DeepSeek、Kimi、Qwen…「高性能で安い」中華製AI、なぜ有力モデルが相次ぐのか?

中国AIの高性能と低価格を支える背景

 10月17日、中国のDeepSeek(ディープシーク)が新しいAIモデルを発表した。同社が公表したプログラミングなどの一部の評価では、米国の有力モデルを上回る成績を記録。しかも、開発者向けの出力料金は「Claude Opus 5」の約21分の1だ。

 米国勢と競い合っているのは、DeepSeekだけではない。「Kimi(キミ)」や「Qwen(クウェン)」も性能を伸ばし、中国勢の開発競争は激しさを増している。

 中国には、米国の輸出規制によって先端半導体の調達には制約がある。それでも、なぜこれほど強いAIを次々と送り出せるのか。DeepSeekの開発の歩みをたどり、その背景を探る。

DeepSeek最新モデル、どこまで進化した?

DeepSeekの公式チャット画面(画像=DeepSeek公式サイトより)

 10月17日に公開された「DeepSeek-V4.1-Flash-1017」は、9月に発表された「DeepSeek-V4.1-Flash」の改良版だ。プログラミングや推論、複数の作業を自動で進める能力が向上したという。

 DeepSeekが公表したテスト結果にも、こうした作業能力の伸びが表れている。プログラミング能力を測る「DeepSWE v1.1」では77.0を記録し、米Anthropic(アンソロピック)の「Claude Opus 5」の74.0、OpenAIの「GPT-5.6 Sol」の73.0を上回った。

 作業の自動化能力を測る「Automation-Bench」でも、DeepSeekの60.5に対し、Claude Opus 5は50.3、GPT-5.6 Solは45.8だった。同社の評価では、コードの作成や作業の自動化で、米国の有力モデルを上回る結果が出たことになる。

 従来版からの改善もある。実際の開発作業に近い課題を扱う「Terminal-Bench 4.0」では、31.2から42.3へと成績を伸ばした。

DeepSeekの最新モデル「DeepSeek-V4.1-Flash-1017」と米国の有力AIなどの性能比較。数値はDeepSeekによる評価(画像=DeepSeek公式サイトより)
DeepSeekが最新モデルを使って制作した紫禁城の3Dモデル(画像=DeepSeek公式サイトより)

 新モデルは実際に何ができるのか。同社は中国の紫禁城を3Dで再現したり、ブラウザで遊べるレーシングゲームを制作したりするデモを公開している。作りたいゲームや3Dモデルを指示すると、AIがプログラムを書いて形にしてくれるという。

 ゲームや3Dモデルを完成させるには、作ったものを確かめながら、修正を重ねる必要がある。DeepSeekによると、今回のモデルでは、自分の出力を評価する仕組みを取り入れた「強化学習」を活用したという。制作の結果を学習に生かし、まとまった作品を作り上げる能力を高めたとしている。

 DeepSeekは、ChatGPTをはじめとする米国のモデルよりも「安い」ことで定評がある。企業や開発者が自分たちのサービスにAIを組み込む際に使う「API」の料金を比べると、DeepSeekの安さがよくわかる。

 APIでは、AIに読み込ませる文章や、AIが生成する文章の量などに応じて料金を支払う。その量を数える単位が「トークン」だ。

 出力100万トークン当たりの料金は、DeepSeekが割引のない時間帯で1.20ドル。Claude Opus 5の25ドルと比べると約21分の1、GPT-5.6 Solの20ドルと比べても約17分の1になる。

 10月17日の改良でも、この単価は据え置いた。新モデルは従来版より少ない出力量で作業を終えられるという。

世界を驚愕させたDeepSeek。中国のAI開発はどう進んできたのか

 高い性能を、低料金で使える中華製AI。DeepSeekがテック業界で大きく話題になったのが、2025年1月に発表した「R1」だった。ただ、その登場までには、中国企業による開発の積み重ねがある。

Baiduが2023年に発表した対話型AI「ERNIE Bot」のデモ画面(画像=New Atlasより)

 ChatGPTが登場した翌2023年には、検索大手Baidu(バイドゥ)が対話型AI「ERNIE Bot」を発表し、EC大手Alibaba(アリババ)も「Qwen」を公開した。米国勢を追う開発競争は、この頃から中国でも本格化していた。

 DeepSeekが設立されたのも2023年である。母体となったのは、AIを金融取引に活用してきた中国の投資会社High-Flyer(ハイフライヤー)だ。DeepSeekは大規模なAIモデルの研究を進め、翌2024年12月には「DeepSeek-V3」を発表した。

 V3で性能と効率の両立を支えた技術の一つが、「Mixture of Experts(MoE)」だ。モデルの内部に複数の処理担当を用意し、入力された内容に応じて、その一部を選んで働かせる仕組みである。

 多数の処理担当を持ちながら、毎回すべてを動かす必要はない。そのため、計算の負担を抑えながら性能を高めやすくなる。DeepSeekによると、V3は知識やプログラミングなどの評価で、OpenAIの「GPT-4o」やAnthropicの「Claude 3.5 Sonnet」に近い成績を示したという。

DeepSeekが公開した「DeepSeek-V3」の性能比較。GPT-4oやClaude 3.5 Sonnetなどとの比較結果を示している(画像=DeepSeek公式資料より)

