『MEMORIES』インタビュー

<Chilly Source>より1st EPリリースの15MUSが語る、自身の音楽性がもつ“切なさ”の根幹

 チルなHIPHOPを中心に様々なクリエイティブを発信しているライフスタイルレーベル<Chilly Source>所属のトラックメイカー/MCの15MUS(フィフティーンマス)が、1st EP『MEMORIES』を9月15日にリリースした。レーベルメイトでもあるケンチンミンも収録曲に参加した本作は、情景が伝わるリリックと深みのある歌声に切なくメロディアスなサウンドが重なり、聴く者をメロウでノスタルジーな気持ちにさせる1枚に仕上がっている。自身初となった今回のインタビューは、音楽的ルーツや<Chilly Source>との出会い(取材にはDJ KROも同席)、常にチャレンジ精神を忘れない姿勢など、まだまだ謎多き15MUSの人柄も垣間見れる内容となった。(編集部)

15MUSの音楽的ルーツ、<Chilly Source>との出会い


——まずはこれまでの音楽遍歴からお伺いしたいのですが、15MUSさんはプロフィールによると「バンド活動を経てトラックメイカー兼MCに転身」されたそうですね。

15MUS:はい。元々はバンドでベースを弾いてました。ジャンルも今とは全然違って、エモやハードコア系のゴリゴリで重たい音楽をやっていたんです。僕は昔からひとつのジャンルにこだわるタイプではなくて、J-POPもロックも聴くし、ゆずを聴く一方でThe Usedというハードコアバンドも好きで。自分のバンドでは6〜7年ぐらい活動して、シャウトも担当してました。

——かなりユニークな経歴をお持ちですが、音楽そのものにハマったきっかけは?

15MUS:それは幼少期にさかのぼりますね。僕が小さい頃は小室哲哉のTKファミリーが時代を謳歌していて、テレビやラジオから流れてくるJ-POPを聴いては、よく歌ったりしてたんです。その90年代に出会った音楽は、今僕が作っている音楽のメロディに間違いなく影響を与えていて。当時の音楽はサビがすごくキャッチーで、槇原敬之の「どんなときも。」とか、一度聴いただけで口ずさめるじゃないですか。僕はいろんな音楽をやってきましたけど、すべての原点は90年代のJ-POPにあると思います。

——ただ、それと同時にハードコアのような音楽も聴かれるようになって。

15MUS:学生時代はパンクからメロディックハードコアまで聴いていましたね。Hi-STANDARDを聴いてギターを弾いたりして。その一方で、姉が家でRHYMESTERやケツメイシ、NITRO MICROPHONE UNDERGROUND、RYO the Skywalkerなどをよく聴いていたので、当時からヒップホップやレゲエもたまに聴いていたんです。そのときにいちばん衝撃を受けたのが、RHYMESTERの『ウワサの伴奏-And The Band Played On-』(2002年)というアルバムです。クレイジーケンバンドとコラボした「肉体関係part2」とかSUPER BUTTER DOGとの曲「This Y'all,That Y'all」を聴いて単純にかっこいいなと思いましたね。ただ、そのときはまだ自分でヒップホップをやろうとは思わなくて。

——では、そこからどのような経緯で、現在のように自分でトラックメイクをしたりMCを行うようになったのでしょうか。

15MUS:さっき話したバンドのデモ音源とかを作るためにMacを購入したんですけど、その直後に(バンドが)解散しちゃったんですよ(笑)。でも自分としては音楽を続けていきたかったので、新しいバンドに入るためにデモを作り始めて、そこでDTMに触れるようになったんです。ただ、一緒にやろうとしたバンドやプロジェクトの人たちとどうも足並みが揃わなかったので、ひとりで音楽を作るようになりました。なかなかうまくいかなくて、音楽から離れて働いていた時期もあったんですけど、やっぱりどこかで諦めきれない気持ちがずっとあったんですよ。なので節目的な年齢になったときに、もう一度音楽をやろうと決心して。そのとき、友達にWEBが得意なやつがいたので、一緒にWEBサービスを立ち上げたんです。実はそのサービスの名前が、今の自分のアーティスト名でもある『15MUS』だったんですよね。

——それはどんなサービスだったんですか?

15MUS:ユーザーが曲の速さや曲調、一言コメントなんかを入力すると、その内容に合わせて15秒の音楽を作ってもらえる、というサービスでした。そこから何かが繋がらないかなと思ったんですけど、いまいち反応がなくて。そこでEDMからチップチューン、エレクトロニカまで、自分が作ったいろんなジャンルのトラックをYouTube上にアップし始めたら、そのなかでヒップホップのトラックに良い反応が返ってきたので、「自分にはこれが向いてるのかな?」と思って、そういうトラックをたくさん上げるようになったんです。ただ、「この曲を使っていいですか?」とか「このトラックを使ってライブしました」という反応はあるんですけど、いまいち前に進んでいる感じがしなくて。そのとき友達に「リファレンス的な意味で自分で歌ったものをアップしてみれば?」と言われたので、試しに自分で歌ってみたら、「これいいからそのまま配信しちゃえよ」という話になって(笑)。それで「DOOR」という曲を第1弾で配信したんです。

——2018年1月に配信された楽曲ですね。それにしても思い切りがいいというか(笑)。

15MUS:自分の根底には「何もやらないより何かやったほうがいい」という考えがずっとあるんです。下手だろうが何だろうが、人に見せてなんぼですから。だから「とりあえず出しちゃえ!」みたいな(笑)。そしたらぼちぼち反応があったので、僕もいいペースで曲を出すようになって。でも、たくさんの人に聴いてもらうためには、広めてくれる人や場所が必要じゃないですか。そこで「CITY」という曲が出来たときに、<Chilly Source>に音源を送ってみたんです。

15MUS - CITY

——なぜ、<Chilly Source>に音源を送ろうと思ったのですか?

