映画『淵に立つ』特別対談
HARUHI×深田晃司監督が語る、映画と主題歌の関係「一人の表現者として参加してもらいたかった」
「肉体が死から生に戻るところを映像にしてみたい」(深田晃司)
ーー「Lullaby」のミュージックビデオも深田監督が手がけられています。舞台は映画にも出てきた工場ですが、深田監督の作品『さようなら』(2015年公開)で使われた手法が応用されているそうですね。
深田:『さようなら』の大事なシーンで使った方法がすごく面白かったんですよね。そのときは、ひとつの肉体が物理的に死に向かっていく要素をCGを使わずに描きたくて。そんな無茶な要望に特殊メイクを担当してくれた「造形工房『自由廊』」のJIROさんが応えてくれたんです。女優のヒト型を取って人形にしているんですが、肉の部分をチョコレートで作ってもらって、それが溶けていく様子を撮影したんですよね。それがすごく上手くいったので、また別の機会に使えないかなと思っていたところに「Lullaby」のミュージックビデオのお話をいただいて。今回は死に向かうのではなくて、生き返らせるという映像なんですよ。こう話すと、単に自分がやりたいことをやってるような感じですが(笑)。
HARUHI:いえいえ(笑)。ミーティングのときに説明していただいて、素晴らしいコンセプトだし、絶対に良い作品になると思ったので。
ーー『淵に立つ』と同じく、監督の死生観のようなものも反映されているんですね。
深田:そうですね。歌詞の内容が子守唄なのですが、僕は短絡的な人間なので「眠りに落ちる」ということに死を連想してしまうんです。そこから「肉体が死から生に戻るところを映像にしてみたい」と思って。CGを否定してるわけではないんですよ。映画は「いかに嘘をつくか?」という表現だし、CGもいいと思うんだけど、死や生は物理的な現象だと捉えているので、実際のモノを使って描く方がしっくり来るんですよね。HARUHIさんには最後のシーンに出演してもらったんですが、全員がしっかり集中して、30分くらいで終わったんです。でも、チョコレートが想定よりもぜんぜん溶けなくて、結局4時間くらいずっと待って(笑)。
HARUHI:最後に微笑むシーンがあるんですが、どういう感じの表情なんだろう?と考えて撮影に臨みました。私はMVの撮影自体が2回目だったんですけど、前回より自分の集中力のレベルが上がったと感じましたね。MVというよりも映画の撮影をしているような感じで。
深田:撮影スタッフもふだん映画をやっている人たちですから。自分も映画の撮影と同じようにやっていましたが、唯一違うのは(セリフがないので)本番中に声に出して指示できることかな。HARUHIさんは感情表現が日本人らしくなくて、反応が楽しかったです。初めて自分の人形を見たときも……。
HARUHI:「Oh,my god!」って(笑)。自分の死体を見ているような感じがしたんですよね。だから最初は近づきたくなくて、ちょっと離れて見ていて。髪の毛の色までまったく同じだったし。
深田:霊魂になって、自分の死体を見ているような感じですよね。
HARUHI:そうなんですよね。でも、最後は横に寝転がって一緒に写真を撮りました(笑)。
ーーミュージックビデオは楽曲を映像で表現するものなので、やはり映画とは違いますよね?
深田:確かにミュージックビデオは“曲ありき”ですが、映画も完全にゼロから作るのではなくて、モチーフやテーマがありますからね。『淵に立つ』で言えば、家族を描くというところから広げていったわけで、そういう意味では似ているところもあると思います。ミュージックビデオは尺が短くて物語に束縛されないので、撮っていて解放感がありましたね。ミュージックビデオを撮るのは初めてだったし、すごく良いご縁をいただきました。
HARUHI:「Lullaby」も映画と同じように“答え”がないまま終わる感じで、そこもすごく好きなんです。映画も楽曲もMVも作品として素晴らしいものになったので、本当に嬉しいですね。
(取材・文=森朋之/撮影=三橋優美子)
■配信情報
HARUHI「Lullaby」
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■映画情報
映画『淵に立つ』10月8日(土)より、有楽町スバル座ほか全国ロードショー。
監督・脚本・編集:深田晃司(『歓待』『ほとりの朔子』『さようなら』) 出演:浅野忠信、筒井真理子、太賀、三浦貴大、篠川桃音、真広佳奈、古舘寛治 主題歌:HARUHI「Lullaby」(Sony Music Labels Inc.)
配給:エレファントハウス、カルチャヴィル (C)2016映画「淵に立つ」製作委員会/COMME DES CINEMAS
www.fuchi-movie.com
■HARUHIオフィシャルHP
www.haruhi99.jp