AIキャラクター開発はマシンスペックで大幅に変化する? サイコム独自の水冷GeForce RTX 5090搭載ハイエンドPCを導入してみた
テクノロジーの急激な進化にともない、AIを用いたクリエイティブの需要が大幅に拡大してきている。各社のAIが日進月歩でアップデートを行い、半年前では考えられない技術が急に登場することも珍しくはなくなった。
そんなAIを用いたユニークな事業を行っているのが株式会社Pictoriaだ。同社は紡ネンらAITuberの開発や運用を行うほか、サイネージ+独自開発した会話型AIを組み合わせた課題解決型のソリューションを行っている新進気鋭の企業である。
今回はそんな同社の事業本部 研究開発チーム リードエンジニアの淺野純平氏にAIを活用した事業についてインタビュー。日々進化するAIに対応するため、ハイスペックなPCを必要とする淺野氏に、GeForce RTX 5090搭載モデルを独自に水冷化したビデオカード「Hydro LC Graphics Plus GeForce RTX5090 32GB」や、CPUクーラーにNoctuaの最強クラスモデルである「NH-D15 G2」を採用した『G-Master Spear BF360 Limited Edition』を実際の開発業務で使用してもらい、その性能を検証してもらった。
ローカルLLM×AIキャラクターの“進化”と、それによって必要となった環境
ーーPictoriaといえば、AIキャラクターの社会実装において最先端を走り続けているスタートアップです。まずはどのような事業を展開されているのか、そして淺野さんご自身の役割について教えてください。
淺野:Pictoriaは「推せる未来をつくる」をミッションに、最先端AI技術を掛け合わせたエンタメやソリューションを開発しています。事業の柱は2つあり、1つは自社IPのキャラクターをファンと共に育てる配信・IP事業。もう1つが、私たちの研究開発チーム「未来をつくるチーム」が主導し、AIのビジネス活用や社会実装を担うBtoB事業です。
私はもともと個人でローカルLLM(大規模言語モデル)のコミュニティに属し、モデルのチューニングや軽量化を試していた「ローカルLLMオタク」でした。縁あって入社し、現在はAIキャラクターを実際に稼働させるためのシステム開発や技術検証、最新モデルの統合を担っています。
ーーローカルAIの最前線から参画されたのですね。チームの具体的な実績にはどのようなものがありますか。
淺野:メインプロダクトとして、AIキャラクターによる対話案内サイネージ『Picto STAND(ピクトスタンド)』を展開しています。ディスプレイ内のAIキャラクターが、観光案内や施設のナビゲーションを自動で行う製品です。直近では北海道エアポート様との取り組みが大きく、2025年1月に釧路空港へテスト導入して以来、函館や帯広など計4箇所の空港で常時稼働しています。この仕組みは特許も取得しており、安定性と独創性で高い評価をいただいています。『Picto STAND』はほかにも、ナルミヤ・インターナショナル様にご利用いただきました。
また、サントリー様の公式キャラクターをAI化した『AI燦鳥ノム』の開発・配信も手がけています。
ーー多方面にAIを活用したサービスを提供しているのですね。『Picto STAND』については導入企業側から「アルバイトを雇う方が安いのでは?」といったROI(投資対効果)の厳しい目を向けられることはありませんか。
淺野:直接的な人件費削減といったROIだけで見ると、そうした議論になりがちです。しかし、AIキャラクターには代えがたい強みが2つあります。1つは「常にそこに存在し続けられること」。採用難やシフト調整を伴う生身の人材では、たとえば広い空港ですと「いつでも同じ場所にいて案内する」状態を作るのは困難ですから。
もう1つは「AI相手だからこそ、気軽に質問できる」という点。人間相手だと「こんな初歩的な質問は申し訳ない」と遠慮しがちですが、AI相手なら気兼ねなく相談できます。パーソナリティがあるからこそ会話のハードルが劇的に下がり、顧客体験が向上する。私たちはそこに強い価値を見出しています。
ーー「AI相手なら聞きやすい」というのは非常に面白い心理効果ですね。そうしたAIキャラクターを開発・実装、さらにはクライアントのニーズに合わせてイチから構築するとなると、開発環境のスペックが何より重要になるはずです。
淺野:私たちが手掛けるAIキャラクターは、3Dモデルを動かす「モーション」、状況を理解する「画像認識」、回答を考える「ローカルLLM」、そして「音声認識(Speech-to-Text。以下、STT)」や「音声合成(Text-to-Speech。以下、TTS)」といった、多数のAI技術の集合体です。これらをシームレスに連携させる「マルチモーダルAIキャラクター」の検証を行うため、開発業務には極めて高水準なスペックが欠かせません。
