『A Night in Chinatown』インタビュー

細野晴臣が語る、音楽の歴史をつなぐこと「本当におもしろいものは届いてくる」

 

「自分の音楽的な魂が喜ぶことしかやりたくない」

ーーそういう時代だからこそ、細野さんの音楽の存在には意義があると思います。『A Night in Chinatown』で演奏されている楽曲にもたくさんヒントがあると思うんですよ。たとえば「I’m A Fool To Care」という曲をきっかけに「レス・ポールは女性シンガーと組んで活動してた」ということを知る人もいるだろうし。

細野:ギターだけじゃないんだっていうね(笑)。そういうことはあるかもしれないですね。青山のCAYでときどきライブをやってるんだけど、最近、客層が豊かというか、僕と同世代の人はあまりいなくて、若い人が増えてるんですよ。あるとき、20代の若い女の子から、僕の音楽をきっかけにして、古い音楽を聴くようになったと言われたことがあって。そういうときは「やってて良かったな」と思うし、やりがいを感じますね。確かにそういう人は少しずつ増えてるんじゃないかな。ただ、あまり表だって表現しないから、彼らは。静かなんですよね。

ーー細野さんの活動が音楽の歴史をつなぐ役割を果たしているわけですよね。そう言えばMCで「30代、40代の頃はとにかくオリジナル作品を作りたかったけど、いまは違ってきている」ということも話されてましたよね。

細野:世代によってやれることが変わってくるからね。30代、40代、もちろん10代、20代もそうだけど、自分のなかの情熱を表現したかったし、止むに止まないパワーがあった。でも、それをやり続けるのは無理な話だなということもだんだんわかってくる。いまは楽しいことをやりたいし、自分の音楽的な魂が喜ぶことしかやりたくない。自分の表現よりもそっちが優先されるし、だからカバーをやるのが楽しいんですよ。「オリジナルはさんざん作ってきたからいいや」ということも考えますし。ときどきはオリジナルも作るけど「カバーに比べて劣っていたらイヤだな」と思うんですよ。自分がカバーしてきた昔の曲と張り合いたいというか。そこにはまだ到達してないかもしれないですね。そこに近づきたいという気持ちが動機になってるところもあるかな。

ーー1930年代、1940年代のアメリカの音楽はそれくらいスゴイんだ、と。

細野:圧倒されますね。表現力が豊かだし、演奏技術もすごいし。名もないミュージシャンもみんなそうなんですよ。ピアニストにしてもアコーディオン奏者にしても「こんな人がいるんだ」というミュージシャンがいっぱいいて。そこには太刀打ちできないけど、何か違うものを受け取っているんだと思います。彼らがやっている音楽の世界の色合いや香り、全体像を受け継ぎたいというか。

ーーそのスタンスも一貫している印象があります。時期によって音楽性は大きく異なりますが、すべての作品に特徴的な色合い、手触りがあって。特に『泰安洋行』『はらいそ』からYMO結成に至る変化は、いま考えてもとんでもない飛距離ですよね。

細野:そのあたりは時期的にもほぼ重なってるしね。濃い時代だったんですよ。自分だけじゃなくて、世の中も。フォークが流行ったと思ったらサイケになったり、その前はサーフィンだったり。激変の時代ですよね。

ーー東京がもっとも刺激的だった時期かもしれないですね。

細野:そうですね。いまはぜんぜん違うけどね。最近、昭和50年代のこのあたり(東京・港区)の写真を見たんですけど、明治か大正の風景のように感じたんですよ。古い家屋が並んでいて、都電が走っていて、空が高くて。その時代はすごく幸せだったんですが、そういう景色は消えてしまったし、東京オリンピックでさらに変わるでしょ。いまの東京に何かを求めてるかと言われたら、それはあまりないんですよね。アメリカやヨーロッパには古い建物が残っていて、遺跡みたいな場所に住んでるから、みんな新しいものを求めるんだと思うんですよ。東京は正反対だし、世界的に見ると異常な都市ですよね。世界の都市の写真に看板をコラージュするアートを作ってる人がいて、それがおもしろいんだよね。看板を付けるだけで、東京になるっていう。

ーー外国人観光客もよく看板の写真を撮ってますよね。東京という街に刺激を受けて音楽を作ることもないですか?

