“リベラルテック”と“カリフォルニア現代思想”とは何か? 東浩紀×桂大介インタビュー前編

東浩紀・桂大介 語るリベラルテック(前編)

テクノロジーの「ブリコラージュ」こそがリベラルだ

――テックやAIのあり方に複数の選択肢があることが“リベラル”につながる、という認識は東さんも共有していますか?

東:はい。そういう言い方もできると思います。最初の話に戻りますが、僕はとにかく、みなが「スケール」という単一の目標しか追わない状況が不自由だと感じている。つまりリベラルじゃないと感じている。

 いま重要なのは、ITというツールの新しい使い方を再発明することです。あえてフランス現代思想=パリ思想的に言えば、テクノロジーの「ブリコラージュ」(=その場にある材料を即興的にうまく組み合わせて問題を解決すること)をいかにやるか。あるいは、ドゥルーズ=ガタリ風に「アッサンブラージュ」と言ってもいい。つまり、既存のテクノロジーを組み合わせて新しい編成を作り、それによって現在強い体制の隙間を縫うようなことを試みる。普段はいちいち「ドゥルーズやガタリは……」みたいな言い方はしないですけど、ぼくは彼らからも影響を受けていて、彼らが『千のプラトー』などでしきりに言っていることは本来そういうことだったと理解しています。それが僕のなかで「リベラル」な実践です。

 AIの使い方についても、いまはみなが「AIによる業務の効率化」みたいなことばかり言っているけれど、本当はもっと違う使い方ができるのではないか。将来それがどういうかたちで現れるかいまはわからないけど、そうでなければ、いくらAIを使っても結局人類はどんどん加速する資本主義の時間のなかに巻き込まれて疲弊するだけになってしまいます。

桂:それもリベテクが一貫して言いたいことですね。テッド・ネルソンが1974年に出した『コンピューター・リブ/ドリーム・マシン』という本は、それまでの中央集権的なコンピューターに対してパーソナル・コンピューター=我々の手元にあるコンピューターを作りましょうという話をしたのが新しかった。そして、それはその後の時代にいったん達成されたかに見えたのだけど、いまのAI時代にまた強烈な中央集権構造が再び台頭している。AIの最新モデルがクラウドで提供され、それをみんなが利用しているという状況は、まさに中央集権コンピューターの再来です。だから提供が一時的にでも停止されると、なすすべなく右往左往してしまう。そういった状況に対して、どういうスタンスをとることができるのか。

東:効率化だけを目指すのであれば中央集権構造がいいかもしれない。なので、それに対抗するということは、最終的には「人間にとって善いとは何か」を問う話にまでなっていくと思います。そもそも、人間という存在は、西洋近代の政治思想が前提としてきたほどには、自由も主体性も大切にしていないのかもしれない。人間には「人権なんてどうでもいいから、楽に飯を食わしてくれ」という部分があって、道具の効率のいい使い方を追求していくと容易くそちらに向かっていき自由を手放してしまう。それがいま世界で起きていることです。だからこそ、それに対抗して自由を守るためには、絶えず道具の新しい使い方を再発明していかなければいけない。

――人権や中央集権構造の話は中国のテック産業をどう考えるかという問題にも関わってきそうです。ただし状況は複雑で、中国は共産党の一党独裁や監視社会のイメージがある一方で、テックやAIの分野ではオープンソースやオープンウェイトを推進しています。他方で、「自由の国」アメリカのAI企業は情報をかなりクローズドに制限している。それについてはどう思いますか?

桂:そこは単純にねじれていると思いますよ。やはり中国のほうがオープンウェイトをどんどん出していて、それはさきほど言ったような「ユーザーが手元にLLMを置ける」ことを推進するものなので、そのほうが我々の自由にはつながっていると思う。もちろん中国LLMには、ある種の政治的な不自由さがあります。ただ中国LLMが全部ダメで、米国LLMが全て正しいとは言えない。なので、そこはちゃんとイメージや偏見を書き換えないといけない。そして、オープンウェイトの覇権を中国が握っているという現状について、西洋や日本がどう対応していくのかということが問われていると思います。

東:そこは難しいですよね。ぼくがアメリカのカリフォルニア思想をあえて「思想」と呼ぶのは、IT革命を、単なるビジネスの改革としてではなく一種の思想運動として捉えたいからです。でも、僕が見るに中国にはそういったITを支える思想はない。僕が不勉強で気づいてないだけかもしれないけど、べつに社会主義特有のIT観があるわけでもない。むしろいま中国を支えているのは「無思想という思想」なんじゃないか。たとえばAIによる顔認証や身分証の連携システムなどについても、監視社会化のなかで人権がどうなるかといった問題設定はなく、たんに生活が便利になるのでいいじゃないかというかたちで急速に進展している。

――つまり、中国がオープンソースやオープンウェイトで開かれた取り組みをしているように見えるのも、思想的なものというよりもそれが開発にとって便利だからに過ぎないと。

東:その可能性もあると思います。すこし脱線しますが、最近中国の四川省に取材旅行に行って、峨眉山という世界遺産にもなっている山に登ったんですね。そのときの経験が強烈でした。峨眉山は山岳信仰の対象でもあるのですが、その一方で標高3000メートル以上の山頂までロープウェイで行けて、山の上もひとつの街のようになっており、ケンタッキーフライドチキンが夜遅くまで開いていたりする。標高3000メートルと言えば、日本アルプスくらいの山ですよ。日本人であれば、そんなところの山頂にケンタッキーは作らない。直感的に“不謹慎”だと思うでしょう。

 これはどっちがいいという話ではなくて、やはり文明のかたちが違うんですよね。中国はいい意味でも悪い意味でも実用主義で、便利であれば何でもやってしまう。そこを押さえると、中国のテックやAI産業に対する見方も変わってくるのではないかと思います。

(後編へ続く)

米防衛テックAnduril創業者はコスプレ好きオタク? パーマー・ラッキーのふたつの顔

パーマー・ラッキーという人物をご存じだろうか。昨年12月に日本法人を設立したことでも話題となっている米防衛テック企業アンドゥリル…

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる