姫乃たま『音楽のプロフェッショナルに聞く』009 縷縷夢兎 東佳苗

姫乃たまが縷縷夢兎 東佳苗に聞く、アイドル衣装制作にかける思いと“女の子”たちの魅力

●主人公になりたい女の子たち

ーー縷縷夢兎の独創性には、東さんが好きなファッション以外の、映画や音楽の要素も含まれていると思うのですが、特に映画の影響が大きいんでしょうか。

東:私は邦画にずっとフラストレーションがあって。ファッションやデザインなどのビジュアルに携わる仕事にしてる人にとって映画の服や美術、メイク、インテリア、構図もインスピレーションソースになり得るので、そういう視点で映画を観ることも多いのですが、邦画にはファンタジーよりリアルを重視する映画が多いのもあり、私達が観たい華やかなファッションは邦画にはなかなか登場しない。例えば『下妻物語』『さくらん』『ヘルタースケルター』『Dolls』くらいで数えるくらいしかない。

 私が好きな邦画に『ユモレスク-逆さまの蝶-』というのがあって。当時流行ってたブランドをたくさん使っていて、ロケ地も古道具屋の倉庫を使った日本っぽくない映画で、高校生の頃に観て衝撃を受けました。この映画自体は『ひなぎく』のオマージュだと言われてるんですけど、私も過去の作品で『ひなぎく』をオマージュしています。

ーーそのほかの東さんの作品も、映画から影響を受けているんですか。

東:縷縷夢兎の写真集『muse』(現在vol.03まで刊行)では全体的に映画をオマージュしてます。ヤン・シュヴァンクマイエルの『アリス』とか、『ヴィオレッタ』という監督の実話を元にした映画をテーマに撮影したりしました。

ーー時々、海外作品の日本版ポスターが大衆向けにされ過ぎていることがあるじゃないですか。東さんはオリジナリティを追求されている方なので、堪え難いかと思うのですが。

東:日本って大衆というか、基本的に広い層に合わせるじゃないですか。映画も売れるものじゃないと認められないことが多いから、原作もので、人気者のタレントが出る。世の中がみんな楽しんでいるから、私も楽しもうっていう考えもあると思うんですけど、そういうところを疑う心も持っていないと怖いなって思ってます。邦画を見ない人も沢山いると思うんですけど、日本に生まれたのに邦画を見ないって寂しいなって気持ちもあって。ファッションや美術が一番重視される映画があっても良いんじゃないかなと思って、私が映画を作る時はまずそこから考案することにしています。

ーーポスターなどのデザインによって映画の内容がよくわからなくなっちゃうのもそうですけど、単純に、作品を必要としてる人に、きちんと作品を届けたいですよね。

東:いまは『21世紀の女の子』という、山戸結希監督プロデュースの、80年後半〜90年代に生まれた女性監督が其々8分程の短編を撮って繋げて一本の映画にする、という企画に取り組んでいます。私が監督として呼ばれたのも、映画の人としてはまだ未熟ですが、山戸結希さんに買って頂いている以上、本気で応えたいと思っています。映画を専門にしている人にとっては当たり前のことでもすごい時間がかかってしまったり、いまは最初に服を作り始めた時と同じ感じです。

ーーはー、なんと言うか、縷縷夢兎が女の子たちに支持される理由がわかった気がします。舞台に立つ人を支えるのって、できる限りの最高の道具を与えて、行ってらっしゃい! って見送る仕事ですけど、東さんは女の子が表に出る間も一緒に戦ってくれる感じがありますね。

東:スタイリストとして呼ばれる時も、マネージャーっぽいことまでお節介焼いちゃったりします(笑)。ビジネスとしての関わり以上に何か出来ることはないか、っていう気持ちが上回ることが多くて、ビジネスより、信頼関係を大事にしようって思っていたんです。一人でやっているなら(いつか辞めるなら)それでもいいかもしれないけど、今後の人生を考えた時にそれじゃダメだなってようやくこの歳で気がついて。

ーーもちろん下積みとして一生懸命やってきたことも無駄ではないと思うんですけど、ハンドニットって制作にすごく時間がかかるので、それだけだと続けられないですよね……。アシスタントさんとは、どうやって働かれてるんですか?