開発フェーズには、クラウドで行う大規模な学習や処理のほかに、オフィスや地方のサテライトオフィスに置かれたデスクトップ型のワークステーションがあります。これをメンバーでリモート共有し、常時稼働で重い検証やビルドを回しています。最後が、個々人が日常的に使うノートPCです。
普段はノートPCを使うメンバーが多いのですが、Unity等のプラットフォームでビルドをしたり、複数のAIモデルを同時に立ち上げて検証したりすると、ノートPCでは処理が重すぎて莫大な時間を奪われます。小さな修正ごとの再ビルドすらスペック不足がボトルネックになり、チーム全体の開発スピードを著しく下げてしまう。これが、ハイスペックなデスクトップを求める切実な背景です。
ーー開発効率に直結するのですね。近年、AI技術の進化スピードは「えげつない」と言われますが、求められるスペックの基準も変化しているのでしょうか。
淺野:ええ、半年前の要求スペックが今では使い物にならないほど激変しています。少し前まで「ローカルで動くLLMはおもちゃ程度」とされ、対話には高額なクラウドAPIが必須でした。しかし最近、驚くほど優秀なモデルが「オープンウェイト」で次々と公開されています。たとえば、直近の『Qwen 3.8』の27B(270億パラメータ)モデルなどは非常に優秀で、このクラスの「本当に賢いローカルLLM」をマルチモーダルで検証しようとすると、グラフィックボードのVRAM容量が何より重要になります。
従来、この規模のローカルLLMを実用速度でホストするには、数百万規模の業務用カードや「RTX PRO 4500 Blackwell」が必要とされていました。しかし、今回の『G-Master Spear BF360 Limited Edition』を使ってみると、「NVIDIA GeForce RTX 5090 32GB」でしっかりとその水準に届かせながら、長時間のパフォーマンスが可能となっていて驚きました。
ーー今回、実際に『G-Master Spear BF360 Limited Edition』を開発現場でお試しいただいたとのことですが、具体的にどのような実証実験を行われたのでしょうか。
淺野:最も大きな恩恵を受けたのが、「AIキャラクター用のTTSおよびSTTモデルの品質自動評価システムの運用」という検証です。AIキャラクターに実装する「声」の品質は極めて重要ですが、日本語は同じ漢字でも文脈で読みが変わるなど、正しいイントネーションの判定が難しい。そこで、キャラクターの音声モデルが正しく発音できているかを評価するため、膨大な例文を読ませ、その音声を音声認識モデルで再度テキスト化し、元データとの一致率を算出する自動評価システムを構築しました。
今回用意した例文は、なんと数十万件(約50万ワード分)に及びます。この規模の検証をクラウド上の各種APIサービスで回すと、1回走らせるだけで約20万〜30万円もの高額なAPI料金がかかってしまいます。これは一度きりでなく、モデルを微調整するたびに何度も繰り返すため、コスト面で非常に大きな障壁でした。
ーー1回で数十万円ものコストは、開発の継続において極めて大きな負担ですね。
淺野:そうなんです。そこで今回は、この『G-Master Spear BF360 Limited Edition』内に、ローカルで動くTTSサーバーとSTTサーバーを構築し、ローカルLLMに例文を自動生成させながら、完全にマシン単体(ローカル環境)だけで、数十万件の評価テストを24時間ノンストップで自動稼働させるチャレンジを行いました。その結果が、本当に素晴らしかったんです。
ーー詳しく教えてください。
淺野:まずコスト面では、本来月に数十万円かかっていた外部API利用料が「完全に0円(電気代のみ)」になりました。これは研究開発コストを劇的に圧縮してくれます。さらに、処理にかかる時間も激変しました。以前、VRAM 16GBクラスのPC(RTX 4070 Ti SUPERなど)で同様の処理を試みたのですが、容量制限からTTSとSTTの処理を同時に並列で回すことができませんでした。当時は「すべて終わるまでに早くても1カ月以上かかる」と頭を抱えていたんです。
それが、このマシンであれば、VRAM 32GBの余裕と、今回特別に128GBまで増設していただいたシステムメモリのパワーによって、高負荷な音声合成と音声認識のプロセスを何重にも並列で同時に回せました。結果、本来1カ月以上かかると見込まれていたテストがわずか2週間ほどで完璧に完走したのです。
独自水冷GPU「Hydro LC Graphics Plus」の性能は「RTX 5090を積んでいる他社マシンと完全に“別物”」
ーーマシンのスペック次第で、ここまで劇的な時間短縮とコストカットができるんですね……。ただ、これほど高負荷な処理を何週間も24時間ノンストップで稼働させるとなると、発熱やサーマルスロットリングによる性能低下が心配になりませんか。
淺野:おっしゃる通りで、通常であればそれが最大のネックになります。GPUは熱くなるとパーツ保護のために自動で速度を落とす「サーマルスロットリング」が働くため、長時間のフルロード処理ではパフォーマンスが低下します。
