『WINDNESS』インタビュー

Ghost like girlfriendが明かす、シンガーソングライターとしての覚悟「沢山の人に知ってほしい気持ちがある」

 シンガーソングライター岡林健勝によるソロプロジェクト、Ghost like girlfriendが3rdミニアルバム『WINDNESS』をリリースした。2017年5月リリースの1stミニアルバム『WEAKNESS』に収録された「fallin’」という一曲をきっかけに、まるで波紋のように名を知らしめてきた彼。その後2018年7月にリリースされた2ndミニアルバム『WITNESS』、そして本作で、いよいよその実像が見えてきた感がある。

 作詞作曲とトラックメイクを自ら行い、繊細な内面性とアーバンなポップセンスを兼ね備えた楽曲を手掛けてきた彼。サウンドやアレンジの自由度は高く曲調も幅広いが、その核には「彼女に似た幽霊」という名前が象徴するような、孤独と親密さが隣り合った感性があるように感じる。

 彼は何を思い、どんな光景を見据えてGhost like girlfriendとして音楽を作っているのか。当サイト初のインタビューで語ってもらった。(柴那典)

新しいシンガーソングライター像を作りたい 

ーー新作の『WINDNESS』、すごく格好良かったです。特にリード曲の「shut it up」が、これまでの曲と全然違う曲調で。Ghost like girlfriendが最初に注目を集めた曲が「fallin’」だったんで、そういう曲調を続けてくるかと思いきや「こう来るか!」と思って、そこが最高でした。

岡林:ありがとうございます。「fallin’」っていう楽曲も、自分がいろんな曲を書く上でのパターンの一個としてしか捉えていなかったので、ああいうニュアンスの曲を書き続けるという発想は、このプロジェクトを始めた段階から全くなかったんです。なので、そう言ってもらえるのはすごく嬉しいです。

ーーGhost like girlfriendというプロジェクトが始まった段階では、どういう発想があったんでしょう?

岡林:そもそもなんでこうなってるかと言うと、始まりでもあると同時に、実は1stミニアルバムだけで終わるかもしれないという可能性もあったんです。

ーー終わるかもしれない?

岡林:終わるというか、本名の名義で弾き語りをやっていた時に、いろいろ大人を信用できなくなる瞬間が結構ありまして。

ーー大人というのは、当時の事務所やレーベルのような周囲のスタッフのこと?

岡林:そうですね。スカウトしてくれた人が途中でいなくなったり、いろんなことがあって。本名名義でアルバムを出した時に、あんまりいい思い出ができなかったんです。一度チャンスを殺してしまったという自覚があった上でずっと続けてきたので、全国流通のお話をいただいた時に、悔いのないようにしようと最初に決めていて。その段階で持っていた自分のアイデアを全部注ぎ込んだのが『WEAKNESS』というアルバムでした。ゆえに次にどういう曲が書けるのかっていうビジョンは全くない状態だったので。一度ゼロにするつもりで作ったので、いろんな意味で「これはもう最初で最後かな」っていう気持ちはずっとありました。

ーー結果的には、『WEAKNESS』『WITNESS』『WINDNESS』と、三部作のアウトプットになっているわけですけれど、これは最初から考えていたことではなかった?

岡林:結論から言うと、これは後付けですね。三部作という発想も全くなかったですし、そのつど自分が出せるものを出していたら、たまたまこうなったっていう感じなので。こういうきれいな流れを作れたのは嬉しいんですけれど。

ーーということは、本名ではやらない、という発想からGhost like girlfriendというプロジェクトが始まったということでしょうか?

岡林:いや、『WEAKNESS』は、最初は本名名義で出すつもりではあったんです。

ーーそうだったんですね。

岡林:その頃から変わらず、今も自分はシンガーソングライターだという自負を持った状態でずっと活動はしているので。ただ、『WEAKNESS』は新しいシンガーソングライター像を作り出したいと思って作り始めたものでした。その頃は、実力不足もあって、自分自身が自分の曲を邪魔している感覚、自分が誇りに思っている楽曲の魅力をライブでも全部伝えきれてない実感があったんです。そこにも悩んでいた時期だったので、それを打開するため、音楽だけを届けるにはどうしたらいいんだろうっていうところから始めたプロジェクトです。

ーーなるほど。だから最初は顔も名前も伏せて匿名的な存在にした。

岡林:そうですね。本当に曲だけを聴いてもらうことを望んで、そういう形をとったんです。

ーーそこから、まずYouTubeにアップしたMVをきっかけに「fallin’」という曲が広まっていった。それはどういう手応えでした?

岡林:いまだに実感があるようでないような状態がずっと続いてる感じです。パラレルワールドの自分を見ているというか。だから不思議な実感はありますね。

Ghost like girlfriend - fallin'

ーーでは、今言った、「新しいシンガーソングライター像」というビジョンはどういうものだったんでしょう?

