アルバム『ターミナル』インタビュー

The Floorが語る、第二のスタートラインに立った今「どうせなら一番高い山を目指したい」

「僕らの音楽が広がっていく出発点にしたかった」(ササキ)

ーー昨年札幌のライブサーキット中にメジャーデビューを発表した際のMCからも、その初期衝動のようなものを忘れずにやっていこうという気持ちが感じられました。

ササキ:もちろん、これから変わっていく、変わらなきゃいけないと思っているんですけど、もっと根本の部分で、音楽にかける情熱は変わらないということで。そのうえで、「自分たちの音楽をよりよくしていきたい」という気持ちがあのMCに繋がったんだと思います。分かりやすく言えば「売れる」こともそのひとつですし、でも同時に、「音楽を好きだ」という気持ちを上乗せして好きな音楽を作っていきたいということでもあるし。「俺たちはこんな音楽が好きで、こんな音楽もみんなに好きになってほしい。みんなと一緒に踊りたい」という意味で、音楽的にも、実際のステージでも高みを目指したいと思っているんです。

ーーその気持ちは、これまでの活動の中で生まれてきたものだと思いますか?

ササキ:ここ数年、ライブをする機会がすごく増えたんですよ。前は東京や大阪に行くのも何カ月かに1~2回だったものが、一昨年ぐらいからは半月地元に帰れなくなったりしていて。そうやって各地を回っていく中で、色々な場所で、これまで知らなかった/行ったことのなかった場所の人たちが僕らを待っていてくれるんです。僕はそれがでかかったのかな、と思いますね。その中で「もっとたくさんの人の表情が見たい」と思ったことが、ライブのやり方、曲作り、アレンジまで色んなことに影響してきているので。

永田:バンドとしてお客さんのいい顔を見たいという気持ちや、自分たちの音楽への責任感やプライドのようなものが、強くなってきていると思います。自分たちの音楽に自信が持てたし、もっとそれを磨いていかなきゃいけないなとも思うようになりました。

ーーそれが「みんなが集まって拠り所になれる音楽」がテーマでもある今回のアルバム『ターミナル』に繋がったのですね。制作前、どんなことを考えていたか教えてください。

ササキ:まずは、The Floorとしての基盤になるようなものを作りたいと思っていました。これで完成するものではありますけど、むしろここから僕らの音楽が広がっていく出発点にしたかったというか。その気持ちを『ターミナル』というタイトルに込めました。「旅立つ」こと、「届けたいものがある」こと、「ここに未来を見てほしい/僕ら自身が見たい」ということーー。この1枚からワクワクできるような作品にしたかったんですよ。曲の面でも歌詞の面でも、すごく前向きなアルバムになったと思いますね。

コウタロウ:だからミニアルバムの楽曲は入れずに、今回は全曲新曲でアルバムを作りました。

ーーどの辺りの曲からできていったんですか?

ササキ:一番最初にできたのは「ドラマ」ですね。でも、アルバムの軸となったのは「18」で、ある種のターニングポイントになったのは「寄り道」という感じでした。

永田:「ドラマ」は最初に僕が弾き語りで曲を作って、アレンジも決めて、そのあと(ササキ)ハヤトが歌詞を書いて。曲を作った段階で僕の中に映像のようなイメージがあって、それをハヤトに伝えたんですよ。すごくざっくりだったんですけど……。

ササキ:「(青春感のある)川沿い」ってね(笑)。永田からはそれだけだったんですけど、ギターの音が学校のチャイムっぽいなと思って、僕が学生時代のときのことを思い出しつつ歌詞を書きました。結果的に、それが曲やメロディとリンクしたので楽しかったですね。

永田:「ドラマ」は曲としてはキャッチーですけど、そこにセンチメンタリズムも漂っていて、そういう二面性を持った曲が最初にできたのはすごくよかったと思います。音作りの面では初めてストリングスを使いました。そうすることでちょっと北っぽい、広大なイメージの楽曲にしたいと思っていましたね。

コウタロウ:音色にもこだわりました。たとえばスネアの音も、ミックスするときに音を足してPhoenixっぽい音にしようと思ったりとか。

永田:キャッチーなメロディの要素と、マニアックなアレンジや音色の部分がどっちも共存するようにしたかったんですよ。

ーーまさに『ターミナル』ということですね。ポップさとマニアックさを筆頭に、色んな要素が集まる場所になっている、と。

永田:ああ、そうかもしれないです。そう言ってもらったのは初めてです(笑)。

ーー作品を聴かせてもらったときに、存在としてVampire Weekendに近いのかな? と感じたんですよ。彼らもヒップホップからインディロック、クラブミュージック、クラシックまで様々な音楽やカルチャーを繋ぐハブになるようなバンドだと思うので。

永田:Vampire Weekendは僕らも大好きです。色んな要素をミックスするというのはもともとやりたかったことなので、そう言ってもらえるのはすごく嬉しいですね。

「アルバム自体がすごく前向きな作品」(ササキ)

ーーアルバムの軸になったという「18」はどんな風にできた曲だったんですか?

