北川昌弘が「アイドル40年史」を語る(後編)
「今のアイドルファンは服装が小奇麗で...」オタク第一世代が語る、現シーンへの戸惑いと期待
――ファンと直接、コミュニケーションをとるようになったのはAKB48から?
北川:そういう流れは、実は90年代から"地下アイドル"にはあった。例えば、制服向上委員会なんかは昔からあった(92年結成)し、今も続いている。今年、再結成が話題となった東京パフォーマンスドール(90年結成)が先駆けでしょうか。当時からライブハウスでの活動に重きを置いて、ファンと密なコミュニケーションをとっていました。東京パフォーマンスドールだけは、かなりメジャー展開にも成功し、目的を果たして終了した感じですが、地下アイドルとAKB48には、決定的に違う点があります。制服向上委員会は一時期メディアの取材NGにするなどして我が道を行く感じでしたが、AKB48は最初からメジャーになることを恐れていないんです。それどころか、地下的なところからトップを目指していた。地下アイドルは一瞬、脚光を浴びることがあっても、それを継続していこうという発想はなかったのだと思います。メジャーになると普通、最初から付いていたファンは離れてしまいますからね。
――AKB48は、なぜ「会いに行ける」というコンセプトとメジャー化を両立できたのでしょう?
北川:インターネットやソーシャルメディアの普及が決定的だったのは間違いないでしょう。映画がテレビの登場でパワーダウンした時と同じで、それに代わるメディアが登場したからこそ、テレビはパワーダウンしたのだと思います。そして新しい主導権を握るメディアが登場すると、アイドルとファンの関係も変わります。AKB48はソーシャルメディアをうまく活用して、細かく情報を発信しつつ、ファンの意見を取り入れる姿勢を保てているからこそ、メジャーになってもファンと密な関係を築けている。テレビに出るときも、主要なメンバーだけが出るわけですから、グループには何人いてもいいわけです。
――最近は、アイドルといえばグループという印象があります。
北川:グループアイドルとは、ぶっちゃけて言えば、ある程度のレベルの人を集めて、その中で競争させることによって、最後に残った人でやっていこうという手法なんです。未熟なうちから人前で歌わせて、それをソーシャルメディアなどで拡散して、上手にアピールできると成功するという。その中でピンで活躍できる人も出てくるだろうし、そうじゃなければふるいにかけられる。街でスカウトして、テレビに売り込んでっていう従来のやり方よりも、ある意味では効率的ですし、成功確率も高い。だからこそ、今はみんなグループで始めるのが普通になっているのだと思います。
――今後はもう、単体のアイドルが天下を取ることは難しいのでしょうか。
北川:いや、テレビはまだまだ侮れない、と考えています。「あまちゃん」に象徴的ですが、あのドラマは今の状況を理解した上で、ソーシャルメディアやグループアイドルの手法をテレビの中に取り込むにはどうすればいいのかっていうのを、すごく真面目に考えている。テレビを使って、80年代からのアイドルの流れも入れ、地方アイドルの流れも入れ、さらに今の日本が抱える問題も取り込んでいます。「あまちゃん」の能年玲奈のように、テレビの中から単体のアイドルが成功する余地はあると思います。ソロでアイドル歌手的展開はかなり難しくなったと思いますが、それでも、きゃりーぱみゅぱみゅとかが結果を出しています。広末涼子や深田恭子や上戸彩的なドラマやCMを中心に活躍するテレビの中のアイドルは、今後も生まれるでしょう。武井咲とか、剛力彩芽とか。そして今は、能年玲奈に注目というわけですね。
――テレビはテレビで継続していくと。
北川:かつて、テレビが普及したあとも映画が残ったのと同じように、ネットの普及後もテレビは残るでしょう。別にテレビとSNSが真っ向から戦争する必要はまったくないので、どんどん融合して、両方使ってうまくやりましょうっていう流れになっていくと思う。気になるのは、レコード会社が今後どうするのかというところ。単にCDを売っていくだけの時代は終わってるでしょうから、そこは真剣に考えなきゃいけないところですよね。(了)
(取材・文=編集部)