レジーのJ−POP鳥瞰図 第12回

アイドルは年齢とキャリアをどう重ねていく? AKB48、Perfume、Negiccoが示す新モデル

「アイドルのまま大人になる」 一つの理想形としてのNegicco『ティー・フォー・スリー』

 若さだけに寄りかかることなく、時間が経過しても「アイドル」として魅力的な存在であり続ける。そんなテーマに対して、音楽的な側面から一つの理想形となり得るものを提示しているのが5月24日にリリースされたNegicco『ティー・フォー・スリー』である。

 作品の方向性は、一言で簡単に説明してしまえば「アーバンなポップス」。ソウルやディスコテイストの楽曲から、最近のバズワードではなく70年代後半~80年代あたりの純正シティポップの匂いを感じさせるもの、渋谷系の時代とのつながりが感じられるカラフルなギターポップなど、今の時代における「洗練」につながる様々な音楽的意匠が導入されている。

 「ポップスとして高度に完成しているアイドルのアルバム」というのはこれまでにいくつも生まれている。そんな中で『ティー・フォー・スリー』が特別なものに思えるのは、Negiccoが昨今のアイドルブームから生まれた若いアイドルではなく、グループとして10年以上のキャリアがあり、かつこれまでもたくさんの苦労をしながら今の立ち位置を築いてきた存在だからである。「名のある作家を集めておしゃれなアルバムを作ります」というような企画先行の作品ではなく、彼女たちがこれまでの活動によって増やしてきた支持者とともに自然に作り上げたアルバムという趣の『ティー・フォー・スリー』。『Melody Palette』『Rice&Snow』、そして『ティー・フォー・スリー』と徐々に洗練度合を増していきながらも根底にある人懐っこさや暖かさは変わらないNegiccoのディスコグラフィは、彼女たち3人がこれまでのふんわりした雰囲気を保ちながらも大人の女性になっていく過程ともリンクする。

 『ティー・フォー・スリー』の先行シングルでもあり、AOR感あふれる大人っぽいトラックに深みのあるボーカルが乗る「矛盾、はじめました。」には、<理想も現実も生きたいの>というフレーズが登場する。アイドルらしい華やかさと人間的な成熟をともに感じる今作を聴いた後にこの言葉をかみしめると、「アイドルとして魅力的な存在であり続ける」という理想と「しっかり年を重ねて立派な大人になる」という現実をともに両立させる、というような決意表明にも聞こえる。今のアイドルシーンにおいて、この2つをどちらも得ようとするのはおそらく「矛盾」に他ならない。ただ、この矛盾が解決したときにこそ、アイドルカルチャーは誰からも後ろ指をさされない真の意味での文化になるのではないかと思う。Negiccoがこの先時間が経っても「アイドルとしての魅力」を持ち続けること、そしてそれが多くのアイドルにとってのロールモデルとなることを期待したい。

■レジー
1981年生まれ。一般企業に勤める傍ら、2012年7月に音楽ブログ「レジーのブログ」を開設。アーティスト/作品単体の批評にとどまらない「日本におけるポップミュージックの受容構造」を俯瞰した考察が音楽ファンのみならず音楽ライター・ミュージシャンの間で話題に。2013年春にQUICK JAPANへパスピエ『フィーバー』のディスクレビューを寄稿、以降は外部媒体での発信も行っている。

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