『ゼロは最強』インタビュー

TAKAHIROが明かす、ダンスを通じた変化と独創的な振付を生む秘訣「多重視点を持つことが大切」

「“双方向”というのはとても大事なポイント」

ーー本の中で近年手掛けた振付のお仕事についても書かれていましたが、アクロバットとダンスのバランスを練ったというA.B.C-Zの「Rock with U」(アルバム『VS 5』収録)の解説もすごく面白くて。本には載っていない最近のお仕事についてもうかがえたらと思うんです。例えばMVが衝撃的な欅坂46の新曲「黒い羊」(2月27日リリース)については、楽曲の世界観をどんな風に考えてメンバーのみなさんと共有されたのでしょうか。

欅坂46 『黒い羊』

TAKAHIRO:「黒い羊」という楽曲では“向き合う”ことが物語の大きな鍵になっています。MVには世の中に辟易としている登場人物が登場するんですけど、その人が辟易として生きるその世界の奥に、もうひとつの世界があって……歌詞の裏にある叫びが聞こえて初めて、この楽曲やMVに込められた世界観が伝わるんじゃないかと思います。表面上で聞こえる言葉と、その裏で叫んでいる言葉、歌詞には2通りの意味があると思うんです。このMVではその、歌詞の裏にある主人公の叫びというものが少し垣間みれるのではないかと感じています。本曲の「黒い羊」の黒は視覚的な色ではなく“心の形の色”だと僕は思っていて、メンバーにもそう話しました。誰もが日常的に白い羊を演じているけれども、その心の中には黒い羊が潜んでいる。そういうコントラストが見え隠れするのもあのMVの魅力だと思っています。

ーー拝見していて、明言はされていないけれども情報量がすごく多いなと感じました。

TAKAHIRO:すべての登場人物やエキストラさん、セットに置いてある一つ一つのものにも実はストーリーが隠されている。今回の作品においては、それをどう感じるかも見る人によって変わってくると思うんです。メンバーに振付をお伝えするときに、この作品の中の白と黒ってなんだろう? という話をしました。1階、2階、3階で起こる出来事では心象の階層を分けた動きにしました。あのMVに出てくる1~3階のシーンではそれぞれ心のフェーズが違うんです。人と“向きあう”ことにも段階があることを話しながらメンバーのみなさんとは世界観を共有していきました。

ーー欅坂のみなさんが作品数を重ねるごとに作品への解釈が深くなったり、世界観を速くつかむようになるといった変化は感じますか?

TAKAHIRO:感じますし、メンバーのみなさんから質問してくださることが増えました。なるほどわかりました、ではなくて「歌詞のここに関してはどういう気持ちだと思いますか?」とか「この瞬間の登場人物の気持ちに引っ掛かりを感じていて、どうやったら見ている人に伝えられるでしょうか?」とか。もう振付に関してメンバー1人1人が自分の意思で能動的に考え、コミュニケーションの取り方もレクチャーからディスカッションが多くなってきています。新しい意見、新しい答えに僕自身もなるほどと作品を変化させたり、いちクリエイターとしてこの形のほうが伝わると思う、と意見したりしながら振付を成長させています。

ーーこの振付をジャンルで切るとすればコンテンポラリーダンスという位置づけになると思うんですが、演劇的な要素もありますね。

TAKAHIRO:そうですね。彼女たちのパフォーマンスに関しては、振りなのか演技なのかという、曖昧な境界線を歩んでいっている気がします。ジャンルや定義より「どうこの曲を届けるか」を考えている結果であり過程が今の姿なのだと思います。

ーー本の中に「ダンスとはコミュニケーションとしての表現」という言葉がありましたけど、TAKAHIROさんの振付が双方向のコミュニケーションで完成していく様子がこれまでのお話でよくわかりました。

TAKAHIRO:大学生のころ、初めてダンススタジオで教えたときに、当時の自分の中で最強だと思っていた曲と一番イケてると思っていた振りを用意していったんですよ。でもそれで授業したら、みんな泣いちゃったり、スタジオから出ていっちゃう生徒もいて……。その子たちは、みんなが知っているような曲で楽しくダンスを始めたいと思っていたはずな人です。でも僕が「まずはカマキリのポーズから! カマキリの攻撃性をもっと出して!」みたいな感じで、これが今最先端の表現だ! みたいなスタンスで教えようとしていたので、怖がられちゃったんです(笑)。自分がいいと思っていることを伝えることが、必ずしも受取り手である演者さんにとっていいものじゃないんだなって、そのときに理解して。だから双方向というのはとても大事なポイントで、その方がいいと思うものがあるとして、それにさらに光を当てるような形で輝かせるにはどうしたらいいか。それを考えるのが自分の経験と技術と、ひらめきなのかなと思ってやっています。

ーーでは、ダンサーやアーティストに限らず、現在お仕事でかかわっている中で興味深い演者さんはいらっしゃいますか?

