矢野利裕『SMAPは終わらない 国民的グループが乗り越える「社会のしがらみ」』発売記念

SMAPは“カジュアル”なアイドルだったーー90年代の音楽文化からグループを読み解く

「『SMAP 004』が明らかに大きな転機」(柳樂)

矢野:ジャニーズの縦の歴史を確認すると、SMAPの直前には忍者がいます。忍者のデビュー曲は「お祭り忍者」ですよね。これは、ジャネット・ジャクソンのようなニュー・ジャック・スウィングで美空ひばりを歌う、という怪作です。その後、忍者はあれこれと打ち込みの音楽を続けるのですが、SMAPのようなアシッド・ジャズの洗練された感じはあまりない。この微妙なセンスの違いは意外と大きいかもしれませんね。

橋本:言ってみれば六本木と渋谷の違いだよね。フリー・ソウルは、渋谷やイギリスに向いたものだったから、SMAPと親和性があったのかもな。

矢野:だとすると、SMAP以前のジャニーズにはその“イギリスに向く”感じがなかったのかもしれない。

橋本:そうかもね、やはり“ショー・ビズ”な世界だったから。

矢野:まさに、SMAP以前のジャニーズはショー・ビズな世界を志向していました。しかし、そういうショー・ビズな世界の中で、SMAPは着飾ることをせず、カジュアルな方向性に向かった。

橋本:それがいちばんのポイントだよね。カジュアルでざっくばらんなグループというか。さっきも話に出た『Wool』についていたフォトブックを見ると、スナップ写真のような普段っぽい姿をアートワークに組み込んでいて。こういうのって、それまでのアイドルにはなかった方法じゃない?

柳樂:アイドルのやり方じゃないですよね。居酒屋で撮っているような雰囲気の写真もあります。

橋本:ピントがぼけているような、友だちが撮ったようなローファイな写真も混じっているしね。普段の日常の延長で彼らを捉えたものがアートワークに使われる、そういうカジュアルさ、ざっくばらんさみたいなものがある種、90年代の半ばくらいの文化とも言える。古着の文化もそうじゃないかな。「中古レコードを買うことがイケている」時代ということもそうなんだけど。

柳樂:草彅くんとかキムタクの存在は、すごい90年代っぽい。古着にジーンズを着こなすテイストとか。ゴローズのアクセサリーにレッドウイングのブーツみたいなリアルなストリート感。

矢野:90年代っぽいと同時にジャニーズのアイドルらしくないですよね。キラキラしたアイドルであることよりも、当時のリアリティに根ざすことのほうが重要視されているようです。

橋本:あの頃の男の子たちは、レアなジーンズとレアなレコードを持つことに気合を入れていたわけで。そういう時代のアイドル像という見方もできる。

矢野:楽曲面で考えても、SMAPの存在はけっこう画期的だったと思います。まず、デビュー曲「Can't Stop!! -LOVING-」がUKのアーリー・ハウスというか、80年代後半のハウスをかなり意識していますよね。この一点からしても、1993年以前のSMAPがアシッド・ジャズやハウス路線のサウンドを明確に狙っていたことがわかります。もしかしたら、どこかのタイミングでバキバキのハウス路線にいくことを念頭に置いていたのかもしれません。結果的には、その路線はV6が担っていくことになるのですが。

柳樂:プログラミングのほうがオシャレだという空気が、当時はまだあったもんね。

橋本:クラブ・カルチャー〜ハウス・カルチャーが、ガーッと来た時期だから。

矢野:それが、時代が進んでいくと完全にプログラミングを通過して以降の生音のフィーリングが追求されていきます。ビートが打ち込みでウワモノが生音になっている曲もあるし、すべて生演奏の曲もある。その生演奏は、いわゆるレア・グルーヴのようだったりする。クラブでプレイされても違和感のないような、ドラムがしっかりした演奏ですね。プログラミングのビートをどんどん押し進めていくような方向には行かなかった。だいたい1994~5年くらいのことです。

橋本:それはまさにフリー・ソウルが盛り上がった時期で、クラブ・カルチャーが大バコから小バコへと動いていく時代ともリンクするね。

柳樂:それで言うと、1993年の『SMAP 004』から全体的にシンセ・ベースを使うようになって、ベース・ラインで押す感じになっている。いわゆるベタなプログラミングのビートで作る感じではなくなって、生演奏のテイストが強くなって、いきなり80年代的なサウンドに後退するというか、一回戻る感じがあって。『SMAP 004』が明らかに大きな転機のように感じましたね。

