振付から紐解くJ-POPの現在地 第2回:TAKAHIRO(後編)

振付師・ダンサーTAKAHIROが語る、欅坂46の表現が進化し続ける理由「言うならば、振付は器」

振付モットーは「出し惜しみなし」

――TAKAHIROさんにとって振付考案の重要なヒントは、やはり詞なんでしょうか?

TAKAHIRO:それは欅坂46の世界において一番重要なことで、振付すべてにおいてそうかと言われると違います。例えばミュージカリティを重要視してるグループもいるし、グルーヴ感を大切にしてるグループもいる。視覚的にリズムを感じられるような振付にしたほうがよかったり、歌詞よりもポーズやビジュアルを優先させたほうがいい場合もあります。例えばCMの振付だったら、商品の魅力をどう伝えるか、どう出演者が美しく見えるかを重視する場合もあります。

――おっしゃる通り、振付をしたA.B.C-Z「テレパシーOne! Two!」は詞のストーリーよりアクロバットというグループの色を十二分に生かしたものですし、松坂桃李さん出演の「クーリッシュ」のCMも商品第一という感じの動きですよね。

松坂桃李出演CM ロッテ クーリッシュ 「クーリズム2017篇」

TAKAHIRO:振付はおそらく、オーダーメイドの洋服を作るようなもので。中にはぴったりとしたフィット感のほうがいい人もいるだろうし、オーバーサイズのものが好きかもしれないし、発色を重視する人もいるだろうし、合わせる人によって色や形は全然違ってくる。だから「振付とはこうあるべきだ」というルールはないと思います。

――ご自分の中で振付業に関してモットーみたいなものがあれば教えていただけますか。

TAKAHIRO:出し惜しみなし。「きっとここで1列になってウェーブするのが最高にいいと思うけど、これはカップリング曲だから、ここでウェーブ使っちゃうといざという時かぶって使えなくなっちゃうな」と思って加減をしないということです。

――ブレーキをかけない。

TAKAHIRO:そう。今、この世界観で表現できる一番いいと思うことをやりたいです。

「自分の役割はいろいろな扉を開くこと」

――近年J-POPシーンで振付の注目度が上がってきていることは、実感されてますか?

TAKAHIRO:そうですね。すごく感じます。

――歌番組で、今回の振付は誰々で、こういうテーマだと言及されることも増えました。これはリスナー側が、どんな曲か知りたい、歌詞の解釈を知りたい、に留まらず、この振付にはどんな意味があるのか? というところまで求めるようになってきているという関心の高まりを表してもいると思います。

TAKAHIRO:今はインターネットも充実していますから、いろいろ情報交換できる時代になった。だから皆さん、歌詞やメンバーのブログを読んでこうかもしれないああかもしれないと、こういう気持ちで歌ってるのかなとか、話し合っていらっしゃると思います。その中で語りたい一つの素材が増えると、それだけ1曲に対しての謎解きが深くできる。現代は作品の楽しみ方も進歩しているのだなと感じています。

――TAKAHIROさんはそういう意味でシーンにとって、先陣を切って新しい表現を切り開いていく大きい存在なのではないでしょうか。ご自身の役割みたいなことは考えますか?

TAKAHIRO:自分がやるべきことは、いろいろな扉を開くこと。特定のジャンルを持たなかったゆえの責任として、あるいは海外で大きなチャンスをいただいた者の責任として、たくさんの扉を開き、あとに続く人たちにいろんな道を示したいです。僕自身は初心を持って挑戦し続けたいです。「ダンスをやったらこんなこともできるかもしれないんだ」と思ってもらえたらうれしい。僕はまだまだ発展途中なので、ダンスで夢を持つ多くの方々と一緒に時間を過ごしたいです。

――TAKAHIROさん自身がこれからやりたい表現があったら聞かせてください。

TAKAHIRO:今までのことを大切にして、もっと負荷をかけてほしい、かな。

――プレッシャーがあったほうがいいんですか?

TAKAHIRO:そうです。壁が欲しいです。

――常に安全な道を選んでいた内気な少年時代からは、想像のつかないところまで来ましたね。

TAKAHIRO:そうですよね。この人生だからこそできることにどんどん挑戦していきたいなと思っています。

――では最後に、一般レベルでもプロレベルでも、ダンスが好きでうまくなりたいと思っている人はたくさんいるはずです。そういう人たちにメッセージをいただけますか。

TAKAHIRO:「ダンスは動いたぶんだけ上手くなる!」。いろいろ考えも理論もあるでしょう。一番は動きながら考えてほしいです。目の前にあるチャンスや環境がアタリだとかハズレだとか気にしないでください。「アタリハズレじゃなくて当てる!」です。 動きながら当て方を覚えて前進してください。

(撮影=稲垣謙一)

■鳴田麻未
1990年東京都生まれ。ライター、編集者。2009年に都立工芸高校グラフィックアーツ科を卒業。同年夏から2016年まで7年半にわたって音楽ニュースサイト「音楽ナタリー」編集記者として、ニュース記事執筆、特集制作、企画、営業を行う。2017年1月より独立。Twitter:@m_ami_

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