Thundercat、Squarepusher新バンド、今沢カゲロウ......ジャコの系譜を継ぐベーシストたち
2月24日にリリースされるThundercatの新作と、3月8日にリリースされるShobaleader Oneの新作は、ともに豊富な音楽的ボキャブラリーを持つ凄腕ベーシストが主導権を握っている作品、という点で共通している。これに昨年11月にリリースされた今沢カゲロウのアルバムを加えると、ジャズ、特にジャコ・パストリアスの影響下にあるベーシストの系譜がくっきりと見えてくる。彼らは皆、超絶技巧を誇るプレイヤーでありながら、いたずらにテクニックを誇示することなく、パッケージとしての完成度を重視した作品作りを指向している。ここでは、それぞれの音楽的特徴を概観しながら新作の聴きどころに焦点を当ててみよう。
Thundercatことステファン・ブルーナーは、Flying Lotus『You're Dead!』やケンドリック・ラマー『To Pimp a Butterfly』、カマシ・ワシントン『The Epic』などに参加したLAのベーシスト。高校生の時にSuicidal TendenciesとLeon Wareというまったくジャンルの異なるバンドを掛け持ちし、早くから頭角を現した。
その後も、スタンリー・クラークのツアーに帯同するなど、ベース・プレイヤーとして非凡なところを見せつつ、ハービー・ハンコックをゲストに迎えた前作『The Beyond / Where the Giants Roam』でソング・オリエンテッドな作風を打ち出した。新作『Drunk』はそんな前作の延長線上に位置し、これまでになく歌の比重の高い作品に仕上がっている。マーヴィン・ゲイを思わせるThundercatのボーカルは官能的ですらあり、コンテンポラリーなブラック・ミュージックとして実に魅惑的な響きを放っている。
続いて、Squarepusherことトム・ジェンキンソン。彼は過去にもベース1本による即興演奏を音源化しており、ベース奏者としても秀でたところを見せていたが、新作は彼を含む4人組覆面バンド=Shobaleader Oneのアルバム『Elektrac』。Squarepusherが90年代に発表してきた楽曲をベース、ギター、ドラム、キーボードというバンド編成でカバーしている。
『Elektrac』はタイトなキメと饒舌なソロが特徴的で、フュージョンやジャズ・ロックのエッセンスを消化しながら、疾走感溢れるインタープレイを展開する。エレクトリック時代のマイルス・デイヴィスやWeather Reportの影はもちろん、ジョン・マクラフリンのソロやThe Jimi Hendrix Experienceなども脳裏をよぎる。Squarepusher名義での昨今の作品がエレクトロニック寄りだったから、その反動でこういう作品が生まれたと推測されるが、それにしてもフィジカルな音像だ。
そして今沢カゲロウ。今沢はベース1本で世界中を渡り歩き、ベルリンのラブパレードにも参加した作曲家/ベーシスト。新作『Blue Moon / ブルームーン』は、シャクティの打楽器奏者、セルヴァガネーシュと共演した作品。弾力に富む今沢のベースと、高速で連打されるセルヴァガネーシュのパーカッションが激しいつばぜりあいを繰り広げる。部分的にセルヴァガネーシュが参加するシャクティを連想させるのだが、インド音楽の古典的語法に則ったシャクティに比べて、こちらはもう少しジャズ/プログレ寄りでモダンな感触。先が読めない展開が実にスリリングだ。
音楽性は三者三様の彼らだが、冒頭で述べたようにベーシストとしてはいずれもジャコ・パストリアスの血を引いている。ミュートを効かせたファンキーなプレイ、小節を自在にまたぐ速いパッセージ、アタックの強いフィンガリング等々、ジャコから彼らが受け継いだものは計り知れない。もしThundercatやShobaleader Oneや今沢カゲロウのベースを聴いて触発された方は、Weather Reportの『Heavy Weather』や、ジャコのソロ作『ジャコ・パストリアスの肖像』を聴いてみて欲しい。ギターで言うならJimi Hendrixがそうであったように、ベース奏者として革命児的存在だった彼の偉大さが分かるはずである。
■土佐有明
ライター。『ミュージック・マガジン』、『レコード・コレクターズ』、『CDジャーナル』、『テレビブロス』、『東京新聞』、『CINRA.NET』、『MARQUEE』、『ラティーナ』などに、音楽評、演劇評、書評を執筆中。大森靖子が好き。ツイッターアカウントは@ariaketosa