矢野:なるほど、ガチガチなプログラミングから距離を取る過程でシンセ・ベースが重要視されていく、ということですね。その転機に『SMAP 004』がある、と。売り上げ自体もそのあたりから伸び始めますよね。

柳樂:そうそう。そのあたりでSMAPの音楽と時代とが噛み合い始めたというか。

橋本:実際に音楽だけじゃなくて、彼らがTVとかその他の面でも徐々に認められた時代なんじゃないのかな。スタンスが1994年くらいまでに固まってくるというか。アルバムだと、やはり『SMAP 004』、楽曲だと「がんばりましょう」の時期ですね。

矢野:そうですね。本人たちの意識にも変化があったのかもしれない。

※続きは、書籍『SMAPは終わらない 国民的グループが乗り越える「社会のしがらみ」 』にて。

■書籍情報
『SMAPは終わらない 国民的グループが乗り越える「社会のしがらみ」 』
価格:1,600円(税込価格:1,728円)
判型:四六判
総頁数:248頁
発売:8月9日
発行/発売:垣内出版

予約はこちらから

【目次】

・はじめに
SMAPは音楽で“社会のしがらみ”を越えるか? ジャニーズが貫徹すべき“芸能の本義”

・第一章 SMAP的身体論
〈SMAP的身体〉と挫折の記憶 / SMAPの〈芸人〉性 / SMAPとクラブ・カルチャー / フリー・ソウルと森且行 / 夜空のむこうに咲いた花 / 解散騒動へ/から

・第二章 Free Soul : the classic of SMAP――SMAPを音楽から考える
ゲスト:橋本徹(SUBURBIA)、柳樂光隆(Jazz The New Chapter)

90年代という時代性 / SMAPと“渋谷系”文化 / 「アーバン」がキーワード / ディスコティックな感覚と生音感 / 『bounce』とSMAP / “黒い”SMAPの時代 / カフェ・ブームとSMAP / 時代を反映した“DIY感” / ギターソロが少ない? / SMAPの“フリー・ソウル感” / 2000年代、サウンドの変化 / 楽曲提供に恵まれたSMAP / 2010年代、“らしさ”の復活 / SMAP代表曲サウンドの魅力 /『SMAPPIES』はジャズ・ファン向けのガス抜き / 他グループとの音楽性の比較 / ルーツは少年隊のB面にあり?

・第三章 SMAPがたどった音楽的変遷〜触れておくべき8タイトル〜
SMAP 001 / SMAP 006〜SEXY SIX〜 / SMAP 007〜Gold Singer〜 / SMAP 008〜TACOMAX / SMAP 009 / BIRDMAN〜SMAP 013 / Pop Up! SMAP / Mr.S

・第四章 世界に一つだけの場所・にっぽんのアイドル論
ゲスト:中森明夫(作家/アイドル評論家)

アイドルと批評 / アイドルを人類史的に考える / 『敗戦後アイドル論』 / ファンたちの偉大な歴史的勝利 / スター性を放棄/獲得したSMAP / 文学と芸能 / アイドルは神なのか人間なのか / アイドル、ジャニーズはどこへむかう?

・あとがき

【書籍内容】

批評家・矢野利裕による、あの国民的グループへの緊急エール!!

2016年1月、日本全体を揺るがした SMAP解散騒動。『SMAP×SMAP』(フジテレビ系)でのメンバー謝罪会見を端に、矢野利裕が音楽総合サイト『リアルサウンド』で執筆したコラム「SMAPは音楽で“社会のしがらみ”を越えるか? ジャニーズが貫徹すべき “芸能の本義”」の大反響を受け、緊急出版。世界にひとつだけの「SMAP」の存在と今後を、音楽と芸能から紐解いた“SMAP論”の決定版。

《論考&ゲスト放談でSMAPを徹底考察》
SMAPの音楽に詳しい編集者・橋本徹氏とJazz評論家・柳樂光隆氏を迎え、これまで深く語られなかったSMAPの音楽的魅力を深堀り!また、アイドル評論家・中森明夫氏を迎えてAKBとジャニーズ、日本独自のアイドル文化についての白熱論議!その他論考&ディスクレビュー、あらゆる視点でSMAPを語り尽くしました!

【著者プロフィール】

矢野利裕(やの・としひろ)
1983年、東京都生まれ。批評家、ライター、DJ、イラスト。東京学芸大学大学院修士課程修了。2014年「自分ならざる者を精一杯に生きる――町田康論」で第57回群像新人文学賞評論部門優秀作受賞。共著に、大谷能生・速水健朗・矢野利裕『ジャニ研!』(原書房)、宇佐美毅・千田洋幸編『村上春樹と一九九〇年代』(おうふう)などがある。

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