「AIは我々の目」 全盲のeスポーツプレイヤー3人が語る、ChatGPTとCodex活用の可能性

全盲eゲーマー3人のAI活用

 10月6日、OpenAIは東京都内で、全盲のeスポーツプレイヤーがChatGPTとCodexをどう使っているかを紹介する取材会を開催した。当日参加したのは、ePARAに所属するNAOYA(北村直也)氏と、Blind Fortiaに所属する真しろ(藤本昌宏)氏、越前(板垣宏亮)氏の3人だ。

 取材会では、NAOYA氏と真しろ氏がChatGPTとCodexを使って共同開発している、音声で遊べるポーカーアプリを、3人で実際にプレイ。その際に見つかった改善点について、NAOYA氏がその場でCodexに修正を指示し、修正版を試すところまでを間近で見学させてもらった。

開発中のポーカーアプリをプレイする3人。左からNAOYA(北村直也)氏、真しろ(藤本昌宏)氏、越前(板垣宏亮)氏
開発中のポーカーアプリをプレイする3人。左からNAOYA(北村直也)氏、真しろ(藤本昌宏)氏、越前(板垣宏亮)氏

遊べるゲームを自分たちで作る ChatGPTとCodexによる挑戦

 このポーカーアプリが生まれたきっかけのひとつは、真しろ氏の勤め先でポーカーが流行り始め、話についていけずに悔しい思いをした実体験だという。

 開発はNAOYA氏と真しろ氏で役割を分けて進めている。まず、ポーカー経験がある真しろ氏が、自分の記憶を頼りにChatGPTで仕様書を書く。ルールはChatGPTでダブルチェックした。操作画面の設計は、iPhoneの画面読み上げ機能「VoiceOver」だけで操作できるほかのゲームを調べてもらい、参考にしたという。次にNAOYA氏が、その仕様書をCodexのプロジェクトフォルダに入れ、中身を参照するよう指示して実装していく。

ChatGPTで書かれたポーカーアプリの仕様書
ChatGPTで書かれたポーカーアプリの仕様書

 そうして一度アプリを形にしたあと、ふたりはLINEやZoomをつないで対戦し、修正したいところが出ると「Codexタイム」を設ける。この繰り返しで、アプリを改良してきたという。

 アプリで遊べるのは、ポーカーの一種「テキサスホールデム」だ。オンライン対戦とCPU対戦ができ、用語の説明やチュートリアル、設定の画面も用意されている。

 ゲーム中は自分の手札、場に出た共通のカードと現在の自分の役、各プレイヤーが賭けたチップの額、誰の番か、各プレイヤーの行動、勝敗とその理由などをアプリが次々に読み上げる。この仕組みにより、目が見えなくても場の状況を把握しやすい。

ポーカーアプリのゲーム画面
ポーカーアプリのゲーム画面

 驚かされたのは、VoiceOverの読み上げの速さだ。目が見える人なら一瞬で目に入る情報を、音声の速さで補っているという。実演前の説明でも「呪文のようで何を言っているか分からないかもしれない」と断りが入るほどだったが、当事者の中にはこれより速く聞く人もいるという。

ふだんは画面を消したままVoiceOverでスマートフォンを操作している
ふだんは画面を消したままVoiceOverでスマートフォンを操作している

 プレイが進むなかで、アプリの不具合や改善点が見えてきた。ひとつ目は、自分が行動したときに、ほかのプレイヤーの端末で流れるものと同じ読み上げがないこと。ふたつ目は、残りのチップをすべて賭ける「オールイン」の確認画面で、選択肢が「はい」しかないこと。そして最後が、ルームを作ったホストが「結果を確認」ボタンを押す前に勝敗が読み上げられてしまうことだ。

オールインの確認が「はい」だけの画面
オールインの確認が「はい」だけの画面
取材当日は修正できなかったが、現在は修正済みのオールインの確認画面
取材当日は修正できなかったが、現在は修正済みのオールインの確認画面

 プレイを終えたNAOYA氏はMac上のCodexに向かい、MacのVoiceOverの読み上げを聞きながら、キーボードで修正のプロンプトを入力した。

VoiceOverの読み上げを聞きながら、Codexに修正を指示するNAOYA氏。回答は「見出しジャンプ」機能で見出しごとに移動して確認している
VoiceOverの読み上げを聞きながら、Codexに修正を指示するNAOYA氏。回答は「見出しジャンプ」機能で見出しごとに移動して確認している

 次にNAOYA氏が修正版を「TestFlight」(アプリのテスト版を配布できるAppleの仕組み)にアップロードし、3人でもう一度プレイして確認した。その結果、勝敗の読み上げが先走る問題は修正できたが、オールインの確認画面は修正できなかった。

 また、自分が行動したときに、ほかのプレイヤーの端末と同じ内容が流れるようにする修正自体はできていたが、その読み上げが「掛け金確認」の読み上げにかき消されて聞き取りにくく、課題が残った。

知りたいことを自分で確かめる“目の代わり”としてのAI

 アプリの修正中に行われた質疑応答では、日常生活でのAIの使い方にも話が及んだ。真しろ氏は、AIを使う良さをこう話す。

 「アクセシブル(目が見えなくても使える)なものを作ろうとすると、1年、2年、3年の遅れが出てしまいます。でもCodexやChatGPTを使えば、流行に対する遅れも、1年だったのが半年、1か月になる。ゲームに限らず、これはとてもありがたいです」

 このように語る真しろ氏だが、もともと自分の頭で考えてものを作るのが好きなため、AIには懐疑的だった。その気持ちは今も残っているというが、本格的に使い始めるきっかけになったのは、2年前に始めたプロジェクトだ。ChatGPTの音声モードで道順を聞きながら、なるべくAIだけを頼りにひとりで目的地を目指すものだった。

