ほぼ日刊惑星開発委員会「ポスト『J-POP』の時代」イベントレポート

水野良樹×kz×柴那典×宇野常寛が語る、変化するJ-POPと音楽の未来

 評論家・宇野常寛氏の主宰する企画ユニット「第二次惑星開発委員会」による総合誌『PLANETS』主催のトークイベント『ポスト『J-POP』の時代――激変する音楽地図とクリエイションのゆくえ』が、4月28日(月)19:00より東京都港区「SHIBAURAHOUSE」にて開催された。同イベントには、いきものがかりリーダーの水野良樹氏、ボカロを出発点として活動の幅を広げてきた音楽プロデューサーのkz氏(livetune)、さらには新著『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』を上梓した音楽ジャーナリスト柴那典氏が出演、宇野常寛氏が司会を務めた。今回リアルサウンドでは、『PLANETS』より寄稿された当日のレポートを掲載する。(編集部)

■イベント概要についてはこちらのページから
http://wakusei2nd.com/archives/3994

■当日のTwitter実況のまとめはこちら
https://togetter.com/li/660586

音楽が細分化し過ぎていて、全体の状況を見て何かを語ることが難しくなっている(宇野)

イベントは宇野氏が企画の趣旨を説明するところからスタート。

宇野:今日は「これからの音楽」という大きなテーマについて話していきたいと思います。サブカルチャー分野で音楽ほど、この20年で地図が変わってしまったものはない。20年前はサブカル好き=音楽好きであったが、全く音楽に触れてこなかった僕のような人間が若者のサブカルチャーを語る人間として受け入れられるようになった。それがまず大きな変化である。音楽の内部も、80年代のテレビや広告とタイアップしたメジャーなJ-POPと、それに対抗するマイナーなJ-ROCKという構図も変化しているし、洋楽の位置づけも変化している。また、現在では、それまでほとんど顧みられることのなかった、アニメソング、アイドルソング、ヴィジュアル系、そしてボーカロイドといった音楽がむしろ市場的にはメジャーになっている。ということはつまり、音楽というものが細分化し過ぎていて、音楽の全体の状況を見て何かを語る、ということが難しくなっている。こんな状況にあるからこそ、普段まったく接点のない4人を集めたらおもしろい話ができるんじゃないかと考えてこの場を設けました。

 自己紹介が終わると、さっそくJ-POPの現在についてトークが始まりました。

柴:何がJ-POPを作るか、といったときにそれはランキングだと思う。ポピュラーとは『人気がある』ということなので、売れれば後付けで『ポップス』と呼ばれるようになる。そこで言うと90年代はランキングと聴いている人数がイコールだったんですよね。

水野:しかし、現在ではCDの販売数とその音楽を聴いている人数が相関性がないですよね。

宇野:相関性がないというのは、ランキングの集計方法が悪いのか、それとも、社会の在り方が変わったのか。僕は後者だと思います。

 宇野さんの社会の在り方が変わったという発言を受けて、水野さんがロンドンオリンピックの主題歌である『風が吹いている』をどういう考えから生み出していったのかを語り出しました。

水野:いきものがかりは、国民的音楽グループといった表現をされることが多いです。これはつまり、大衆を相手にしているメジャーなものと思われていると思いますが、大衆というものが80年代にあったようなマジョリティではなくなっている。それはすでに、ひとつのコミュニティにすぎない。そういった状況で、ロンドンオリンピックの主題歌を作ろうと思ったとき、心をひとつにしよう、みんなで頑張ろうといったことを歌っても絶対に届かないと思い、みんながバラバラであるけども、同じ時間、社会にいるという状況を歌ったのが、『風が吹いている』でした。

kz:僕がつくったGooglechromeのCM曲『TellYourWorld』も実は、特定の人物を描いたものではなく、事象そのものを歌ったものだったんですよ。

水野:みんながバラバラになってしまった今、その全てのコミュニティを繋げるものを作ろうと考えたとき、特定の人物を主人公にして、どこかのコミュニティに特化した、コミュニティ・ミュージックでは限界があると感じています。

お金が集まるところに、クリエイターも集まり、そうするとおもしろいものができてしまう(水野)

▲水野良樹氏(いきものがかり)。

 水野さんの言う「コミュニティ・ミュージック」をキーワードにしてトークは進んでいきます。

 水野さん自身は、今後AmazonやGoogleのようなプラットフォームを作り、そこに集まってきたものを歌うことで、多様な人々がつながっていく音楽を作れたら面白いと述べていました。

 そして、同じく作り手であるkzさんがこれからの音楽への向き合い方を語ってくれました。

kz:いま最大のコミュニティ・ミュージックはEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)だと思います。ひとつのコミュニティではあるけど、大規模になるとグローバルになる。

柴:EDMで今売れっ子の、スウェーデン出身のDJのアヴィーチーって、年収20億とも言われていて、ハリウッドに豪邸を建てていたりしますよね。

水野:やはり大きな場というのはおもしろい。お金が集まるところに、クリエイターも集まり、そうするとおもしろいものができてしまう。これは重要な事実だと思います。J-POPが衰退し、お金が集まらなくなると、結果おもしろいものができなくなるのではないかという危機感を感じています。