細野:YMOの頃はかなり意識してましたけどね。「テクノポリス」なんて曲があったり、東京を違う目で幻想的に見ようとしていて。そういう感覚もいまはないですね。あとね、昔は都市ごとの音楽があったんですよ。テクノにしても、ミュンヘンとベルリンとデュッセルドルフで違っていたり。YMOは東京の音ですよね。2000年代のエレクトロニカは都市ではなくて、個人になったんですよ。いろんな人がパーソナルな空間で音楽を作ることで新しいモードになって。「これで世界が変わる」と思ったら、終わっちゃたんだよね(笑)。いまは個人の顔も見えてこないし、どうなってるの?という感じですね。大統領がトランプになって、どう転ぶかわからないけどね。

ーー『A Night in Chinatown』でカバーしている楽曲をいまのアメリカの人が聴いたら、どう思うんでしょうね?

細野:それは僕も興味があって。アメリカでツアーをやってみたいんですよ。ニューヨークは何となく反応がわかるというか、たぶんおもしろがってくれると思うんだけど、南部はわからないよね。もしかしたら酒瓶が飛んでくるかもしれないし(笑)。受け入れられるのか、拒絶されるのか…。

ーーいいですね、アメリカツアー。ぜひ実現させてください!

細野:まあ、そのうち。元気になったらね。

ーーライブの本数自体も多いですよね。去年は6月にツアーがあって、12月にも7本のライブを開催。精力的と言っていい数だと思うんですが。

細野:そういうふうに見えちゃうだろうけど、仕方なくやってるんです(笑)。先に予定を決めないと、ツアーはやれないから。毎年、ソロの新作が出るっていう前提でツアーを組んでるんですよ。ところが作ってないので(笑)、“エア・ツアー”って言ってるんですけど。それを2年続けたから、今年は出さないと。

ーー素晴らしい! 新作の構想はあるんですか?

細野:カバー曲はぜんぶ録ってあるんですよ。それはすぐにでも出せるんだけど、どうやらオリジナルを作らなくちゃいけないみたいで。それは2月からやろうと思ってます。やる気だけはあるんだけど、新曲を作るためには閉じこもらなくちゃいけないから。昔はそうやって集中するのが好きだったんですけど、いまは疲れちゃうからね(笑)。適度にやるってことが出来るかどうか。

ーー初夏のツアーでは新曲も聴けそうですね。

細野:ツアーが始まる頃は、まだ出てないかもしれないけどね(笑)。まあ、言っちゃったからにはやりますよ。

(取材・文=森朋之)

■リリース情報
『A Night in Chinatown』
発売:2016年12月21日
Blu-ray:¥6,500(税抜)
DVD:¥6,000(税抜)
〈収録曲〉
1. 北京ダック
2. 香港Blues
3. 熱帯夜
4. はらいそ
5. Heigh-Ho
6. Angel on My Shoulder
7. Good Morning, Mr.Echo
8. I’m A Fool to Care
9. Pistol Packin’ Mama
10. Tutti Frutti
11. Firecracker
12. Sake Rock
13. Sex Machine
14. Ain’t Nobody Here but Us Chickens
15. Down The Road A Piece
16. Beat Me Daddy, Eight to The Bar
17. Cow Cow Boogie
18. The House of Blue Lights
19. Sports Men
20. Body Snatchers
21. Pom Pom 蒸気
特典映像~デイジーワールドの集い 特別編 女性限定「細野晴臣 七夕ライブ」より
1. Hit The Road To Dreamland
2. Ramona
3. The Song Is Ended
4. 悲しみのラッキースター

■ライブ情報
『細野晴臣 初夏ツアー2017』
6月25日(日) 沖縄・桜坂セントラル
7月10日(月) 東京・浅草公会堂
7月15日(土) 大阪・ユニバース
7月17日(月) 京都・磔磔

■オフィシャルサイト
http://hosonoharuomi.jp/

関連記事