TAKAHIRO:お笑い芸人さんは、やっぱりすごいなと思います。ピコ太郎さん、小島よしおさんとか。いい振り思いついた! と思ったら「それピコ太郎さんがやってます」みたいなことがたまにあります。お笑いの一発ネタには一瞬で刺さる、メッセージ性がある動きが多いと思いますよ。

ーー振付を手掛けられた中にも芸人も参加するアイドルグループの吉本坂46がいますね。デビュー曲の「泣かせてくれよ」はミュージカル調の振付でしたが、やり取りしていて面白かったところはありますか?

吉本坂46 『泣かせてくれよ』Music Video

TAKAHIRO:フリー(注※振りなどの指定がない)に強いこと。自由にしていただいたときに、これはすごい! と思うポイントがたくさんありました。あとは個性の塊同士なのでもっと散らかるかと思っていたんですけど、一つの作品を作り上げることに関してはみなさんストイックでした。今回は個性溢れる方々が一つの方向に向かって一つの気持ちで走りだしました、という第一のストーリーの曲だと思うのでまとまりやすい形にまとめましたけど、実は振付も何通りか考えていて、それぞれの個性爆発パターンもあったんです。まだまだポテンシャルを秘めまくっている方々なので、振りを付けるにしても発展性があるグループだなと。

ーー最後に、前回の取材でも少しお話を聞いたと思うんですが、ここ近年のダンサーや振付師の世間での扱いについて感じていることはありますか?

TAKAHIRO:15年くらい前に、自分の活動をテレビで取り上げてほしいと思って、番組側に問い合わせたことがあるんです。でも、バレエは取り上げるけどストリートダンスは取り上げられないと言われました。それはなぜかというと、ストリートダンスはサブカルチャーの範疇のもので、国民のみんなが知るような文化とはまた違うからという回答でした。僕はこの現実に小さな風穴を開けたいと目標にして、ドキュメント番組に出るのを目標にして、実際に2010年にストリートダンサーとして初めて『情熱大陸』に出ました。NYに住んでいたころはダンサーにも労働組合があって、一つの職業として確立されていました。自分は日本ではダンサーのための労働運動をしようというよりも自分が世に出ていくことで、見ている人が少しでもダンスのことを知ってくれたらいいなという考えでしたね。夢は世間のみなさんが、野球について選手の名前、音楽についてミュージシャンの名前を挙げて話すように、「仲宗根梨乃さんの振付がいいよね」とか「私は菅原小春さんのダンスが好き」とか、振付師やダンサーについて名前を言い合って話してくれる日がくること。それにはまず自分がそういったプレイヤーの1人に入ることから始めないとと思っていて、さきほどのテレビの話もそうですが、それを一つのテーマとして活動してきました。

ーーこの2~3年でもだいぶ状況が変わってきましたし、そういう意味での夜明けは近いと感じます。

TAKAHIRO:踊り続けてきたら振付のお仕事をいただくようになって、少しずつ世界が広がってきました。最近は音楽番組でもダンサーや振付師、学校のダンス部が話題になることも多くて、幸せな時代になったと思います。今はダンスにとっていい時代、でももっといい時代にするために何をできるかを考えています。その近道は、いつも目の前にあると思っています。目の前のクリエイションをより良いものにしていくことで、流れもより良くなると確信しています。

(取材・文=古知屋ジュン/写真=篠山紀信、スタイリスト:小林新(UM)、ヘアメイク:中山智史(TRAVOLTA))

TAKAHIRO『ゼロは最強』(光文社)

■発売情報
TAKAHIRO
エッセイ『ゼロは最強』(光文社)
発売:2月20日(水)
四六判ソフトカバー
予頁:216P
本体1400円+税

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