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今井美樹ベスト盤に見る“2つの現代性”とは? 選曲とサウンドから探る

 そして2つ目が、今作の収録曲に通底するトーンと昨今の音楽的なトレンドとの親和性である。これまでも様々な作家の力を借りながら、一貫して洗練された雰囲気の作品を生み出してきた彼女。これらの楽曲は「トレンド(「今、この瞬間」の気分とのマッチ)」よりも「エヴァーグリーン(いつの時代に聴いても良い)」を志向して作られてきたように見受けられるが、そこから醸し出されているムードが「ブラックミュージックを基調としたアーバンな音」という直近の音楽シーンの潮流と符合しているのが面白い。心地よいAOR感溢れる「Anniversary」(今年のオリジナルアルバム『Colour』から収録)や、本来的な意味でのシティポップ(最近のバズワードになっている「シティポップ」ではなく)という文脈で捉えることができる松任谷由実のカバーなど、「自らのやりたいことをやってみた結果、時代の大きな流れと期せずしてリンクしてしまった」というベテランアーティストならではの幸福なサイクルが展開されている。往年のファンだけでなく、「良質なポップス好き」を標榜する若いリスナーが聴いても多くの発見がある作品だろう。

 リリース形態と音楽性、「ハード」と「ソフト」それぞれの面で時代の空気を切り取った今井美樹のベストアルバム。前述したドリカム同様のロングセラーとなるか、今後も注視していきたいと思う。

■レジー
1981年生まれ。一般企業に勤める傍ら、2012年7月に音楽ブログ「レジーのブログ」を開設。アーティスト/作品単体の批評にとどまらない「日本におけるポップミュージックの受容構造」を俯瞰した考察が音楽ファンのみならず音楽ライター・ミュージシャンの間で話題に。2013年春にQUICK JAPANへパスピエ『フィーバー』のディスクレビューを寄稿、以降は外部媒体での発信も行っている。

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