ところが、この『G-Master Spear BF360 Limited Edition』をフルロードで回して最も驚愕したのが、その驚異的な冷却性能でした。なんと、GPUに100%の負荷をかけた状態で何日も連続稼働させ続けても、GPU温度は驚くべきことに平均62.6℃付近をキープしていたんです。
ーー通常の空冷品に比べて約17℃ほど低い温度ですね。
淺野:グラフィックボードが極めて低い温度に保たれているおかげで、NVIDIAの自動クロックアップ機能が完全に引き出されていました。通常のブーストクロックは2.41GHzなのですが、このマシンではサーマルに一切邪魔されないため、なんと常時2.8GHz前後という高いクロック数を維持したまま全力疾走し続けました。高い冷却性能によりGPU Boostが働きやすい状態を維持し、クロック数が2.8GHz前後で推移したんです。これにより、同じRTX 5090を積んでいる他社の空冷マシンとは、処理スピードの面で完全に“別物”と言えるほどの差が生まれていました。
ーー冷却性能がそのまま処理の高速化に直結しているという最たる例ですね。サイコムが12年間に及ぶ独自水冷ビデオカード開発の結晶である「Hydro LC Graphics® Plus」を搭載した水冷システムの実力は圧巻です。さらに、この性能でありながら「静音性が高い」という点はいかがでしたか。
淺野:いや、もう本当に驚きました。動かしている最中に「あれ? これ本当に動いてるのか?」と何度も本体を確認しに行ってしまったくらいです。
私が普段使っている空冷のRTX 4090を積んだPCは、負荷がかかるとファンが爆音を上げて回るんです。しかし、今回お借りした『G-Master Spear BF360 Limited Edition』は、エアコンの効いた部屋でアイドル状態のときは33℃以下で動作音が抑えられていますし、数十万の例文テストを全力で回して100%負荷をかけているときでも、わずか40.8デシベル程度。これは市販の空冷モデルより約3dB低いんです。
この静かさは、私たち開発者やクリエイターにとって「最高の環境」だと思います。騒音があるとそれだけで作業中の集中力がじわじわと削がれてしまいますが、これだけ静かであれば、オフィスの執務スペースや個人の寝室に置いて24時間連続稼働させたとしても、まったく気になりません。これを使って初めて「ああ、自分の普段のPCってこんなにうるさかったんだな」と気づかされましたからね(笑)。
ーー圧倒的スペックを持ちながら、極限の冷却と静音を実現している一台ですね。実は、サイコムは今回のような静音性能を限界まで突き詰めるために、自社内になんと巨大な「無響室」を建設したそうです。
淺野:えっ、自社内に無響室を作っちゃったんですか!?
ーー以前は外部の研究所などの防音設備に通い、1回の計測に30万円ほどかけてデータを取っていたそうなのですが、「それなら自社内にプロ仕様の測定環境を作って、他社には真似できないレベルまで静音設計を突き詰めよう」と、社内に無響室を完成させたそうで。
淺野:それはもう……めちゃくちゃ良い意味で「クレイジー」ですね! 本当にクレイジーだと思います(笑)。でも、その突き詰める姿勢には深く共鳴するものがありますね。というのも、私たちが挑戦している「AIキャラクター」のマーケット自体、これまでに確立された成功例があるわけではないんです。いわば、まだ誰も見たことがない未来を切り拓くために、暗闇の中をクレイジーに走り続けているような世界。だからこそ、サイコムさんのように「圧倒的に突き詰めた本物を作る」という、ある種の狂気とも言えるクラフトマンシップをお持ちの企業様とは、どこか深く惹かれ合うもの、共鳴するものがあるのだと感じました。
今回の実機検証を通して、この『G-Master Spear BF360 Limited Edition』は、私たちのようなAI開発者はもちろん、長時間のレンダリングを必要とする3Dクリエイターや映像制作者、そして自宅で妥協のない究極の環境を構築したいすべての人に、心からお勧めできる至高の一台だと確信しました。
ーー最後に、Pictoria様の今後の展望や、チームとして挑戦していきたい未来について教えてください。
淺野:私たちは、AIが単なる便利なツールに留まるのではなく、人間と同じような「人格やパーソナリティ」を持った存在として社会に溶け込み、対等に生きていくような、まるでSFアニメや映画に出てくる世界線を本気で目指しています。
その未来を「ただ待つ」のではなく、今回の『Picto STAND』のような一歩一歩の実装とプロダクト開発を通じて、社会実装のステップを自分たちの手で作り上げていくのが、私たちのチームの使命です。これからも、より豊かで驚きのあるAI体験を世の中に送り出していきますので、ぜひ楽しみにしていただければと思います。
■製品情報
『G-Master Spear BF360 Limited Edition』
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