『SONIC ACADEMY FES EX 2017』開催記念インタビュー

『SONIC ACADEMY』仕掛け人に訊く、いま“クリエイター育成”が必要な理由

 ソニー・ミュージックが提案する本格的音楽人養成スクール『SONIC ACADEMY』が、“今の音楽制作のノウハウや制作者の声を直接お届けする”というコンセプトのもと、10月7日と8日の2日間、音楽人養成クリエイティブ講座フェス『SONIC ACADEMY FES EX 2017』を開催する。

 Tom-H@ckやDJ和といったアニソンに関わる名プロデューサーや、Akira Sunset、Carlos K.、丸谷マナブ、SoulifeといったJ-POP・アイドル業界で活躍する新進気鋭の作家たち、角松敏生や加藤ミリヤ、真太郎(UVERworld)など、現役アーティストによる講座が実施予定。今回で4回目となるこの催しを記念して、リアルサウンドでは同フェスの仕掛け人であるプロデューサー・灰野一平氏と、講座に出演する音楽作家・Akira Sunset氏にインタビュー。まずは第一弾として、Little Glee Monsterや欅坂46などの音楽制作にも携わる灰野氏に、イベント立ち上げの経緯や意義、次第に激化する音楽作家同士の争いにおいて大事なこと、ディレクター・プロデューサー目線からみた音楽作家に必要なものについて、じっくりと語ってもらった。(編集部)

「音楽を作っている現場の声を聞いてもらうために立ち上げた」 

灰野一平氏

ーーまずはこのイベントを立ち上げた経緯についてお伺いさせてください。

灰野:元々はソニー・ミュージック社内で新規事業を募集するタイミングがあって、色んな部署からアイデアが集まってきたんです。そのなかに「音楽教育」をキーワードにした企画がいくつかあって、KIDSTONEという子供向けのコンテンツを扱うチームと、大人向けの音楽セミナーを手掛けるSonic Academyというチームを内包するエデュケーション事業部が立ち上がることになりました。

ーーそこをイベント化しようと思ったのはなぜ?

灰野:立ち上げタイミングで何かをやるなら、作詞・作曲やエンジニアリングなど音楽制作に関わるものだけではなく、より幅広いものも実施したいと思っていたので、「ライブハウスでバンドがどうやったらPAさんと上手くコミュニケーションを取って、良い外音を作るか」というコーナーがあったり、世の中の音楽をやっている人たちが、どういうことを知りたいのに知れていないのかを探して、それに答えたかったんです。もちろん1回目から完全に網羅できるわけではないので、色々やっていくなかでニーズを探っていこうとしました。世の中には音楽教育として専門学校や音大があるわけですが、僕たちは音楽を作っている現場の声を聞いてもらうために立ち上げたプロジェクトでもあるんです。

『SONIC ACADEMY FES EX 2017』

ーー講師陣もずいぶんと豪華な面々が集まっていますが、その人選はどのように行っているのでしょうか?

灰野:僕は現在も兼務で音楽制作の仕事をしているのですが、そこでご一緒させていただく第一線のクリエイターさんを中心にお願いしました。どういう目的があって、どんな意図でこの企画を始めたのかをしっかり説明して、自分たちの仲間として出ていただいています。

ーーいま「音楽制作の仕事」とありましたが、灰野さんはまさに第一線の作家と携わる現場が多いですよね。普段手掛けているアーティストと、その関わり方を簡単に紹介してもらえればと思います。

灰野:我々の仕事は必ずしも肩書と一致するわけではなく、自己プロデュースするタイプも詞曲を他の方に任せるタイプもいるので、一概には言えないのですが……。僕が現在関わっているものの代表としては、Little Glee Monsterのレコーディングディレクターからプランニングやコーディネートに関わる業務もしていますし、欅坂46に関してはディレクターという立場で、コンペで楽曲を集めてある程度まで選定から、レコーディングなどの音源制作全般に携わっています。アーティスト本人が曲を作る場合はそのサポートしたり、作らない場合は作家やアレンジャーとともに、楽曲が出来上がる最終段階までを見届けます。

ーーソニアカは「音楽教育」の重要性を改めて伝えるためのプロジェクトであると思うのですが、灰野さん自身も元来よりそこに問題意識を持っていたのでしょうか。あるとすればそう思ったきっかけは?

灰野:僕はいま、20年くらいソニー・ミュージックにいて、1年は宣伝をやって、そこから4年はSD(新人発掘部門)に所属していたんです。毎日雑誌の『ぴあ』を見て、知らないアーティストがいたらライブハウスに足を運んだり、目をつけたアーティストと一緒にインディーズ盤を作ったり。新人発掘ディレクターと新人アーティストという音楽制作のイロハをわかっていないもの同士、ああでもないこうでもないと言いながら音楽を作る体験ができました。その経験は大きくて、得るものも課題も沢山見つかったんです。そのあとはレーベルに移って、大御所を含めてその時代時代の旬のプロデューサーや作詞家・作曲家と仕事をすることができたんですが、そこで自分がインディーズのアーティスト達とは当時できなかったことを真のプロフェショナルがどう実現してるのか学びました。そういうノウハウは現場に携わる中で徒弟制度というほどではないですが、レコーディングの現場で受け継がれていたし、音楽作家も売れている人のサポートをすることで学んでいくという環境がありました。

ーーいわゆる職人的な方法で受け継がれていたと。

灰野:はい。ただ今は、PCとDAWの普及により、プロとアマチュアのツールの差はほとんど無くなりました。ペンを1本持てば誰でも小説家になれるというのと同じくらい、音楽クリエイターの裾野も広がっていったんですが、それと同時にスタジオで継承されていたものがなくなってきているのを感じていたんです。

ーー自宅でレコーディングのプロセスが完結できるようになり、ポップスの多くがその手法へ移行したことで、プロユースのスタジオ自体も減少してきました。

灰野:そうです。その一方で楽曲についてはコンペが主流になったことで、過去の実績ではなく目の前の楽曲で判断されることも多くなり、提案されるデモテープ自体のクオリティは格段に上がりました。ただ、肝心なところが欠落しているものも多くて。センスはあるのに、学ぶべきところが学べていないようなものが増えてきたんです。音楽って、センスも必要なんですけど、学ぶべきところをきちんと押さえたうえで素晴らしいものができると思っているので、自宅での作業が大半になりその大事な部分を学ぶ機会に恵まれない人がいる。僕たちは色んなプロデューサーの現場を日本一見学しているという自負もあるので、そんな人たちに現場の感覚を伝えることのできる場でもあります。実際、CHOKKAKUさんに松浦晃久さん、いしわたり淳治さん、島田昌典さん、WATSUSHIさんと、大物プロデューサーが続々と登壇してくれました。

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