村尾泰郎の新譜キュレーション:特別編

村尾泰郎が選ぶ2016年のUSインディシーン注目作 個性が光った新人からベテラン勢まで

 新人では多彩な才能が次々と登場。なかでも異彩を放っていたのが兄弟ユニット、The Lemon Twigsだ。70年代ロックを思わせるメロディと凝った曲の展開は、10代とは思えないマニアックさ。それでいて、無邪気なポップさも兼ね備えていて、アリエル・ピンクの甥っ子みたいなユニークな個性が光っている。

 アルバムをプロデュースしたのはFoxygenのジョナサン・ラドーだが、Whitneyのアルバムも彼のプロデュースによるもの。Whitneyは、元Smith Westernsのマックス・カカセクと元Unknown Mortal Orchestraのジュリアン・アーリックによるバンドで、ストリングスやホーンを盛り込むなど、南部サウンドへの愛情とモダンなポップ・センスがまろやかに融け合っていた。

 そのほか、ほとんどの楽器を自分でこなしてエキゾチックなサウンドを生み出す元Dirty Projectorsのデラドゥーリアンや、宅録で親密な歌を聴かせるフランキー・コスモスなど、独自の世界観を持った女性の新人達も活躍。そして、次々とカセットをリリースして話題を呼んだ<Burger Records>の日本独自のコンピは、21世紀版『ナゲッツ』として楽しめるガレージ風味満載の楽しいアルバムだった。

 この10枚のなかで、もっともベテランなのが、バンド結成30年目を迎えたカート・ワグナー率いるLambchopだろう。これまでは芳醇なアメリカーナ・サウンドを聴かせてくれたが、今回はエレクトロニックなビートを取り入れ、ボーカルにエフェクトをかけるなど、ヒップホップやR&Bの要素を独自に昇華。それでいて、持ちまえのメロウネスもしっかり感じさせて深夜の愛聴盤になった。こういうバンドが息が長い活動を続けているのも、USインディー・シーンの醍醐味のひとつ。末永く愛したい。

■村尾泰郎
ロック/映画ライター。『ミュージック・マガジン』『CDジャーナル』『CULÉL』『OCEANS』などで音楽や映画について執筆中。『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』『はじまりのうた』『アメリカン・ハッスル』など映画パンフレットにも寄稿。監修を手掛けた書籍に『USオルタナティヴ・ロック 1978-1999』(シンコーミュージック)などがある。

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