あえて映像とは異なる音楽を流すことも? 『新世紀エヴァンゲリオン』などの「劇伴」手法を解説

 一方、あえて「映像とは異なること」を劇伴で表現するケースもある。具体例として、人気アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の第22話で、惣流・アスカ・ラングレーが使徒から精神攻撃を受けるシーンを挙げて説明したい。彼女が攻撃を受ける際、ヘンデル作曲の「ハレルヤ・コーラス」が背景音楽として流れており、ヘブライ語で「神をほめたたえよ」という意味の“ハレルヤ”は、ストーリーとも深く紐づいているのだが、曲調はとても明るく、緊迫したシーンとは異なる雰囲気を表現。この演出は「感情移入を拒否する」ことであえて違和感を生み、ドラマを浮きだたせる「映像と音楽の対位法」という手法であり、作曲技法としての「対位法」とは別に、正統派ではないが伝統的な劇伴の表現として様々な映像作品の劇伴で用いられてきた。

 また、「少しばかりの叙情的な曲が合いそうな場面で、極端に切ない曲を流す」などといった「極端に飛躍したイメージで音楽をつける」といった例も「映像と音楽との対位法」の一種である。こちらは、コメディ色の強い映像作品でもよく見られ、登場人物の気持ちが浮き沈みする様子をユーモアたっぷりに描く際、意図して使われることも多い技法だ。

 映画において、実際の人間が演じるものは、人の表情などに微妙なニュアンスがあり、瞬き一つとってもそれが「表現」になるため、極論として音声が全く無くても観ることができてしまうのだが、アニメーションなどではそういった表現が少ないため、あえて説明的な音楽をつけるように指定されることも多い。これは効果音にも言えることで、やはりアニメーションになればなるほど、大袈裟な効果音を要求される。このように「映像そのものから得ることができる情報が実写に比べると少ない」という理由から、アニメーションで対位法を使うことは難しいため、今回提示した手法は、基本的に実写映画向きであることをご理解いただきたい。

 今回は、感情移入を狙った劇伴を作る際、基本的に導入されやすい手法と、あえて感情移入させないことを狙った劇伴の考察を行った。もちろん、それが定型というわけではなく、実際のプロジェクトでは打ち合わせを行い、音楽の方向性を決めていく。各種映像作品の劇伴では、前述した対位法の手法も含めて様々な試みが行われているが、あくまでそれらは「映像作品を視聴者がどのように解釈するか」という視聴者の立場で行われていることなので、劇場に足を運んだ際は、その点を踏まえて音楽を聴いてみると新たな発見があるかもしれない。

■高野裕也
作曲家、編曲家。東京音楽大学卒業。
「映像音楽」「広告音楽」の作曲におけるプロフェッショナル。
これまでに様々な作品に携わるほか、各種メディアでも特集が組まれる。
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