黒田隆憲が吉井和哉楽曲の特徴を分析

イエモン復活で再注目、吉井和哉楽曲の特徴とは? バンド~ソロの作風を分析

 “スプーン一杯分の幸せをわかちあおう”と歌われる、THE YELLOW MONKEY流のドラッグソング『楽園』(11枚目のシングル)は、sus4(サスフォー)を多用した前半のサイケデリックなムードが印象的。リリース当時、イギリスで大流行していたケミカル・ブラザーズやプロディジーらの影響も感じさせる。サビのコード進行は、B - Baug - B6 - B7 - C#m - A - C#m -F#となっており、前半はコードがBのまま5度(F#)が半音ずつ上昇していくことによって、体の内側から湧き上がるような高揚感を生み出している。

 吉井の「歌謡曲趣味」が炸裂しているのが、13枚目のシングル『BURN』だ。AメロはAm - Am -G -G -F -F - G - E。哀愁漂うコード展開と下降するベースパターン、Amの短3度であるCを強調したメロディなど、まさにドロッとした歌謡曲の世界。それがサビではC - Esus4/E - Am -F/Fmとメジャースケールに移行し、一気に開放感が押し寄せる。サビの直前(Bメロの終わり)で、一瞬Fmが登場するのが、実は強烈なフックになっている点も指摘しておきたい。

 ソロになってからの吉井は、THE YELLOW MONKEY時代の「あく」が取れ、シンプルでストレート、かつ洗練された楽曲を多く書くようになっている。例えば、YOSHII LOVINSON名義での通算4枚目のシングル『CALL ME』は、AメロがBm - A - G/A -Bmというマイナー調の楽曲だが、「Burn」のような“ドロッとした歌謡曲っぽさ”をあまり感じさせない。これは、テンションノートである9th(ここではBmというコードに対してド#の音、Gというコードに対してラの音)を使うことで、ふわふわとした浮遊感を作り出しているからだ。

 吉井和哉名義での11枚目のシングル『LOVE & PEACE』は、サビがA/Amaj7 - D - Bm - E/E7 -E6/Eと進む。メジャー7thの浮遊感や、Bm - E7のツーファイブがとても清々しい。この曲とともに、アルバム『The Apples』に収録された楽曲「FLOWER」も、サビのコード進行がC - ConB - Am - E7 - F - C -Gとなっていて、ConBの響きが「LOVE & PEACE」のAmaj7と似ている。また、サビの後半はC - ConB - Am - E7 - F/Fm -Cで、吉井が「オアシスへのオマージュいっぱいの曲」と述べているように、「Don't Look Back In Anger」を思わせる。いずれにしても、ソロ時代の彼はどこか吹っ切れたような作風が多い。

 デヴィッド・ボウイに憧れバンドを結成し、解散後は「デビッド・ボウイじゃない自分を探し」て渡米するなど、常に新たな試みに挑戦してきた吉井和哉。再び彼がTHE YELLOW MONKEYに帰還し、どのような楽曲を奏でてくれるのか。今から楽しみでならない。

■黒田隆憲
ライター、カメラマン、DJ。90年代後半にロックバンドCOKEBERRYでメジャー・デビュー。山下達郎の『サンデー・ソングブック』で紹介され話題に。ライターとしては、スタジオワークの経験を活かし、楽器や機材に精通した文章に定評がある。2013年には、世界で唯一の「マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン公認カメラマン」として世界各地で撮影をおこなった。主な共著に『シューゲイザー・ディスクガイド』『ビートルズの遺伝子ディスクガイド』、著著に『プライベート・スタジオ作曲術』『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインこそはすべて』『メロディがひらめくとき』など。

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