YOSHIROTTEN、8年ぶりの東京個展はJAXA協力の「宇宙アート」 榮倉奈々と語る“生き物のように変化する展覧会”

 東京の空の上、地上約200メートル。虎ノ門ヒルズ ステーションタワー45階のTOKYO NODEで、アーティスト・YOSHIROTTEN(ヨシロットン)の個展「ヨシロットン展 彼方との交信/BEYOND EARTH」が10月30日に開幕する。東京では8年ぶり、本人にとって過去最大規模の個展だ。

 JAXAの協力による「宇宙アート」の新作群に加え、49階の屋上では今年30周年を迎えたポケモンカードゲームとのコラボ展示「ポケモンカードゲーム & ヨシロットンパーク」も同時に展開される。一般公開に先立つ10月29日、プレス発表会と内覧会が行われ、音声ガイドのナビゲーターを務める俳優の榮倉奈々が登壇した。

 YOSHIROTTENは1983年鹿児島生まれ。クリエイティブスタジオYARの代表として、Hermès、Nike、G-SHOCK、スティーヴィー・ワンダー、山下達郎らと協業してきたアートディレクターであり、同時に「見えないものの可視化」を軸にファインアートを発表し続けてきた作家でもある。今年9月にはポケモンカードゲーム30周年のキービジュアルも手がけており、屋上展示はその縁から生まれたものだ。

 本展は3つの部屋で構成され、代表作《RGB》《FUTURE NATURE》《SUN》の3シリーズがそれぞれの部屋の軸になる。1部屋目で作家の原体験と心のなかの風景を、2部屋目で宇宙の彼方を、3部屋目で地底の彼方を描く。いろいろな「彼方」を旅する展覧会だ。登壇したYOSHIROTTENは、「この瞬間、この時間、このタイミング、いろんなところが織り混ざって、展覧会が生き物のように存在している空間になっていきます」と本展の性格を言い表した。

YOSHIROTTEN

「頼むなら彼女しかいない」内之浦出身の榮倉奈々が声を担う

 トークセッションのゲスト、榮倉奈々はYOSHIROTTENと15年以上の付き合いになる友人で、東京での最初の個展から作品を見続けてきたという。

(左から)YOSHIROTTEN、榮倉奈々

 音声ガイドを依頼した理由を、YOSHIROTTENはこう語る。「今回はJAXAさんに協力していただいた展覧会で、JAXAの内之浦宇宙空間観測所からお借りしたものもある。彼女はその内之浦の出身なんです。宇宙の話もよくするので、音声ガイドを頼むなら彼女しかいないなと思って、僕が直接お願いしました」。

YOSHIROTTEN

 榮倉も「内之浦の観測所から打ち上がった衛星『おおすみ』のことは知っていて、子どもながらに、そこで生まれたことをちょっとだけ誇らしいと思っていた。でもそのことを知っている人になかなか出会えなくて、(YOSHIROTTENと)初めて会ったとき、鹿児島出身同士で盛り上がった思い出があります」と振り返った。

榮倉奈々(身につけているスカーフは《宇宙百景》のアートワークをあしらった会場限定グッズ)

 この音声ガイドには仕掛けがある。会場で有償貸出されるヘッドホンは耳をふさがないオープンイヤー型で、作品の前に立つと操作なしで自動的に音声が流れ、各展示空間に流れるサウンドとナレーションを同時に聴くことができる。「展覧会の中で音楽や音はすごく重要な要素で、今回は各展示で音が流れています。それを聴きながら作品を見て、声が天から降ってくるような感じにしたかった」とYOSHIROTTEN。

 会場では実際にナレーションが披露された。「空の上。窓から見る都市のスカイライン。呼吸する。ゆっくりと目を閉じる。目を開く。彼方へと出発しよう。全てを置いて遠く、ずっと遠くの彼方へ」。収録に立ち会ったYOSHIROTTENは「一瞬で、頼んでよかったと思いました」と笑った。

YOSHIROTTEN

青い東京から宇宙へ 《Puddle Cygnus X-1》と「おおすみ」の管制卓

 1部屋目の《RGB》の部屋では、144台のモニターが並ぶインスタレーション《SIGNAL RGB》が来場者を迎える。窓には青いフィルムが貼られ、見慣れた東京の街が青く染まって見える。「普段とはちょっと違う景色を、まずここで体感してもらいたい」とYOSHIROTTENは話す。

《SIGNAL RGB》。2019年の初発表時は約40台、今回は過去最多の144台のモニターで構成され、すべて異なるグラフィックが再生される。中学時代に通りかかった学校のコンピューター室でスクリーンセーバーが並ぶ光景が、作家の原体験だという
青いフィルム越しに見る東京。夜には街の明かりが青く輝き、プレアデス星団(すばる)の青をイメージした空間になる

 2部屋目に進むと、今度はオレンジ色のフィルム越しの東京が広がる。ここに並ぶのがJAXAとの協働から生まれた新作群で、YOSHIROTTENがまず挙げたのが《Puddle Cygnus X-1》だ。X線分光撮像衛星「XRISM」が観測したブラックホール「はくちょう座X-1」のデータを使っている。

鏡面のキューブ《Highlight》。回転しながら周囲の作品や人、窓から入る光を映しては消していく

 着想は今年の初め、滞在先のフランスのホテルの地下にあった、誰もいないプールだったという。「つるっとした水面で、僕が入っていくと波が立つ。そこからヒントを得て、シミュレーション上でプールを作って、X線のデータを雨のように降らせました。その中に入っていって、ここがいいと思うところを捉えて撮影しました」。

