『Awesome City Tracks3』リリース記念対談

「これまでは“傾向と対策”でやってきたバンドだった」Awesome City Clubが語る、3rdアルバムでの明確な変化

マツザカタクミ(Ba./Syn./Rap.)。

「音像に“自分たちらしさ”みたいなものを見出したくて、音色を探していた」(atagi)

――これまでのACCは、全体的に一歩引いた目線の抽象的な歌詞が多かった印象ですが、今作はどの楽曲も細かいシチュエーションの描写がしっかりとされているように感じました。

マツザカ:たぶんそれは、アルバム制作を一度リセットする前の感覚が残っていて、物事を俯瞰する余裕がなくなっていたことが大きいと思います。軽やかじゃない状態だと、モヤモヤした思いや言葉がどんどん出てくるというか。そういう意味では人と人とのつながりを書きつつ、独り言に聴こえる曲が多いという印象もあります。

atagi:確かに。自問自答している感じはあるかも。

――atagiさんに関しては、1人で書ききったものとモリシーさんとの共作、LEO今井さんからの提供、マツザカさんといしわたりさんの共作と、4パターンの状況で生まれた歌詞を歌っているわけですよね。それらを歌い分ける難しさはありましたか。

atagi:難しかったとは思わないです。ただ、マツザカが書いてくれたものは僕の癖やリズムを考慮してくれているのですが、LEO今井さんが書いてくれた詞は、全く違う人のダイナミズムがリズムとして存在するので、イメージの補完に多少時間は掛かりましたね。でも、LEOさんのソロ曲をいちリスナーとして聴いていた分、イメージし易くてすごく楽しかったです。

――「ネオンチェイサー」は、初期のPassion PitやNaked and Famousのようなゼロ年代~テン年代の洋楽シンセポップっぽい作りですよね。

atagi:アルバムの制作中に、バンドとしてのサウンドというか音像に“自分たちらしさ”みたいなものを見出したくて、いろいろ音色を探していたんです。空気として異質なものを作ろうとして、DAWソフトに入ってる訳の分からない楽器の音色を色々試していたなかで、同じように聴こえる印象的なフレーズを細分化して、3つの音色だけをひたすらレイヤードさせました。

マツザカ:チームで選曲会議をやった中で、このサウンドが全員共通ですごく気になったのを覚えています。メロディは何度も作り直して、ようやく形になったんですが、今度は歌詞が追い付かなくて。そこでLEO今井さんの力を借りたんです。

PORIN(Vo./Syn.)。

――PORINさんは「Vampire」と「エンドロール」を高橋久美子さんと共作していますね。

PORIN:私、チャットモンチーがすごく好きで、歌詞も高橋さんの影響を受けているので、スタッフさんに「高橋久美子さんと共作詞がしたいです」とお願いしました。高橋さんの詞って、言葉の使い方がボーイッシュというか。えげつない感じはせず、ドライなんだけどファンタジックという印象なんです。おとぎ話を読んでいる感じというか。今回は自分の実体験をベースに書いたのですが、あまりそれをそのまま表現するのは好きじゃなくて。だから吸血鬼に例えてみたり、「エンドロール」ではカタカナを多く使ってオシャレな雰囲気を作るなど工夫しました。

――曲を受け取ったときはどう思いましたか。

PORIN:個人的には「エンドロール」に驚きました。意外というか、アタさん(atagi)にしては地味な曲だと思って。でもこの曲はすごく好きですね。

マツザカ:「Vampire」と「エンドロール」って、前者は聴けば聴くほど細かい音が入っていて、後者はあえてスカスカにしている対象的な曲だと感じます。

atagi:「エンドロール」は洋楽っぽい曲を作ろうとしたもので、一番最初のデモ段階では「ACCがエイフェックス・ツインの曲をやったらどうなるか」を想定していました。

PORIN:でも結果的に音数はすごく少なくなったね。

atagi(Vo./Gt.)。

――ビートには多少その名残がありますね。メロディはシンセサイザーをメインにしたアジアンなものに変わっていますが。

atagi:溜めのあるメロディもいいなと思って変えてみました。このテンポにした時点で、PORINが歌うことを想定した部分はありますね。

PORIN:アタさんが書いてくれる曲って、映画のワンシーンが浮かんでくるんですよ。「4月のマーチ」はソフィア・コッポラの『ヴァージン・スーサイズ』で、「Vampire」は『シザー・ハンズ』だったり。で、「エンドロール」は映画館そのものを題材にしてみました。

――高橋さんと実際に歌詞のやり取りをしてみて、印象に残った部分はありましたか?

PORIN:実際にお会いしたのは歌録りのときだけなんですけど、自分の理想としているものにどうしてもならなかったものを全部解消してくれました。

atagi:やはりキレがあるというか、1曲の中で必ずだれもに強く響くようなポイントを作るのがうまいなと感じました。僕が好きなのは「Vampire」の<神様お願い 夜をください 輝く太陽と引きかえますから>ですね。これは高橋さんが書いた一文なんです。

マツザカ:PORINが書いた歌詞を尊重して、ひけらかさずにスッと置いていく感じが素敵ですよね。

 

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