市川哲史『逆襲の〈ヴィジュアル系〉-ヤンキーからオタクに受け継がれたもの-』発売記念 PART.1

鬼龍院翔が語る、V系への目覚め「中2の頃に“音楽性の高さ”でハマった」

「あと10年早く活動していたら、止めちゃっていた」

鬼龍院翔

市川:すぐバンドは組めたんですか?

鬼龍院:いえ。中学時代は全くそういうのなくて、「高校に入ったら軽音楽部というものがあるらしい」と知り、高校に入ってすぐ軽音楽部に入ってすぐバンドを組みました。でも、とても「MALICE MIZERがやりたい」なんて言える空気じゃないというか。皆ギター、ベース、ドラム、ヴォーカルがやりたくて入って来てるのに、シンセサイザーが2人必要なコピーバンドなんて、そんなもの誰も組めないから。まず初めはJUDY AND MARYさんのコピーをやってました。

市川:手堅い(失笑)。ということは、高校の軽音楽部とかだとV系のコピーしてるような同好の士は、そんなにいなかったのかしら。

鬼龍院:いなかったですね。やっぱりV系が好きな男子が最低でも4人集まらなきゃ組めないというのが、やっぱりネックですよね。

市川:ということは、00年代直前だった中学時代の方がV系人気は高かったんですかね。

鬼龍院:そうですね。DIR EN GREYさんとPENICILLINさんという感じでしたかね、あの時期は。高校時代に入ったらV系はそんなに――その頃はもうGacktさんがソロになっていて、言うなればGacktさんがV系のトップを走っていた。あとラルクアンシエルさんやGLAYさんは――何だろうな、V系ってやっぱりクラスとかで「V系大好き♡」とは言いづらいものが、絶対どこかあると思うんですけど。でも、GLAYさんラルクさんは流行りまくっていたから、全くそういうのなかったですよね。

市川:歴史的に振り返っても90年代は、XだLUNA SEAだラルクだGLAYだと商業的成功を摑んだV系が、完全にシーンの主流派になりました。セールスも動員も天井知らずで、皆が愉しめる流行りのロック・エンタテインメントとしても成立した。でもLUNA SEAやXといったビッグネームの活動休止で、世間的には下火になったと皆認知しちゃったよね。けれども、それこそ鬼龍院少年以降の世代の人たちにとっては実は全然そんなことなくて、マリスやディルなどの登場で改めて、 V系を満喫していけたと。でもあの時点で、V系のシフトチェンジは明らかに始まってた気がするの。まずそれまでのヤンキー的なノリとメンタリズムが――。

鬼龍院:そうですね。族みたいな感じが(真顔笑)。

市川:ゴスなんだかヤンキーなんだか、境界線が微妙なヴィジュアルや価値観に溢れてたじゃないですか、オールドスクールの時代は。

鬼龍院:髪の立て方とかそうですよね。

市川:鬼龍院少年はそうしたヴィジュアル面というか、ファッション的な風体にはあまり惹かれなかったのかしら。

鬼龍院:僕はいわゆる《V系四天王》以降なんですよね、世代的にハマったものが。だからやっぱMALICE MIZERさん、La'cryma Christi さん――GLAY さん、ラルクさんはもちろんといった感じですね。

市川:もはやヤンキー体質の「ヤ」の字もない面々(苦笑)。

鬼龍院:そうなんですよ。市川さんに以前インタヴューしていただいた時も、ヤンキー文化に絡め たお話があったと思うんですけど、やっぱり僕があと10年早くV系バンドの活動していたら、やっぱりヤンキーの世界観についていけなくて止めちゃっていたと思うんですよ。ヤンキー文化が失くなった現在だからこそ、僕はやってこれたなーと思うんですよね。

市川:00年代のどこかの瞬間から、V系はオタク的サブカルチャーへと変容するんだけども、たしかに金爆はその恩恵を最大限受けてるかもしれない。でも〈変身/コスプレ願望〉だけはヤンキーとオタクの共通項だから、対極的な両者が揃ってハマれる唯一の文化がV系というのはすごく納得できるなぁ。ちなみに鬼龍院少年のヴィジュアルは、どんな感じだったんですか。やっぱりV系的な恰好に対する憧れはあったんですかね。

鬼龍院:見た目はやっぱり「真似したい」という願望はすごいあるけど、中学時代はそれをやる場所がもうとにかくないし。高校時代は――後半あたりでは化粧はせずともちょっと派手な、新宿マルイワンで買ったh.NAOTOさんとかの、ちょっと「それっぽい」ぐらいな服を着てヴォーカルをやったりする、というのはありましたね。

市川:それはあくまでもライヴの衣裳じゃない? 普段着はどうですか。

鬼龍院:普段着で「破けた服を」とか、そういうのはもうなかったですね。だからV系的な恰好願望があるにしても、Gackt さんの服と同じものとか似たものとか、V系というよりかはちょっともう幾分爽やかななものを。

市川:あの男の恰好は爽やかなのか?(失笑)。

鬼龍院:較べると、という感じですかね(困惑笑)。でも高校の登下校の時にGacktさんが履いていたのに近い、なんか尖った革靴とか履いていましたよ、僕。

市川:わははは。とにかく Gackt が師なんですなぁ。

鬼龍院:そうなんですよね(嬉笑)。

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