《Puddle Cygnus X-1》の映像(左)と平面作品。奥で緑色に光る《Scanner》は先端の分光器で空間全体の光を計測し、リアルタイムで映像に変換している
《Puddle Cygnus X-1》の平面作品。2m×2mのアルミニウムにインクジェットプリントし、黒い部分にシルクスクリーンを施している
X線のデータが雨のように降り注いだ水面の揺らぎ。ブラックホールが「その先にある」水面として描かれている

 協力したJAXA宇宙科学研究所の山口弘悦教授に「ブラックホールを研究すると何が分かるのか」と尋ねたところ、宇宙や星、さらには私たち人間がどうやってできたかが分かるかもしれない、という答えが返ってきたそうだ。

 もうひとつ本人が推すのが、1970年に日本初の人工衛星「おおすみ」を軌道に導いた管制卓の実物だ。借り受けた時点では電源も入らなくなっていたものを復旧させ、宇宙からやってくるX線のデータをもとに光らせている。

内之浦宇宙空間観測所から借り受けた「おおすみ」の管制卓。奥に吊られた輪の彫刻は《Halo》で、天の川銀河中心のブラックホールを周回する恒星のうち6つの軌道をかたどっている。隣には宇宙帆船「IKAROS」の実機モデルも展示されている
《Halo》の下に敷かれているのは関東ローム層の土。東京の地下にある土の上を、星の軌道が漂う

 3部屋目の《SUN》は、シリーズ最大となる全長7メートルの映像作品で、開館から閉館までの10時間、変化し続けながら再生される。タイトルは太陽を意味するが、描いているのは地底の世界。地球の奥深くには色とりどりの世界があるかもしれないという学説から着想したという。

作品を解説するYOSHIROTTEN

朝、夕方、夜で別の顔を見せる展覧会

 この展覧会は、時間帯によってまったく違う顔を見せる。榮倉は開場前の朝7時から8時の光のなかで作品を見たといい、「お昼に来ても夜に来ても全然違う世界が見えると教えてもらったから、この後、夕方にもう一回見たい」と話す。

 YOSHIROTTENによれば、夕方には夕日が空間をオレンジ色に染め、作品に反射して光があちこちに広がる。夜には東京の街が「オレンジ色の光の粒」になり、東京の空から宇宙へ広がっていくような体験になるという。榮倉は「5時間ぐらい時間を使って遊びに来てほしい」と笑った。

午後の光がオレンジ色のフィルムを通して差し込む。YOSHIROTTENにとってオレンジは「目を閉じたときに頭の中に広がる色」で、想像を始めるスイッチのような色だという

屋上はポケカの公園から地球の映像へ グッズも本人監修

 会場は45階のギャラリーだけではない。49階の屋上「SKY GARDEN & POOL」では、日中は「ポケモンカードゲーム & ヨシロットンパーク」として、ミュウ、ミュウツー、ピカチュウの特別なカードアートを立体化したオブジェが芝生に並ぶ。

ポケモンカードゲーム & ヨシロットンパーク。ミュウ、ミュウツー、ピカチュウの特別なカードアートが巨大なオブジェになり、芝生にはエネルギーのマークが入ったボールが転がる
ミュウ(手前)とミュウツー
ピカチュウ

 17時30分からは、宇宙から捉えた地球の衛星写真を抽象的に変換した絵画《The Earth》から発展した映像インスタレーション「ビヨンドアースガーデン」に姿を変える。「夜空を見ながらゆっくりお酒も飲める空間になっています」とYOSHIROTTEN。

 会場内の「SPACE SHOP」のグッズも本人が監修している。100点のアートワークを100分の映像にした《宇宙百景》から3点を選んだスカーフ、光をRGB(光の三原色)に分解して見せるおもちゃの眼鏡などが並ぶ。榮倉はこの日、ショップで販売されるスカーフを身につけて登壇していた。

SPACE SHOP。Tシャツやトートバッグ、キャップ、《宇宙百景》のアートワークをランダム封入したトレーディングカードなどが並ぶ

「何時間も何日も行ったり来たりしてもらいたい」

 発表会の最後には、登壇者がそろってスイッチを押すオープニングセレモニーが行われた。スイッチオンと同時に会場の音と照明が立ち上がり、映像作品が動き出す。「彼方との交信」の開始を告げる演出だ。

オープニングセレモニー。主催者代表とともにスイッチを押すと、会場の音と光が立ち上がった

 榮倉は来場者へのメッセージとして、「1日じゃちょっと足りないかなと思っています。1人で来るのもすごくいい。ひとつひとつの作品に思いを馳せて、自分との対話の貴重な時間を自分のためにつくる空間でもあるし、子どもと来ても楽しいだろうし、どういうふうに楽しもうかと私自身がワクワクしています」と語った。

 「ナビゲーターみたいな立ち位置で、宇宙のことや地球のことを僕なりに伝えていきたいというのが、この活動の一番根っこにあります」。そう語るYOSHIROTTENは、最後をこう締めくくった。

 「ここは生き物のような、常に変化していく展覧会になっています。外を見たり、外からやってくる光を見つけたり、本当に何時間も何日も行ったり来たりしてもらいたいですね」

■開催概要
『ヨシロットン展 彼方との交信/BEYOND EARTH』
会期:2026年10月30日(金)〜2027年1月11日(月・祝)
会場:TOKYO NODE GALLERY A/B/C(虎ノ門ヒルズ ステーションタワー45F)、SKY GARDEN & POOL(49F)
開館時間:月〜金 13:00〜22:00/土 10:00〜22:00/日・祝 10:00〜20:00(入場は閉場30分前まで)
料金:一般 平日2,200円・土日祝2,500円ほか、プレミアムチケット15,000円(限定1,000枚)
主催:ヨシロットン展製作委員会(森ビル、YAR、博展、CCCアートラボ)
協力:JAXA
公式サイト:https://www.tokyonode.jp/events/yoshirotten/index.html

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