 DeepSeekは、このV3の基礎モデルを土台に、難しい問題を解く能力をさらに鍛えた。2025年1月20日に公開した「DeepSeek-R1」だ。

 数学やプログラミングでは、すぐに答えを出すより、条件を整理し、途中の結果を確かめながら考える必要がある。R1は、こうした複数の手順を踏む「推論」の能力を高めたモデルだった。DeepSeekによる評価では、当時のOpenAIの有力モデル「o1」に匹敵する結果を示したという。

DeepSeekが公開した「DeepSeek-R1」の性能比較。OpenAIの「o1」などとの比較結果を示している(画像=DeepSeek公式サイトより)

 また、DeepSeekはAIモデルや技術資料も公開し、ほかの企業や研究者が利用・改良できるようにした。多くの開発者が使うようになれば、それだけDeepSeekの技術も広まり、AI市場での存在感が増していく。DeepSeekの技術が広まるうえで、こうした使いやすさも強みになった。

Kimi、Qwenも急成長。中国のAI企業が競い合う

 DeepSeekの成功だけなら、一社の突出した成果とも受け取れる。だが、中国では、別の強みを持つAIも育っていた。大量の資料を読みこなす「Kimi」や、用途に応じてさまざまなモデルを提供する「Qwen」がその一例だ。

 Kimiを開発するのは、2023年設立のMoonshot AI(ムーンショットAI)。長い文章を読み取る能力を強みとし、大量の資料から必要な情報を探したり、内容を整理したりする用途に対応してきた。

中国のMoonshot AIが開発するAIサービス「Kimi」の画面(画像=Kimi公式サイトより)

 2025年7月に発表した「Kimi K2」では、プログラミングや外部ツールを使った作業への対応を強化した。たとえば、ウェブサイトの制作を頼むと、必要なコードを書き、ツールを使いながら作業を進められる。こうした利用者の指示に沿って複数の作業をこなす仕組みは「AIエージェント」と呼ばれ、各社が開発に力を入れている分野だ。

 翌2026年7月には、さらに開発を進めた「Kimi K3」が登場した。一度に参照できる情報量は最大100万トークンで、長い資料や大量のプログラムコードを扱う仕事を想定している。

 Moonshot AIは、モデルの構造や学習方法も改良し、計算を効率よく性能向上につなげられるようにしたという。DeepSeekと同じく、性能を伸ばすうえで計算の効率も重視している。

Alibabaが開発するAIサービス「Qwen」のチャット画面(画像=Qwen公式サイトより)

 幅広い用途や設備に合わせて、モデルを選べるようにしているのが、アリババの「Qwen」だ。2025年4月に発表した「Qwen3」では、規模の異なる複数のモデルを公開した。

 高い性能を優先するのか、手元の設備で動かしやすいことを重視するのか。開発者は、目的に合うモデルを選べる。2026年8月に公開した「Qwen3.8-27B」も、モデルを軽量化すれば、対応するノートPCなどで動かせるとしている。

 アリババはQwenを使った製品開発にも力を入れており、2026年9月には、音声で資料の編集を頼めるAIコンピューター「Qwen Book」やスマートグラスを発表した。

Alibabaが2026年9月に発表したAIコンピューター「Qwen Book」。音声による資料の編集などを想定している(画像=Alibaba Cloud公式サイトより)

 ほかにもZhipu AI(智譜AI)が「GLM」シリーズを開発するなど、中国では複数の企業が性能や料金、使い勝手を競っている。

なぜ中国から有力なAIが次々と生まれるのか

 ではなぜ、中国から有力なAIが次々と生まれるのだろうか。中国のAI企業が急成長した背景には、限られた計算資源を効率よく使うための技術開発があるとみられる。

 米国は2022年以降、AI開発に使われる高性能な半導体などの中国向け輸出を制限してきた。AI開発に欠かせないGPUの調達に制約がある中国では、少ない計算量で高い性能を引き出すための工夫が重ねられている。

 米スタンフォード大学のAI研究機関「Stanford HAI」は2025年12月、中国のAI開発に関する調査を公表した。DeepSeekやアリババ、Moonshot AIなどを取り上げ、中国企業による計算効率の改善や、AIモデルを外部に公開する動きを分析している。

 中国製AIの普及は、ダウンロード数にも表れている。スタンフォード大学の調査によると、2025年9月には、AI開発サイト「Hugging Face」におけるアリババの「Qwen」シリーズの累計ダウンロード数が、米Meta(メタ)の「Llama」シリーズを上回った。

Hugging Faceにおける主要AIモデルの累計ダウンロード数。2025年9月にQwenがLlamaを上回った(画像=Stanford HAIの研究資料より)

 さらに、公開されたモデルを土台に新しいAIを開発する動きも広がっている。同調査によると、2025年9月にAI開発サイト「Hugging Face」で新たに公開された派生モデルのうち、63%が中国製モデルを土台にしていたという。

Hugging Faceで新たに公開された派生モデルの基盤モデルの開発地域別割合。2025年9月には中国製モデル由来が約63%を占めた(画像=Stanford HAIの研究資料より)

 実際、DeepSeekはアリババの「Qwen2.5」を土台に、R1が生成したデータを使って推論能力を高めた小型モデルを開発した。基礎となるモデルを活用できれば、一から作る手間を減らし、独自の改良に力を注げる。

 こうした企業間での技術の活用に加え、中国政府によるAIモデルの開発支援も、企業の成長を支えてきた。さらに、計算効率を高める研究や企業同士の激しい競争が重なり、中国から有力なAIが次々と生まれている。

 公開されたモデルを使って別の企業が改良を重ね、競争のなかで計算効率も高めていく。こうした積み重ねが、DeepSeekをはじめとする中国勢の強さを支えている。

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