『嵐はなぜ最強のエンタメ集団になったか』先行公開PART.7

嵐はいかにしてバラエティ番組で活躍の場を拡げたか 萌芽期からサブカル期の足跡を辿る

 嵐が日本一の男性アイドルグループとなった理由を、音楽性、演技・バラエティ、キャラクター、パフォーマンスという4つの視点から読み解いた書籍『嵐はなぜ史上最強のエンタメ集団になったか』が、4月16日から17日にかけて、全国書店やネット書店で発売した。同書はリアルサウンド編集部が制作を手がけ、青井サンマ氏、柴 那典氏、関修氏、田幸和歌子氏、成馬零一氏、矢野利裕氏など、嵐に詳しい気鋭の評論家・ライターが寄稿。嵐の魅力を多彩な角度から解き明かしている。

 書籍の発売に先がけ、掲載記事の一部を紹介してきた同シリーズ。今回は、嵐がバラエティ番組でどのように活躍の幅を拡げてきたのかを、人気ライターの田幸和歌子氏が読み解いたコラムの前半を公開する。(編集部)

参考1:【嵐が次にめざす方向性とは? “日本一のエンタメ集団”を徹底分析する書籍登場】
参考2:【嵐の楽曲はどう“面白い”のか? 柴 那典×矢野利裕がその魅力を語り合う】
参考3:【嵐がジャニーズの後輩に与えた影響 各メンバーの姿勢はどう引き継がれていったか(前篇)】
参考4:【嵐がジャニーズの後輩に与えた影響 各メンバーの姿勢はどう引き継がれていったか(後篇)】
参考5:嵐が描いてきたゼロ年代の情景とは? ドラマ作品における軌跡をたどる(前編)
参考6:嵐が描いてきたゼロ年代の情景とは? ドラマ作品における軌跡をたどる(後編)

嵐はなぜバラエティ番組で求められた?

 現在、グループでは『VS嵐』(フジ系)や『嵐にしやがれ』(日テレ系)、個人では、相葉雅紀の『天才!志村どうぶつ園』(日テレ系)、『相葉マナブ』(テレビ朝日系)、『トーキョーライブ22時~ニチヨルまったり生放送』、櫻井翔の『櫻井有吉アブナイ夜会』(TBS系)、二宮和也の『ニノさん』(日テレ系)と、多数のバラエティ番組を持つ嵐。

 人気では圧倒的首位を走り続けているものの、正直、SMAPのように突出したMCスキルを持つメンバーがいるわけでも、トークが特別上手いわけでもない。また、TOKIOのようにハードな体当たり企画をやるわけでもない。にもかかわらず、なぜこうもバラエティに愛されるのか。嵐がバラエティの数々の枠を占拠していった理由を、いくつかのキーワードから見ていきたいと思う。

1「バランスの良さ」

 突出したMCスキルやトークスキルがあるメンバーがいないということは、一見弱点に見えて、嵐にとっては実は最強の武器となっている。たとえば、SMAPの活躍以降、ジャニーズも「笑い・バラエティができて当たり前」になっている状況下で、芸人顔負けのトークやメンバー内の「イジリ」は、ときにキツイ印象を与え、一部では敬遠されることもある。

 その点、特定のメンバーが牽引するのではなく、横並びの仲の良さは、嫌味がなく、不快感を生むことがない。芸人のような「ドヤ」感もなく、ほどよい温度は「お茶の間」の空気にちょうどよくなじむ。

 それぞれのメンバーのカラーは見事にバラバラだが、櫻井翔の「進行」、二宮和也の「ガヤ芸」、松本潤の「冷静なツッコミ」、相葉雅紀&大野智の「自由・天然」具合が良い感じに連携し、溶け合うことで、ひとつのおさまりの良いピースになる。それは、どこでも、誰とでも組み合わせやすく、汎用性が高いために、バラエティで重宝される強みとなっているのだろう。

2「下積みの長さ」

 嵐が国民的人気グループになってから長期政権になるが、それには彼らの下積みの長さが影響しているだろう。

 デビュー会見はハワイのクルーズ客船で行うなど、スタート時から華々しい印象がある嵐。だが、実は10年以上前には「事務所内優先順位は8番目」などと、本人たちが自虐ネタを言うほどの停滞期もあった。

 デビューしてすぐに大きな会場でコンサートをさせてもらえるわけでもなく、単独主演映画は「グローブ座」のみの上映、ラジオや冠番組は関東ローカルという状況で、ネット上には「嵐のようにならないためにはどうしたらいいか」「嵐はいつになったら売れるのか」といったスレッドが立つほど。

 実際、ブレイクするまでの長い下積みのなかでは、それなりに体を張るバラエティの企画も体験しているし、苦労だってしているはずだ。にもかかわらず、嵐の特異な点は、停滞の中で反骨精神を培ったわけでも、下積みや苦労をバネに大きく飛躍したわけでもなく、上を目指して野心を燃やしてきたわけでもなく、かといって、負け犬根性や他者への妬み・やっかみなどを抱くわけでもなく、常に同じ温度で地道に経験値を積んできたこと。

 ついでに言うと、トップアイドルグループとなってからもなお、嵐の温度は変わらず、売れたことについても「今も不思議」というスタンスでい続けている。常温でじっくりと時間をかけて積み重ねてきたからこそ、揺るぎない地盤が作られていったのだろう。

3「時代に愛されたキャラクター」

 さらに、嵐人気の最大の理由には、嵐というキャラクターが時代にピタリとハマったことがあるだろう。

 初動で爆発的にヒットした「不良」イメージの強いKAT-TUNや、デビュー前からドラマなどですでに人気者だった山下智久中心のグループ・NEWSが、メンバーのゴタゴタなどによって、次々に失速。その反動のように、「仲良し」「平和」「真面目」な空気の嵐が受け入れられていった。

 全員が横並びで、お互いをフォローし合い、良さを引き出し合うほのぼのした空気は、今の時代にピタリとハマり、ホッとする存在として広い世代に支持された。厳しい競争社会や、長引く不況下で疲れた人たちが、彼らに癒しを求めた部分は大きかっただろう。

 そして、この「仲良し」というキーワードの他に、嵐についてファンが語るときによく登場するのが「ユルい」「うだうだ」「ぐだぐだ」という言葉である。面白いことに、嵐についてはメンバーの名前や代表作ではなく、グループの「空気」が語られる。「性」を感じさせず、クセやアクがなく、普通っぽくて、誰にでも愛される、嵐というキャラクターのお茶の間バラエティ的な「ちょうど良さ」。次からは、彼らのバラエティ分野における足跡を見ていこう。

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