成馬零一「テレビドラマが奏でる音楽」第8回

乃木坂46に秋元康が託したものは? ドラマ『初森ベマーズ』と楽曲「太陽ノック」に共通する“青春”

 乃木坂46主演の『初森ベマーズ』も『マジすか学園』の手法を受け継いでおり、ピアノが得意な生田絵梨花の役名がショパンといった、出演アイドルと演じる役の距離感を限りなくゼロに近づけていくという手法がとられている。

 第5話では、演劇部と兼任しているアカデミー(生駒里奈)が極度のあがり症のため、試合で成果を出せないという悩みが描かれる。そして「メンバーそろってるし、アカデミーには辞めてもらっていいんじゃないか」というチーム内での話を立ち聞きしてしまったアカデミーはその場から逃げ出してしまう。このシーンは本作の主題歌「太陽ノック」のMVを連想させる。

乃木坂46「太陽ノック」

 生駒が約二年ぶりにセンターを務めた「太陽ノック」のMVでは、合宿中にプレッシャーから逃げ出しそうになる生駒の姿が物語として描かれた。これは、一度センターから外された生駒の状況をフィードバックしたものだろう。

 この第5話が面白いのは、生駒の物語であると同時に、乃木坂46の世界観自体に対する自己言及にように見えるところだ。

 アカデミーは、演劇をやりながらソフトボールを続ける理由について「演劇はフィクションでしょ。でもソフト(ボール)はリアルで、だからソフトがんばれれば変われると思ったけど。人間、そんな簡単に変われないよね」と心境を吐露する。その後、アカデミーは再びバッターボックスに立つのだが、コーチから「この世は舞台、人は皆、役者」と言われ、舞台の上にいる時のように振る舞うことで、アガリ症を克服してホームランを打つ。フィクションの中の住人(アイドル)として振舞うことで彼女は過酷な現実を乗り越えたのだ。

 本作は必ずしも出来のいいドラマではない。かわいい女の子を撮るというアイドルドラマの課題は一応、クリアしているものの、スポ根漫画のパロディとなっている劇中のギャグがドラマ全体のレベルを引き下げている。別に「笑いをやるな」とは言わない。例えば、バナナマンが司会を務める乃木坂46のバラエティ『乃木坂工事中』は面白い。ただ、あの番組で起きる「笑い」は彼女たちの素の魅力を引きだしたことで起きたもので、ドキュメンタリー的な面白さだ。バラエティ出身という自負が秋元にはあるのかもしれないが、本作に関しては、笑いを排した方がAKBグループと差別化できたのでは。と、思う。

 いつか、作詞家・秋元康の純度100%の青春ドラマを乃木坂46で見せてほしい。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

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