小野島大が本人直撃取材

ART−SCHOOL木下が語る、活動休止と再出発(前篇)「新しいクリエイティヴ・チームを作ります」

 

「お金にならないのは当たり前でやっていると、未来なんてない」

ーーなるほど。レーベルについては自主でいくとして、マネージメントについてはどう考えたんですか。

木下:どこかに所属するって考え方はまったくなかったですね。どこかに所属して、40歳すぎていきなり切られてオタオタするより、自分でやったほうがいいなと。どんな大きな会社であれ今後どんどん予算は少なくなっていくだろうし。そこで会社に所属したところで、同じことの繰り返しが待っているだけですからね。だったら僕が、ライヴ制作はこの人とやりたい、デザイナーはこの人がいい、ライヴ・プランニングやプロデュースはこの人、流通はここ、という信頼できる人たちとがっちり組んで、クリエイティヴなチームでやっていくほうが絶対にいいと思うし、こういう動きをする人は今後もっと増えていくと思う。そういう意味で面白い活動の仕方をしていると思うのは大森靖子ですね。

ーーなるほど。

木下:若い子に相談されることがすごく多いんですけど。「どうやって音楽で食っていけばいいですか」って。昔と違って給料なんてもらってる人は誰もいない。そんな状況で、どうやって音楽を続けていくか。もちろん、いいものを作るのは当然の大前提として、こういうやり方もあるよって、自分なりに示していければな、と思うんです。若い子たちにやる気を持ってもらいたいんですよ。

ーー希望を持ってもらいたい。

木下:そう。ある編集者の人に聞いたんですが、今の若い子(音楽家)って、最初から食えないことを前提として音楽をやってる子がほとんどだというんです。そういう子たちに、音楽をやる希望を持ってもらえればいいなと。それはけっこう大きなモチベーションになってる。

ーー信頼できる仲間とクリエイティヴなチームを作るというやり方もあるよと。

木下:そこで仮に失敗しても、誰かの責任には絶対ならない。全部自分の責任だから。そこで誰かのせいにするよりは、すべてを自分の責任で、すべてを自分がコントロールしたほうがいい。そこでチームのメンバーを集めて、独立の準備を進めたんです。

ーーじゃあ今はもう独立してインディペンデントな状態なんですね。

木下:そうです。2/13のライヴは、基本的には物販からPAの手配から、全部自分たちでやることになります。

ーーなるほど。まさに再スタートですね。

木下:今や映画も文学も音楽もどんどん(市場が)縮小していってるじゃないですか。ただいわゆる「kawaii文化」みたいなものだけはーー映画の方が言ってたんですけどーー予算がつくんですよ。でもそうじゃないちゃんとした映画をやろうとしても、1/100の予算しかつかない。だから映画監督で映画だけで食べてる人は数えるほどしかいない。みんなCM撮影とかいろんなことをやって生活してる。そういう厳しい時代に突入してる。もちろん音楽なんて衣食住には関係ないですから、音楽がどんどんタダになっていく傾向は仕方ないのかもしれない。でもタダで音楽は作れないですからね。ゴッホだって仕送りがなかったら餓死するしかなかった。だから少なくてもいいから、お金は受け取ったほうがいいと思う。自分が心とカラダを削った対価としてね。食えないのは当たり前、お金にならないのは当たり前でやっていると、未来なんてないじゃん、って思う。

ーーそうですね。

木下:そこで一番参考になる動きをしていたのが、THE NOVEMBERSとPLASTICZOOMSですね。彼らのやり方は非常にスマートだった。あっ、先越された!と思いましたね(笑)。やりたかったことを先にやられちゃった。

ーーなるほど。

木下:以前ソニーにいた時に言われていたことが、ウチは百貨店みたいなものだから、という。いい意味でね。ART-SCHOOLがいるのは異質かもわかんないけど、それが面白いんだと。そういうのも受け入れて置いてあるのが百貨店だから。大きなセールスをあげるアーティストなら売り上げに貢献できる。でも僕らがいる意味はそういうこととは別のところにあったと思うんです。でもこれからは間違いなく、そういう時代ではなくなっていく。

ーーART-SCHOOLみたいなメインストリームから見れば異質な、でも良質なバンドを抱えるような余裕が、どこもなくなってきてる。

木下:うん。もともとはひとつの世界観を大事にしてきたバンドだった。この味しか出せません、というバンドだったんです。でもそれでは(大きな組織のなかでは)やっていけなくなってきてる。そこで原点に戻ろうと。この味しか出せません、でもこの味は最高なんですよ、というお店を個人として出そう、ということです。そういう動きがどんどん広がっていけばいいなと思う。

ーーアメリカやイギリスでは、オルタナティヴ系のロック・バンドはことごとくメジャー・レーベルから離れてインディペンデントな活動に移行してますよね。今やメジャー・レーベルから出るロックのCDって、旧譜の再発ばかりですから。近いうちに日本もそうなっていくのかもしれませんね。

木下:特に今年に入ってから、そのスピードはどんどん早くなっていくと思いますよ。業界はどんどん縮小してるし、どんどん(バンドやアーティストが)切られていく。いざそうなったときにあたふたしないように、ちゃんと自分の足で立って、自分たちのチームでやっていくことの大事さを痛感したんです。

ーーじゃあ2/13のライヴのあとはクリエイティヴ・チームとしての会社を立ち上げて。

木下:そこにはレーベルも入ってきます。

ーー具体的にどういうメンバーで構成されてるんですか。

木下:株式会社ザ・フォレストの森くん(正志:プロデュース、ブッキングなど)、株式会社インターブレンドの松田くん(ようすけ:コンサート制作)くん、セントラル67(デザイン)の木村くん(豊)、中野くん(敬久:フォトグラファー)。最高顧問でダイマス(株式会社UKプロジェクトの代表・遠藤幸一)。流通はUKにお願いするんですよ。最終的にはKitsuné (フランスのインディ・レーベル)みたいにしたいんです。もちろん彼らは彼らで会社を率いてますから、協力者ということでお願いするつもりです。

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