 しかし、当時は日本の地名に弱く、更新情報も少なかったため、道案内にはあまり向かなかったという。特に点字ブロックを使った案内では、的外れな答えが出ることもあった。ただ、最近は、プロンプト次第ではあるものの、商業施設のマップも調べてくれるようになり、何階に何があるかといった情報は基本的に正しく、実用的な水準に近づいてきたと真しろ氏は話す。同行するガイドがいる場合も、ChatGPTで調べた内容を事前に伝えておけるため、道案内をすべて人任せにしなくてよくなったそうだ。

 また、AIの認識機能も優秀になり、目の代わりに説明してくれるため、助かるという。なかでも真しろ氏が気に入っているのは、スキャンアプリで画像を認識するだけでなく、そのあとに質問できる点だ。以前はスキャンして終わりだったが、この1、2年の進化により、今は気になる部分を詳しく聞いたり、翻訳を頼んだりと、次の作業につなげやすいそうだ。

真しろ(藤本昌宏)氏
真しろ(藤本昌宏)氏

 こうした認識機能は、ホテルの客室のタッチパネルでも役に立つ。真しろ氏は、手で探るには限界があるため、エアコンの操作部をいくつかのスキャンアプリで読み取った。そのなかで最も的確に説明したアプリを使い、どこで何を操作できるかを確かめたという。

 ここまでの変化について、真しろ氏は、あくまで極論としたうえで、「ひとりで生きていけるようになった」「自分らしく生きていけるようになった」という点で大きく進化したのではないかと語る。

 画像の説明が詳細になったことについて、越前氏は、視覚障がい者向けのアプリにスマートフォンのカメラを向け、そこに何がいるのかを見てもらった例を挙げる。越前氏によると、最初は「ネコ科の動物がいます」という答えだったが、しばらく経つと、毛並みの特徴や座っている向き、表情まで説明するようになった。この精度は、自分で生成したAIイラストを確かめるときにも役立っている。髪のなびきや衣服の描き込み、背景の細かさまで説明したうえで、直し方も助言してくれる。AIと相談しながら作れば、目が見えなくても美麗なイラストを作成できるようになったと話す。

 そうした説明は、これまで移動支援者や行動支援者が担ってきたが、担当者の説明力次第になるうえ、支援受ける側も遠慮して深掘りしにくいという。このことについて、越前氏は「同じイラストを見せても感想は人によって違い、聞きたいところに注目してもらえないことがある」と話す。一方、AIなら飽きるまで質問できるそうだ。

 また、もともと目が見えていたため、目が見える友人が今もたくさんいるが、目が見えなくなってからは、友人たちが話すゲームや話題についていけず、寂しさを感じていたと話す。しかし、最近では、友人との付き合いにもAIの恩恵を感じており、その変化を次のように語る。

「ここ近年はAIの発展で、みんなが話しているゲームに、僕らも一緒に参加できる時代になってきました。そのためには、僕らも勉強しなければいけないところがあったり、少し遅れたりすることもあります。それでも、がんばれば追いつけるようになったのはAIのおかげだと思っています」

越前(板垣宏亮)氏
越前(板垣宏亮)氏

 このようにAIで視覚障がい者の暮らしの幅が広がる一方、AIを使える人と使えない人の差が開いていることを危惧する声も上がった。スマートフォンやパソコンを使っていない視覚障がい者はまだ多く、AIを使っていても、プロンプトの書き方でつまずく人は少なくないという。特に目が見えない場合は、自分の状況を伝えたうえで自分に合ったプロンプトにしないと、よくあるプロンプト集ではうまくいかないこともあるそうだ。そのうえで、自分たちだけがAIは便利だと言うのではなく、日常のどんな場面でどんな画像解析を使えばいいのかなど、もっとオープンに共有できる場があればいい、という提案も出た。

「みんなでやっている」楽しさを、より多くの人へ

 ポーカーアプリの今後について、真しろ氏は、オンラインのポーカー大会を会社やプライベートで開催したいと話す。また、NAOYA氏もeスポーツでは、既存のゲームで大会を開くには許諾が必要で、賞金大会は開きづらいが、自分たちで作ったゲームなら、その心配なく開けることから大会開催には意欲的だ。

 ゲームの演出面では、声優やナレーターとしても活動するNAOYA氏が、以前作ったUNOのゲームでは自らボイスを録音しており、ポーカーでもキャラクターボイスを実装したい考えだ。また、ポーカーはバーで遊ばれることが多いとして、チップの音やカードを配るときのシャッフル音を加えるなど、音の演出も検討している。これについて、NAOYA氏は「オンラインだとどうしても寂しくなりがちなので”みんなでやっている”という感じが出ればいい」と語る。

 また、App Storeでのリリースは、来年の春ごろを目指しており、「それまでにいろいろな人に使ってもらい、大会も開きたい」とのことだ。

NAOYA(北村直也)氏
NAOYA(北村直也)氏

 今回の取材会で実感したのは、3人がそれぞれAIを解決したい課題のためのツールとして使っていたことだ。今やAIの使い道というと、画像や音楽、動画の生成から、アプリ開発、業務効率化などさまざまなものが思い浮かぶ。3人の使い方は、それに加えて、目が見えないからこそ生じる課題に応えるものだった。

 質疑の終盤、NAOYA氏が語った「AIは、我々の目ですから」という言葉は、こうした使い方を端的に表しているように思う。これまで人に頼るしかなかったこと、遅れが避けられなかったことを、自分たちで補えるようになってきている。AIによって、障がいのある人がこれまで以上に社会に参加しやすくなれば、より多様な人がともに活躍できる社会の実現が近づくはずだ。そんな可能性を強く感じた。

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