『décadence -デカダンス-』インタビュー
黒崎真音が明かす、“転機の1年”と『され竜』EDテーマで見つけた新たな表現
「『やってらんないな』みたいな気持ちは私の中にもある」
ーー具体的には歌詞のどのあたりにakaneさんのアイデアが反映されてます?
黒崎:サビのあたりなんかはけっこう力をお借りしました。何回か書き直してみたんですけど、なかなかサビ頭に似合うパワーワードが出てこなかったので、akaneさんが書いたものと見比べてみたら「あっ、こっちのほうが全然パワーがあるな」ということになって。あと〈くだらない御伽噺 賭けられるの その生命を〉なんかもそうですね。すごく『され竜』の世界観を意識したフレーズというか、聴いている人をちょっと煽っている感じが勢いがあってカッコいいな、という感じで。
ーー確かにここまで挑発的な詞は黒崎さんには珍しいですね。
黒崎:ちょっと普通じゃない感じを出したかったんです。『され竜』の舞台自体が現実からかなりかけ離れているし、登場人物もその現実に対して「どうなってんだ?」と思いながら目の前の敵と戦う生き方をしている。それがすごくカッコよかったので違和感とそれと対決する感じを歌詞の中に落とし込みたいな、と思ってました。
ーーそれって『され竜』の世界に言葉を与える職業作詞家的な発想からなんですか? それとも黒崎さん自身、現状に対する違和感を抱いているのか?
黒崎:『され竜』によって呼び起こされた感情ですね。これは今回だけではないんですけど、アニメのテーマソングの作詞のお話をいただいて、原作の小説やマンガやそのアニメ自体を見ていると、物語の中に「こういう気持ちわかるな」って思い当たるフシがあることがすごく多くて。で、そこから「なんでわかるんだろう?」「あっ、私もこういう気持ちになったことがあるからだ」と気付いて歌詞に落とし込んでいくことは今までも多々ありましたから。
ーーでは黒崎さんも『され竜』をトリガーに現状への違和感を呼び覚まされた?
黒崎:「毎日やってらんないな」みたいな気持ちは私の中にもあるな、って気付かされました(笑)。
ーーあはははは(笑)。
黒崎:スタッフさんにもファンの方にもホントによくしていただいているので「ははっ」って鼻で笑われそうな気もするんですけど(笑)、自分の中には常にあるんですよね。壁やハードルというか、悔しい気持ちや、思い通りに物事が進まないもどかしさは。『され竜』の中でも描かれているそういう感情にすごく共感ができたので、今回は自分のやさぐれた部分……ではないんですけど(笑)、怒りや苛立ちをパワーに変えるのがアニメソングとしても、黒崎真音の楽曲としても正解なのかな、という気はしています。
ーーこれまで楽曲の中で怒りを前面に押し出したことは……。
黒崎:シングルのカップリング曲やアルバム収録曲ではチョコチョコ書いてましたけど、タイトル曲ではなかったですね。自分の気持ちをグイグイ押し出すというアニメソングの作り方は好きじゃないので。タイアップ先の作品のことを第一に考えて歌詞を書きたいというポリシーがあるから、個人的な感情はなるべく反映させないようにしていたんですけど、さっきもお話したとおり、今回は『され竜』という作品と巡り会えるラッキーに恵まれたので(笑)。
ーー先ほどは『され竜』と巡り会えたおかげでアニメのテーマソングとして成立していながら、さらに黒崎真音の楽曲としてもネクストステップにふさわしいものが完成したとおっしゃってましたけど、メッセージ性の部分でも『され竜』との出合いによって黒崎真音性を強く打ち出せた?
黒崎:毎日の生活にめっちゃ不満があるってわけじゃないんですけど、「今、100%なりたい自分になれている人っているのかな?」という気持ちもありますし。ただ私自身は壁やハードルを目の前にしたとき「クソッ」と落ち込むのではなくて、その気持ちをパワーに変えたいタイプだから、むしろその「クソッ」っていうのは大切な感情なんです。だからこの曲を歌うたびにちゃんと「クソッ」って気持ちを思い出すようにしています(笑)。
ーーだからなんでしょうけど、黒崎さんのボーカルスタイルも過去作とはちょっと違います。威勢がいいというか、言葉を考えずに言うなら、まあガラが悪い(笑)。
黒崎:そうなんですよ! ディレクターさんからも「今回はボーカル、ぶん回していいよ」って言われたので……。
ーー回してやりましたか(笑)。
黒崎:回しまくりました(笑)。巻き舌なんかも「ここまでやっちゃうと、このテイクは使われないかな?」「やりすぎかな?」と思いながらも「まあやってみて、ダメだったらカットしてもらえばいいし」と思いながら、けっこうやっていて。この曲はなんか血管切れそうになりながら歌ってました(笑)。
ーーとはいえリスナーを苛つかせるピーキーな歌声にはなっていないですよね。
黒崎:ありがとうございます。いろいろ投げ出したいことはあるけど、けっして捨てはしない。そういう信念は持っているつもりなので、それが声に乗ってくれたのかなという気はします。ムカつくことはあるよ、思い通りにいかないことはあるよ、でも逃げはしないし、捨てはしない。この曲でもただ怒りをぶつけるだけじゃなくて、その先を見せたいって思っていましたから。それは歌詞にも現れていて、特に最後の〈哀しき薔薇と 言わせない〉っていうフレーズにはそういう思いをギュッと詰め込めたかな、と思ってます。
ーー途中までは〈哀しき薔薇と 言われても〉と哀しき薔薇呼ばわりを甘受していたヒロインが、最後にはNoを突きつけているかっこうですもんね。
黒崎:この曲には「一度地に落ちて、そこからジャンプする」みたいなイメージが自分の中にはあって。地に落ちるっていうと大げさすぎるのかもしれないんですけど、ベストアルバムを出すときにいったん落ち着いてしまった自分がいたんです。最初にお話したとおり「ベストアルバムを次へのステップに」とは思っていたんですけど「じゃあ黒崎真音が次に作る音楽やメッセージってなんだろう?」って。
ーー「そこからジャンプする」に至ったきっかけは?
黒崎:一つはベストアルバムを改めて聴き直してみたことですね。落ち着いてしまったとき「黒崎真音ってなんだろう?」「黒崎真音がわからない!」って悩んだりもしたんです。自分の思う黒崎真音の音楽と周りの人の思う黒崎真音のギャップに悩まされたというか。いただくファンレターを読んでみると、ファンの方がおっしゃることがバラバラなんですよ。デビューアルバムの『H.O.T.D.』(アニメ『学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD』エンディングテーマ集)で私を知った方はダークなヘヴィロックの人だと思っているんだけど、そのあと私自身は『とある魔術の禁書目録』というアニメと出合ってキラキラした「Magic∞world」を歌い踊っているし、平凡な日常を歌った「ハーモナイズ・クローバー」(アニメ『がっこうぐらし』エンディングテーマ)が好きだという方もいらっしゃいますし……。