『TOKYO CUTTING EDGE』vol.00レポート

大森靖子とTK from 凛として時雨が共鳴した夜 『TOKYO CUTTING EDGE』レポート

TK from 凛として時雨

 後攻のTK from 凛として時雨は、すでに3作のアルバムと2作のEPをリリースし、自身のバンド活動に迫る勢いでソロでの表現を重ねてきた。バイオリンとピアノを加えた編成は定着し、このバンドでの音の深化を図ってきたという印象が強い。BOBO(Dr)の乾いたスネアとTOKIE(Ba)のうごめくフレージングが重くて速い体感を作り出す「Fantastic Magic」でライブはスタート。TKのシュアな16ビートのコードカッティングをはじめ、叫びにまとわりつくようなバイオリンやピアノが印象的な初期曲「Abnormal trick」は、スリリングであっても今やすっかりTKのソロ曲として安定している。

 また、より歌の輪郭が明確になった近作『white noise』からの「Wonder Palette」では、電子楽器を用いていないにもかかわらず、TKのエフェクティブなギターとビートが醸し出す、EDMに近い感覚を覚えた。一転、生々しい歪みのあるギターを含め、バンド全体がアグレッシブにピークへと向かっていく「Crazy Tampern」が演奏されると、ファンから感嘆の声も上がっていた。

 TKがアコギ、TOKIEがアップライトベースに持ち替えた「dead end complex」は、ジャズやスパニッシュなテイストを高次元で昇華した演奏。続く「subliminal」もアコギが作り出すパーカッシブな演奏が耳に残った。ふと、TKが沖仁とセッションをしたらジャンルを超えたユニークなものになるのでは? という妄想をしてしまった。終盤では新曲も披露。歌に対するまっすぐなスタンスが伺える、聴かせる楽曲だった。時雨のニューアルバムも待機中の今、ソロの新曲も並行して作っていること自体にも驚きだ。そして、ソロ曲の中で最もポピュラーな存在になった「unravel」が伸びやかにプレイされると、ピアノとバイオリンの畳み掛けるアンサンブル、キャッチーなサビのカタルシスによってフロアも感情を爆発させた。

 ソロではカジュアルなMCをするTKは、「今日は大森さんが時雨の曲や、僕が書いた曲を歌っていただいて、とても嬉しかったです。バンドも演奏してくれて、しかも一番後ろには僕のマイメン(ピエール中野)もいて」と、笑いを誘った。そしてラストはギターとピアノとベースが強迫的なチェイスを展開する「film A moment」。ソロのスタート地点として、写真と映像をまとめた作品集『film A moment』を選んだ彼の根底には、不確かだからこそいつまでも残る言葉や音楽にできない記憶があるのだろう。ただ、そんな非常にパーソナルな世界観が、今では美しい曲として一人歩きしている。TKの高度な音楽性や内面を反映した楽曲がポピュラリティを獲得したことは、アウトプットのベクトルは違えど大森靖子にも共通している。

 イベントタイトルの「CUTTING EDGE」は“刃先”という意味を持つ。そういう意味では、大森靖子もTK from 凛として時雨も刃のように尖った才能や音楽性を持つアーティストと言えるだろう。この時代に生きる“カッティングエッジ”と呼べるアーティストを、今後どんな顔合わせで見せてくれるのか……引き続き注目したいイベントである。

■石角友香
フリーの音楽ライター、編集者。ぴあ関西版・音楽担当を経てフリーに。現在は「Skream!」「PMC」「EMTG music」「ナタリー」などで執筆。音楽以外にも著名人のテーマ切りインタビューの編集や取材も行う。

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