15MUS:<Chilly Source>のことは友達から教えてもらって、いちばん最初はYouTubeチャンネルを観たんです。そこでillmoreくんのMVを観て、「俺もこんなお洒落な人たちと何かやりたい!」と思ったんですよね。自分は当時制作で家にいることが多かったので、そういうチルでお洒落な人たちは僕の中で対極の存在だったんです。シンプルにいうと、ただかっこいいという話なんですけど、そのときの俺にはオアシスみたいに見えたんですよね。だから「俺なんか相手にされないだろうなあ」と思いながらも、とりあえず意見だけでももらえればと思って、YouTubeのURLと「聴いてください」ってひと言添えたメールを送ったんです。そしたら次の日に連絡をくれて、打ち合わせをしたいということで、KRO(DJ KRO)くんとillmoreくんに渋谷の宇田川町のカフェで会うことになって。

DJ KRO:<Chilly Source>に音源を送ってくれる方は結構いるんですけど、しっくりくる人というのはなかなかいないんですよ。そんなときに、本当に「よかったら聴いてください」という一文とリンクだけ書かれたメールがきたので、「またそういう感じか〜」と思って聴いたら「めっちゃいいやん!」ってなって。illmoreも「この人ヤバくない?」という反応だったんですけど、「この人、絶対若くて調子に乗ってる感じだよね」っていう話になって(笑)。なので、一度直接会ってみて、どんな人なのか見極めてから話をしてみようということで、打ち合わせのお誘いをしたんです。「CITY」はMVのセンスも良かったし、他の今まで送ってもらっていた音源と比べても際立って僕らの好きな感じだったので


15MUS:改めて言われると恥ずかしいですね(笑)。僕も当時のKROくんのTwitterの写真がモノクロで怖そうだったので、「ウェーイ!」って感じできたらどうしようと思ってたんですけど、そしたらめっちゃ声の高い人と腰の低いニコニコした人が待ってて。しかもテーブル席の僕の向かい側にillmoreくん、隣にKROくんが座って、「向かいに2人並んで座ると威圧的になるかなと思って」って気遣いしてくれたから、どんだけいい人たちなんだと思って(笑)。そこから僕が<Chilly Source>のイベントに通うようになって、illmoreくんの『ivy』(2018年)というアルバムで1曲歌うことになったり(「怒らないで feat. 15MUS」)、交流が続いていったんです。で、<Chilly Source>がコンピの第1弾(『Chilly Source Compil Vol.1』)をリリースするタイミングで「(レーベルに)入らない?」という話をもらって、参加するようになりました。

——先ほど「15MUSは元々WEBサービスだった」というお話もありましたが、そういったDIY精神は<Chilly Source>というレーベルの特徴でもありますし、15MUSさんとしても共感できる部分が多かったのでは?

15MUS:たしかに、<Chilly Source>自体がいろんなクリエイターの集まりですからね。音源を送った当時はトラックメイクや空間プロデュースの部分しか知らなかったですけど、アーティストのプロデュースから映像制作、アパレルまで全部自分たちでやっているし、みんな何かに縛られることなく、各々が能動的に動いてるんですよ。僕はそういうのがすごく好きだったし、誰かが何かをやらないことで足を引っ張られたり、足並みが揃わないという経験があったので、ここなら自分と同じ空気感で勝手に動ける人たちがいていいなあと思いました。

——制作環境においても風通しのよさがあると。

15MUS:僕はずっとひとりで制作してきたし、何事もすぐ進めたい性質なんですよ。今回のEPも人とやり取りする時間すら待てないから、結果的にマスタリングまで全部自分でやりましたし。自分は凝り性なので、楽曲に関しては余程のことがない限り、人に任せても一発では納得いかないんですよね。バンドをやってたときは一歩引く部分がありましたけど、そこに不自然さを抱えたまま音楽をやってて。でも、ひとりで音楽を始めたら、どこまでも作り込めることがすごく楽しかったんですよね。

——<Chilly Source>はそういう制作スタイルを受け入れてくれる場所でもあったんですね。

15MUS:そうですね、何も言ってこないというと語弊がありますけど(笑)、自分のことを信頼してくれてるというか。たぶん俺のキャラクターを認めてくれてるんだと思います。<Chilly Source>のチームはみんなそれぞれキャラが立ってて、pinokoちゃんもケンチンミンくんもillmoreくんもみんなキャラが違うんですよ。その中で15MUSというキャラのことも理解してくれているから、すごくやりやすいですね。

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