東:衣装や映画や、毎日やる仕事が違うので、アシスタントも常についてるわけではなくて、その都度ピンポイントで頼んでる感じです。それぞれ活動の幅を広げて、スタイリストやアートディレクター、デザイナーになった子もいます。

ーー東さんの後ろ姿を見てたら、それぞれ自分のやりたいことを追いかけられるようになりそうですね。東さん自身の活動も多岐に渡っていますけど、今後はどうされていくんですか?

東:衣装デザインの仕事はやっていくんですけど、アシスタントにも衣装デザインをやりたい子が沢山いるので、任せられるようになったらいいなっていうのと、今までは量産したことがなかったので、ハンドの部分は残しながら、工場に出して販売もできたらと思っています。学校を卒業してから、衣装のことをずっとやってきたので、ファッションに立ち返るって意味でも、徐々に量産していかないとなって。大人になったんだと思います(笑)。

ーーきっと量産しても均一化されないような、オリジナルのものを作られると思います。大変そうですが、大きな変化で格好いいですね。

東:ずっとアイドルや歌手、モデル、女優、と芸能の世界と衣装を作って関わってきたのですが、それだけではなくてちゃんと一般層に向けても服を作って売ることに徐々にシフトしていけたらなと考えています。

ーーそれは長くこの仕事を続けようっていう気持ちの表れでもありますよね。

東:そうですね。ずっと衣装を作っていたので、お客さんに対して縷縷夢兎の服を届けることができなかったから、カジュアルラインとして『no muse by rurumu:』を始めました。モデルの女の子たちをmuseと呼んで服を着せてきたので、「今世では縷縷夢兎着れないけど、生まれ変わったら来世では着たい」とか「整形して可愛くなったら縷縷夢兎着る」という声があって。

ーーにゃはは、重たいなー。でも、なんかいいですね。すごく女の子らしい感情だし、それがますます彼女たちと東さんの服を強くしている気がします。

東:お客さんの中には、縷縷夢兎が個展やっても自分なんかが行けないとか、そういう声も耳にします(笑)。『no muse by rurumu:』では逆に、限られた主人公ではない存在を肯定していくことがコンセプトです。

ーーおっ、また真逆の考え方ですね。

東:表舞台に立つ人の入れ替わりの早さ、刹那が苦しくなる時もあるので……SNSで誰でも一部のカリスマになれる世界で、絶対的スターは今は消え失せて、一時的に主人公になったとしてもずっと続くわけではなく、あっという間に仕事がなくなったりする。

 外から見たら“可愛い女の子”かもしれないけど、たとえ可愛くて才能があっても生きていけないことを目の当たりにしてきたので、表舞台に立つ、主人公になろうとすること自体がリスクになることもあるなと思ったんです。だからこそ、その刹那が輝いて美しいのだとも言えるんですけどね。

ーーこれまで舞台に立つmuseたちに強さを与えてきたことが、縷縷夢兎の衣装が持つ女の子を補強する力にも繋がっていて、すでに揺るぎないものになっていると思います。東さんの服が悩める女の子たちにも広がっていきますように。

 

■姫乃たま(ひめの たま)
1993年2月12日、東京生まれ。16才よりフリーランスで始めた地下アイドル活動を経由して、ライブイベントへの出演を中心に、文筆業を営んでいる。音楽ユニット・僕とジョルジュでは、作詞と歌唱を手がけており、主な音楽作品に『First Order』『僕とジョルジュ』等々、著書に『職業としての地下アイドル』(朝日新聞出版)『潜行~地下アイドルの人に言えない生活』(サイゾー社)がある。
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