岡林:その頃、インディーシーンで特に自分がよく対バンしていたシンガーソングライターを見ていてそういう思いを抱くようになったんですけれど、歌詞、アレンジ、メロディ、この三つのうちどれか一個が秀でていたら、あとの二つはおざなりにしてもいい、みたいな発想の人が多かったんですよね。ちゃんと三つとも全部面白いことをやっている人がいない気がしたので、それを全部ちゃんとやるというルールが必要だと思ってて。そのルールを守りながら這い上がっていきたい気持ちがありました。それがあっての「新しいシンガーソングライター像を作りたい」という言葉でした。それを続けていって、メジャーシーンにも自分のやり方がどんどん浸透していったらいいんじゃないかなと思って。そういう気持ちで掲げはじめた言葉ではあります。

ーーGhost like girlfriendという言葉は、プロジェクトを始める時には思いついていたわけですよね。これはどういう由来だったんでしょう。

岡林:本名名義で活動していた時の楽曲の中から、一番印象的だった曲をモチーフに持ってこようというのがあって。20歳の頃に書いた「私が幽霊だったころ」という楽曲から「彼女」と「幽霊」という言葉を持ってきました。で、その曲を『WEAKNESS』を発売する直前に作った自主製作盤に収録していたんですけど、自分でつけたそのレーベル名に「like」という言葉があった。それで「Ghost like girlfriend」という言葉が2、3分でできたんですけれど。でも、よく考えると、彼女のような幽霊、いるかいないかわからないけど、確実に誰よりもそばにいるものっていうのが、自分にとっての音楽そのもののあり方だと思ったんですね。だから、自分にとってもそうだし、誰かにとっても、自分の音楽がそういう存在であってほしいっていう意味も込めています。

ーーその「幽霊のような存在」っていうのは、噛み砕くとどういうイメージなんでしょう?

岡林:信じる人もいれば、信じない人もいるし、それはどちらでもいいんです。いると思えばいると思えるし、いないと思えばいないと思えるし、解釈の仕方も人それぞれで自由。で、時に怖いなと思う時もあるけれど、一人の時とか、幽霊でもいいからいてほしいみたいなことを思うこともある。そういう感じです。時と場合によって見え方も変わってくるのが、自分の中での幽霊のイメージですね。

ーー「私が幽霊だったころ」という曲に描かれているのも、決して人を驚かせるような幽霊ではなく、もうちょっと親密な存在としての幽霊ですよね。

岡林:そうですね。カップルの話なんですけど、女性が亡くなったあと、四十九日までの間に、遺された男性の傍に寄り添うっていう楽曲なんです。それを20歳の時に作ったので、昔からそういうイメージはあったんですよね。だから、そういう優しい存在として、僕はこのプロジェクトに幽霊という言葉を使っているっていうのは大きいと思います。

ーーお話を聞いていてなんとなく思ったのは、「Ghost like girlfriend」というプロジェクトの名前が、名は体を表すという言葉のように、音楽をすごく説明していると思ったんですね。サウンドとかアレンジの幅は広いし、スタイルは自由で、どこにでも行ける。だけど、どこに行っても幽霊がついてくるように、ある種の孤独感と、それと表裏一体にある親密さがずっとある。そういうイメージは、この三部作に共通してるかもしれないと思うんです。

岡林:確かにそうですね。なんでしょうね。その時々で思ってることを全部書こうとは思ってるんですけど、ずっとある気持ちなんですよね。子供の頃から、「どこまで行ってもそんなに報われないだろう」という気持ちがずっとある。でも、それを悲しいとも思っていなくて。自分としても付き合い方がよくわかってないけど、ずっと付き合っていくんだろうなっていう寂しさがあるというか。それは今後も楽曲についてまわる雰囲気やテーマだったりするのかなとは思います。

ーーその上で、この三部作を聴いた感想なんですが、孤独感や喪失感を歌った曲なのに、サウンドにはある種のお洒落さや、都会的な感じがある。そういう風にサウンドと歌っていることが乖離しているところがある。そこが面白みになっていると思ったんですね。そういう意識は作っていてありましたか?

岡林:そこは曲を作る上では意識してる部分ではありますね。それをやってる理由は二つあって、一つはなるべく沢山の人に知ってほしい気持ちがあるからですね。歌詞だけを聴く人も、アレンジとかメロディだけを聴く人も、それぞれ違った楽しみ方を1曲でできるようにしたくて。そのためにあえて詞曲とアレンジを離したり、曲と詞とアレンジをあえて意図的に乖離させているところはあります。

ーーもう一つの理由は?

岡林:あとは、なんでしょうね、楽しすぎて泣いちゃうとか、泣きすぎて笑っちゃうとか、真逆のものがちゃんと存在しているのが、個人的に好きなんですよね。だから、今後もずっとそういう作り方はしていくんだと思います。

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