永田:「18」は、最初に僕が弾き語りでデモを作ったんですけど、このときは制作が行き詰まっていたんですよ。この曲は、「そこから抜けられるかもしれない」という感覚が持てた曲でした。さっき話したように、僕自身もともと純粋な人間ではないので、自分の中から出てきたピュアなものを愛おしく思えてしまうところがあって。「18」のサビのメロディはまさにそういうもので、その場ですぐに曲にしました。そこにハヤトが歌詞をつけてくれて。

ササキ:歌詞はまず、もらったデモの中に「♪18~」というフレーズが入っていたんですよ。

永田:自分では覚えてない(笑)。

ササキ:あと、僕自身が「バンドをやりたい!」と初めて思ったのがちょうど18歳で。それで、その頃の自分について書きました。これまで僕は自分のことをあまり歌ってこなくて、主観だけど誰かのことを歌うものが多かったんですよ。だから、このタイミングで前に進むためにも自分のことを歌った部分もあったのかもしれないです。馴れない分、この曲の歌詞は悩みましたね。

ミヤシタ:「18」はアレンジも結構悩みました。イントロは随分悩んで、決まったのは(レコーディングの終盤に)東京のスタジオに来てからでしたね。今回のアルバムには他にも入っていますけど、途中で転調を使った曲も僕らにとってはこれが初めてでした。

永田:「18」はパンキッシュな要素もあって、ステージで4人が演奏しているところが想像できるようなものにしようと考えていった曲ですね。

ーーターニングポイントになったという「寄り道」はどうですか?

ササキ:「寄り道」は制作が完全に行き詰まって、右も左も分からないような時期にバンドでドン! と音を鳴らして、「やっぱりこの感覚だよね」と思ったところからできた曲。途中各々で作業を進めていた時期があって、そこからみんなで音を合わせたときに、「やっぱりバンドってこうだよな」という感覚が戻ってきたんですよ。それからまた制作が進むようになりました。そういえば、「イージーエンターテイメント」も、その頃に(ミヤシタ)ヨウジが持ってきた元ネタから発展させた曲ですね。最初は結構変な歌詞が乗っていて……。

ミヤシタ:「みんなのビタミンになればいいな」と思って遊びで持っていったんです(笑)。

ササキ:そのときの歌詞は本当に酷かったんですよ……(笑)。

永田:(笑)。でも、その曲のメロディがずっと僕の中に残っていて、制作中の会話の中でそれがフラッシュバックしてきて。ヨウジが持ってきてくれた時点であった展開も残しながら、「ここのメロディはここに持ってこよう」という形で再構築していきました。

ミヤシタ:あと、「煙」はイントロの部分を僕が持っていって、それを永田以外の3人でアレンジしたという意味で、今までと比べて特殊な作り方をした曲です。この曲はThe Floorのバンドとしての方向性が固まっていく前にやっていたものに近い雰囲気があって、アルバムの全体像が見えてきたときに「こういう曲も加えたい」と思って作ったんですよ。

ーー色々な音楽性の楽曲が集まるような作品にしたかったということですね。

永田:そうですね。同じような曲を10曲入れようという気持ちはまったくなくて、それよりも僕たちが好きな音楽を色々と詰め込んで、ハヤトが言ってくれていたように「ここを拠点にして色んな場所に行けるようなアルバムにしたい」という気持ちがありました。逆に言えば、色んな人がThe Floorの音楽に触れてくれることにもなるかもしれないですしね。

ーー初のフルアルバムとあって、曲順も意識したことがあったんじゃないですか? 中でも最後の曲が「ファンファーレ」になっているのが印象的でした。

ササキ:最初はタイトルが「ファンファーレ」だし、1曲目に持ってきてもいいのかなと思っていたんですよ。でも、色々と考えた結果、「ファンファーレ」を最後に持ってきたときに「これだ!!」と思えたんです。今回はアルバム自体がすごく前向きな作品で、僕自身も歌詞で未来に向けたことを書いているので、1曲目の「18」で「バンドを結成したいと思ったときの気持ちが今も続いているよ」と歌って、最後の「ファンファーレ」で「これからも前を向いて行くぞ」と歌うことで、ずっと前を向いた雰囲気で締められたのはすごくよかったと思いますね。

ーー今回の制作を通して、バンドで表現できることの幅も広がっていそうですね。

ササキ:このアルバムにも洋楽的なエッセンスはたくさん加えましたけど、そういう意味で「もっと色々なことができるな」と視野が広くなった感じがします。今回の作品も楽しかったですけど、もっと楽しいことができるんじゃないかな、何でもできるんじゃないかなって。

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