どんよりした曲を作りたいなって思います。どよーんとしたのが!

ーー前作とはまた違う作風になりそうとのことで、早くも楽しみです。

和嶋:じゃあ次回作も楽しみっていうことで、これからもよろしくお願いします!

ナカジマ:和嶋くんが締めちゃうんだ(笑)。

『映画 人間椅子 バンド生活三十年』

■映画情報
『映画 人間椅子 バンド生活三十年』
出演:⼈間椅⼦
和嶋慎治(Guitar&Vocal)
鈴⽊研⼀(Bass&Vocal)
ナカジマノブ(Drum&Vocal)
監督:岩⽊勇⼀郎
企画・製作:スピード
協⼒:徳間ジャパンコミュニケーションズ
配給:ティ・ジョイ
映画の詳細はこちら
(C) 2020 映画 ⼈間椅⼦ バンド⽣活三⼗年 製作委員会

■配信ライブ情報
『帰ってきた人間椅子倶楽部~配信ライブ編~』
YouTubeにてプレミア公開中 アーカイブ視聴はこちら

■関連リンク
人間椅子 公式HP
人間椅子 Official Twitter(@ningenisu_staff)
人間椅子 オンラインストア

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