新作『Attractive Museum』インタビュー
OSTER projectが語るボカロシーンの変化「今は視聴者も多様な曲を受け入れる体勢ができている」
2007年に初音ミクブームの火付け役の一端を担った楽曲「恋スルVOC@LOID」を手掛け、現在もボーカロイドシーンの先駆けとして活躍を続けるOSTER project。彼女が4月23日にリリースする『Attractive Museum』は、OSTER projectの特徴であるキュートな楽曲に加え、「Music Wizard of OZ」では20分という収録分数でミュージカル調の楽曲を繰り広げるなど、音楽的なチャレンジを盛り込んだアルバムとなっている。今回リアルサウンドでは、ボーカロイドシーンに黎明期から関わる彼女に、自身のルーツや初音ミクとの出会い、シーンの変化などについて語ってもらった。
「クリプトン社さんのページを巡回するのが趣味でした」
――音楽を作るようになったのはいつ頃からですか。
OSTER project(以下:OSTER):実際にパソコンを使って音楽を作り始めたのは13歳くらいからです。幼いころからクラシックピアノを習っていて、ショパンなどが好きだったんです。インターネット上でクラシックの曲を公開しているサイトを巡回していて、MIDIデータを聴いていました。その頃はmp3で公開できるような回線がなく、MIDIデータが主流の時代でしたから。聴いているうちに「このMIDIデータってどうやって作っているんだろう?」と興味が湧いて調べてみると、自分でもソフトを使えば作れることがわかったので、ソフトを購入しました。最初は既存の楽譜通りの音符を打ち込んでいたんですが、そのうち自分のオリジナル曲も少しずつ作り始めるようになったんです。
――クラシックがベースになっているんですね。ゲームの音楽もお好きだということなんですが、当時のオリジナル曲にそうした趣向は反映されてましたか?
OSTER:初めて「作り手」の存在を意識したのは、KONAMIの「BEMANI」シリーズです。様々なタイプのコンポーザーが参加しているので、幅広いジャンルを知ることが出来ました。私が色々なジャンルの音楽を作れるようになりたいと思ったきっかけも、このゲームに出会ったからです。彼らの存在を知ってからは「自分もいつかこういう職業に就きたいな」と具体的に思うようになりました。当時は彼らの音楽性に近いインストゥメンタル楽曲を夢中で作っていて、TOMOSUKEさんの作る音楽に一番影響を受けていました。
――確かに、OSTER projectさんの作っている楽曲は彼の作るものに近い要素を感じます。別名義のZektbachに近い、叙情的でファンタジーな楽曲もあったり。
OSTER:中世ヨーロッパ的なテイストは元々好きだったので、「ドロッセルの剣」などの楽曲は、Zektbachさんの曲やTatshさんの「Xepher」にあるような中二的要素を意識して作った部分はあります。渋谷系に関しては、「GuitarFreaks&DrumMania」でCymbalsの「Show Business」を知ったのをきっかけにして、そこからいろんなアーティストを聴きました。昔のアーティストに関してはそういった形で知ることが多かったです。
――当時世の中で流れていたJ-POPとはまた違う流れですね。そういうものは聴いていましたか?
OSTER:小学生の頃はJ-POPが盛り上がっていたので、よく聴いていました。GLAYやMr.Children、安室奈美恵さんが流行っていた時代ですね。一方で、当時もアレンジ的に凝っていたり面白い進行の、曲に対して興味を持つことも多かったです。冨田ラボさんのアレンジがすごく好きで、自分の琴線に触れる曲のアレンジャーがほとんど冨田さんで。ああいう技巧的で玄人好みのアレンジは、言葉は悪いけど「バカ売れ路線」の曲には珍しいと思うんです。そういうスタイルを持ちながら、あれだけのヒット曲を書けるということに衝撃を受け、自分も技巧的でありながら多くの人に受け入れられるような曲を作りたい、と思うきっかけになりました。
――そこからボーカロイドに出会うわけですね。OSTER projectさんの代表曲である「恋スルVOC@LOID」は、ボーカロイドのヒットナンバーの先駆けで、初音ミクが発売されて2週間ほどでリリースされました。ボーカロイドを見つけたきっかけは?
OSTER:DTMオタクだったので、クリプトン社さんのページを巡回するのが趣味でした。巡回中に偶然、リリースされたばかりの初音ミクを見つけて、デモソングを聞いたらすごく良かったのですぐに買いました。これまで使ったことのなかったジャンルだったので冒険でしたけど、「かわいいしそんなに高くないからいいかな」みたいな感じもあって(笑)。音楽ソフトとしては安い部類でした。最初は周りから「お前あれ買ったの?」みたいな反応でしたが……
――最初はみんな懐疑的だったんですね?
OSTER:私は大学でコンピューター系の技術を学んでいて。クラスにもそういう方面に詳しい人は多かったので、みんな名前だけは知っていました。当時はまだ流行していなかったこともあり、俗物に近い扱いを受けていたようにも思えます。私はそんなつもりではなく、声を聞いて良かったから買ったんですけど、あまりそういう見方をしてくれる人はいなかったですね。