 現在進行形でユニークなクリエイターが集まっているグローバルなEDM市場の話と、かつての日本の音楽制作現場について、話題は進んでいきました。

水野:J-POPの特殊さは、広告など違った分野と結びついて作品に影響を与える点だと思います。また様々な人が制作に関わることで、個の表現に固執することなく作品が成立していく点も非常におもしろい点であると思います。しかし、その点は日本では軽視されているので、もっと注目することでおもしろいものが産まれてくると思います。

宇野:水野さんの考えはJ-POPの特性とは、日本のレコード会社に受け継がれている特殊な制作システムにあるということで、その部分をもっと大事にしたほうが良いというお話ですね。

kz:海外での事例をお話しすると、現在コライト、共作が中心になってきています。たとえばダブステップというジャンルで有名なスクリレックスは個人の名前ではなく、チームだというような話をしています。チームで作っていくというムーヴメントがダンスミュージックのなかで湧き上がっています。音楽はクリエイター1人で作っていくというものではないという認識は、1番新しいポップスの人たちは持っていると思います。

音楽が今戦わなければならない相手はLINEのスタンプ(柴)

▲kz氏(livetune)。

 良い作品を作るプロセスには、時代とともに制作形態や手法に変化があっても、様々な人の手がかかることによって、普遍化していく手法があり、それを面白がることにおいて、水野さん、kzさんのお二人のお話は共通しているのかもしれません。

 トークは音楽の制作という内部の話から、全エンターテイメントのなかで音楽をどう位置づけ、そして展開していくべきかという話題へと移っていきます。

柴:音楽が今戦わなければならない相手は何かというと、僕はLINEのスタンプだと思います。LINEスタンプってすごく手早く感情を共有できるので、これはJ-POPの、特に着うたが担っていた機能を大きく奪っていると思います。

▲柴那典氏。

宇野:それはカラオケ2.0をいかに作るかという問題だと思います。ティーンがカジュアルにつながるツールが歌謡曲からLINEスタンプのようなネットの無料コンテンツに取って代わられてしまっている。

 この柴さん・宇野さんの問題提起から「つながるツール」としての音楽はいかにして機能するか、が話し合われました。kzさんはこう指摘します。

kz:パーティミュージックがカラオケ2.0になり得ると思います。いきものがかりでいうと『じょいふる』のような曲ですよね。

柴:いまのJ-POPっていろんな文脈と物語を追ってきた人が共有できるハイコンテクストなものになっていると思うんですよ。でもローコンテクストなものも必要で、「ぱぴぷぺ」が歌詞にある『じょいふる』のような曲がそれにあたるのではないか、と。

 日本でのローコンテクストなパーティミュージックに話が進みかけたところで宇野さんが待ったをかけます。

宇野:恥ずかしがり屋の多い日本人は、カラオケボックスという装置の中で、近しい人間が集まって、ここでは恥のかきすてだよ、という暗黙のルールがあってはじめて盛り上がれる。そういった環境をいかに作るかということが重要だと思う。

柴:『アナと雪の女王』で、みんなで歌おうバージョンというのが映画館で始まっていますね。映画館をカラオケにしてしまおうという試みです。

水野:海外でも行われてますよね。『参加したい』という気持ちが世界共通だっていうことですよね。

ダンスミュージックは基本的に参加型のカルチャー(kz)

▲白熱したトークは予定を大幅に超え、二時間以上にもわたって続いた。

 参加という欲望をいかに促していくかということにトークは進んでいきました。

水野:たとえばサッカー選手ってサッカー教室を開くと思うんですけど、音楽業界でそれをやれているのはEXILEさんだけだと思います。EXILEさんのダンススクールのすごいところは、その中から生まれるスターは1人だけですが、残りの人たちはコアなファンになって、自分たちを支えてくれるという点です。ファンも作るし、仲間も作る素晴らしいシステムなんですね。

kz:ダンスミュージックは基本的に参加型のカルチャーだと思います。勝手にボーカルを抜いたりして、リミックスを作ったりしています。

水野:ダンスミュージックでは普通に行われていることが、J-POPでは作品と作家が強く結びつきすぎていて、柔軟性が損なわれている。

kz:日本では二次創作の文化がすごく盛り上がっているのに、権利者側がそこに対応できていない。リミックスコンテストも少なくて場がやはり少ないという問題もありますね。

 今回掲載した以外にも、J-POPの『共感』という聴き方について、初音ミクやゴールデンボンバー、さらには矢沢永吉までも話が及んだ音楽における『キャラクター』の議論や、J-POPの海外展開について、など白熱したトークが行われました。

 現在、PLANETS編集部では今回のイベントのトーク内容のすべてを何らかのかたちでテキスト化し、みなさまにお届けできるよう交渉中。詳細は、PLANETSメルマガ「ほぼ日刊惑星開発委員会」にて。

▲左から柴氏、kz氏、水野氏、宇野氏。

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