新作『manners』と創作作法を明かすインタビュー(後編)

藤原ヒロシが考察する音楽とファッションの関係史「パンクに匹敵する出来事は起こっていない」

現在、藤原ヒロシは京都精華大学のポピュラーカルチャー学部で客員教授も務めている

――ポップミュージックで革命が起こらなくなったことで、ファッションなど他のカルチャーにはどんな影響があったのでしょうか。

HF:まず、ファッションがコスプレっぽくなりますよね。ある音楽を聴きに行くときはそれにふさわしいファッションをするけど、普段は違うという。本来、パンクとかだったらライフスタイルまで影響されるから、普段もボロボロのTシャツ着ちゃったりするじゃないですか。でも、そういうことがなくなってきた。

 この前、若い子とちょうどポップカルチャーの話になって、パンクの話とかをしたんです。その子にどういう音楽が好きなのって訊いたら、レディ・ガガとかが好きです、と。でも彼女、レディ・ガガの恰好はまったくしない普通の子なんですよね。で、なんで真似しないのって訊いたら「だって生肉ですよ」って(笑)。たしかに生肉のドレスは着れないなって思いました。あれは昔で言ったらKISSとか、今でいったら氣志團みたいな感じで、コスプレと同じ捉え方なんですよね。もう、カルチャーというか、生き方やファッションまで真似したくなるというようなムーブメントは生まれにくいんだと思います。

――音楽自体は残るけど、新たなムーブメントは起こらない。

HF:そうでしょうね。考えてみたら仕方ないかなと思います。モノが消えないから、どんどん薄まっていく。新譜が出たから買おうと思っても、その中の100人に一人は、ビートルズっていうのが良さそうだからそっちを買ってみようってなる。アーカイブが常にあるから、ひとつひとつがどんどん薄くなっていく。それはもう、ファッションでもなんでもそうかなと。あらゆるものが薄まっていく。

 音楽だって、若いうちは今のアーティストを「これカッコイイ」って好きになっても、“この人は昔ピストルズっていうのを聴いていたんだ”とか“ビートルズっていうのを聴いていたんだ”って知れば知るほど、どんどん薄まっていく。言い換えると、買わなきゃいけないものや、聴かなきゃいけないものが増えていくわけですから。

――なるほど。アーカイブ化が進む音楽という文化には、どんな可能性が残されていますか。

HF:やっぱりライブ感というものはなくならないのではないでしょうか。アナログ的な良さというか、空気感というか。それは残るのではと思います。

――一一方で、今回のアルバムはレコーディングならではの音作りになっていますよね。

HF:打ち込みで、ライブではできない音がいっぱい入っていますね。でも、初回生産限定盤に付いているdisc2の方は、リハーサル・セッションみたいになっているんですよ。これはこれで面白いんですよね、同じ曲でも全然違うので。今のところは打ち込みの曲をライブで表現しようとは思っていないんです。どこで線をひいていいのか自分でもよくわからない。

 人によっては、自分でしっかり歌ってギターも弾いているけど、コーラスはサンプリングって場合もあるじゃないですか。コーラスがサンプリングってことは、絶対リズムは揺れないわけだから、そこにライブ感は本当にあるのかなって思うんですよね。ミステイクも含めたライブ感というものも、醍醐味というか。その時しか味わえないものだから。音楽は聴くだけなら、もうiTunesとかでいくらでも聴ける。だから、その場の空気感がより重要になっていくんじゃないかと思います。

――今後もシンガーソングライター的な活動は続けていきますか。

HF:どうでしょうね。でも、レコーディングやライブは楽しいので、続けていきたいですね。こういう集大成的なアルバムになるかどうかはわかりませんけど、またやってみたいとは思います。
(写真=竹内洋平/取材=神谷弘一)

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