高橋美穂の「ライブシーン狙い撃ち」 第2回

細美武士、新バンドMONOEYESで示した“今のモード” 早くも生まれたバンドマジックとは?

 まず、この連載で書くべきはMONOEYESだろう! ELLEGARDEN、the HIATUSとキャリアを積み重ねてきた細美武士が、新たに結成したバンド、MONOEYES。6月24日に1st E.P.『My Instant Song E.P.』をリリースしたばかりで、様々な歓喜を呼び起こしている真っ只中である。メロディックパンクが好きなキッズ(や元キッズ)にとっては「久々にクラウドサーフしたくなる、ストレートなメロディックパンクがキた!」と思うだろうし、細美の歌が好きな人にとっては「シンプルなバンドサウンドの中で、歌がはっきりと聴こえる!」と思うだろう。そんな中で私が最も感じたことは「だからバンドを追い掛けずにはいられない」ということ。そう、MONOEYESには、物語から、音楽から、バンドマジックがビシビシ感じられてならないのである。

 とは言え、MONOEYESの発端は、インタビューで語られているとおり、細美のソロアルバムの制作だった。それが、バンドでしか鳴らせない、というか、この4人にしか鳴らせない音楽へと進んでいったことが、何とも言えないミラクルである。『My Instant Song E.P.』を聴いても、ソロ=一人で完成させる選択肢があった時期を全く想像出来ないくらい、一体の生き物としてバンドが躍動している。この発端の物語は、理屈では解き明かせない、バンドならではの流れだと思う。「どうして、一人で自由に音楽を作りたかったはずなのに、バンドになったんだろう?」、「どうして、メンバーを集めて音楽を作り始めたわけではないのに、こんなにしっくりくるんだろう?」とか、周囲から見ていると素朴な疑問がポロポロと浮かんでしまうが、そこは彼らだけが答えを知っているのだろう。そのミラクルな過程によって生まれた楽曲は、ああ、これこそバンドにしか生み出せない輝きだな、と思わされる。単にバンドサウンドというだけではなくて、物語が影響しているところは大きいと思うのだ。

 そして、よくぞこの4人のメンバーが揃ったな、というところも重要だ。まず、アメリカでポップパンクバンド、ALLiSTERとして活躍しながら、日本ではJ-POPをポップパンクにカバーすることでお茶の間にまで飛び出たScott Murphy(B&Cho)。海外の感覚、アメリカンらしい客観的なJ-POPの感覚、ボーカリストの感覚、などなど、一人では抱えきれないほどの多くの感覚と、カラリと明るい趣向の持ち主だ。そして、ASPARAGUSをホームとして、the HIATUSにも参加してきた一瀬正和(Dr)。日本でメロディックパンクが隆盛した時代から活動を続けてきたヤンチャな遊び心を残しつつも、テクニカルに進化したスタイルは、メロディックパンクの一つの流れを証明しているようで、とても興味深い。最後に、現在は活動休止中のART-SCHOOLで実力を発揮していき、ROPESやCrypt Cityといった幅広いバンドでプレイするようになった戸高賢史(G)。控え目なようでいて常にセンスは光っている、オルタナなギタリストのツボを得たような存在感は、これからもっともっと注目されていくに違いない。……と、こうして並べると、キャラも出自も国籍までもバラバラ。でも、その中心に細美武士が存在していると、全員が繋がるし、彼がバンドに何を欲しているのかが、よくわかる。細美しか作れないバンドであり、このメンバーの誰が欠けても成り立たないバンド。そんな絶妙なバランスに、ますますMONOEYESへのロマンを感じてならない。

 それでいて、あまり重々しい捉え方は彼らに似合わない。スケジュールを見れば、ライブハウスがズラリと並ぶツアーに加え、フェスの出演予定もびっしり。フットワーク軽く活動していきたいという意思が見えるのだ。僕らの街にふらりとやってきて、バンドもキッズも心身を解放して揉みくちゃに楽しみ、それぞれが「よっしゃ」とコブシ握って明日も生きていく。そんな、ライブのシンプルなあるべき姿を、彼らはきっと見せてくれると思う。錚々たるメンバーが揃っているバンドなのだけれども、だからこそ、何周も回ってピュアに透き通った好奇心を、このバンドで弾けさせてくれるような気がするのだ。バンドの中でそんな化学反応が起きていることは、『My Instant Song E.P.』を聴いても伝わってくる。すぐにシンガロングできそうなコーラスと、雄大なメロディが幕開けにぴったりな『My Instant Song』。ツタツタ疾走するビートが堪らない、サビで飛びまくること必至な『When I Was A King』。切ないメロディと歌詞に、細美節を感じて嬉しくなる『What I Left Today』。どの曲も、「ああ、早くアルバムを聴かせたい! ライブをやりたい!」と言っているように、生き生きと響いてくる。こちらとしても、気がはやるばかりだ。

 細美武士は、常に私たちを、ときめかせ、驚かせる音楽を生み出してきた。その最新型がMONOEYESなのだけれど、過去とか、時代とか、いろんなことに囚われずに、今までにないほど肩の力を抜いて、彼の音楽に向き合える気がする。そしてそこには、今の彼の音楽に対するモードも表れている気がする。彼の足跡が、またどんな道を切り開いていくかが、楽しみで仕方がない。

■高橋美穂
仙台市出身のライター。㈱ロッキング・オンにて、ロッキング・オン・ジャパンやロック・イン・ジャパン・フェスティバルに携わった後、独立。音楽誌、音楽サイトを中心に、ライヴハウス育ちのアンテナを生かしてバンドを追い掛け続けている。一児の母。

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