AIで「作れる」の先へ OpenAIの学生ハッカソンに見る、学生たちとCodexの距離感

OpenAIが9月15日、横浜・THE BEACH YOKOHAMAにて、大学生・大学院生向けのハッカソンイベント「OpenAI 大学生向け 夏の Codex 開発祭 2026」を開催した。
本イベントは、国内の大学・大学院に在籍する18歳以上の学生を対象としたコンテスト。2〜4人で構成されたチームが、AIコーディングエージェント「Codex」を使い、1日でプロダクトを開発する。チームは所属する大学が違う学生同士でも組むことができ、ソフトウェア開発やコーディングの経験も問われない。優勝チームには、全員分の往復航空券と宿泊を含めて、9月29日に米サンフランシスコで開かれるOpenAIの開発者向けカンファレンス「OpenAI DevDay 2026」への招待が贈られる。

当日は26チームが参加して開発に取り組み、参加者投票を経て選出された上位4チームによる最終プレゼンテーションと表彰式が行われた。
今回、参加した学生が取り組んだ開発テーマは「地域・社会課題の解決」「新しいエンタメ体験」「個人の生産性を高めるツール」「企業向けAIエージェント」の4つ。審査は「Codexの効果的な活用」「実社会へのインパクト」「再利用・展開可能性」「デモとピッチ」の4項目を、それぞれ25%の配点で評価する。

身近な困りごとから生まれた4つのプロダクト
最終プレゼンテーションで最初に発表されたのは、作った料理の写真を1枚撮るだけで自分のレストランが育っていく、自炊の習慣化を後押しする「まいにち食堂」だ。面倒さから欠食・栄養不足、外食依存による食費増加などを招きやすい一人暮らしの自炊を想定し、ユーザーが「育成ゲーム」感覚で利用できることで、習慣形成を促す仕組みになっていた。
2つ目の「ことばリンク」は、音声・読唇・文字・手話をAIでつなぎ、オンライン会議での会話を成立させるサービス。騒音で声が聞こえない、声を出せない、手話が相手に通じないといった状況を想定し、口の動きから発話内容を推定したり、手話を文字に変換して相手に伝えたりする。
3つ目の「patan」は、テンプレートをAIと編集し、モデリングができない人でも3Dプリンターで自分のインテリアを出力できるサービス。平面の型紙を自然言語でカスタマイズして、折って組み立てられる形で印刷できる。プレゼンテーションでは、ユースケースのひとつとして、災害時の避難所での使用シーンが示された。
そして最後に発表された「Poietra」は、自然言語による制作指示と、人による直接編集・共同編集を組み合わせ、生成したあとも文字や動きを調整できる動画制作Web SaaSだ。メンバー自身の使っていたパソコンの性能の低さや動画編集ソフトの操作の難しさにより、作りたいイメージが頭のなかにあるのにかたちにできなかったという経験が発想のもとになっている。また、AI動画生成ツールにありがちな、AIに完成動画を任せて意図した結果が出るまで再生成を繰り返す「ガチャ」にはしない、という運用方針も特徴のひとつとして挙げられた。

4つのプロダクトに共通していたのは、発想の出発点が本人か身近な誰かの困りごとであり、AIで何ができるかではなく、何を解決したいかという動機が先にあったのが印象的だった。
そのなかで優勝に選ばれたのは、プロダクトと同名のチーム「Poietra」。所属も研究分野もそれぞれ異なるメンバー4人で構成されているが、アイデアソンやハッカソンに出るのが全員好きで、同じプロジェクトや育成プログラムで接点があったという横のつながりから、チームとして参加を決めたという。

AIに任せること、自分で考えること
そんなPoietraのメンバーに、表彰式のあとで普段のAIとの向き合い方を聞くと、上司に送るメールを整える、1000件を超えるニュースを集めて情報を集約するといった使い方や、研究では、思いついたアイデアを数理モデルに落とし込むコーディングに使い、文献調査では「まずは10回くらいAIに投げてみて」その分野の感触をつかむなど、用途は雑務から研究まで広がっていた。
また、別のメンバーは、パッと何かを形にするときにAIは使いやすく、「今までだったら“ものづくり未満”で終わっていたものが形になる、そういう経験が最近ものすごく増えている」と語った。
では、この日の開発でCodexをどう使ったのか。メンバーによると、使い方は大きく2つに分かれていた。ひとつはコーディングで、ここは「全面的に信頼を置いて」任せた部分だという。そして、もうひとつが画面設計だ。この部分では、パソコンの画面をAIに操作させる「Computer Use」を使い、デザイン案を「高速にスクラップアンドビルド」していった。そうして仮説と検証を素早く回したことが、今回のCodexの活用のポイントだったという。
また、ものづくりにおいてAIに任せられることと、自分たちで考えるべきことの線引きについて尋ねると、メンバーのひとりからは次のような答えが返ってきた。
「未知の分野でAIを使うと認知負荷が高く、自分も苦しいうえ、AIにも適切な指示や推論のためのコンテクストを与えられない。双方にとって、いわゆる“思考の摩擦”のようなものが大きくなってしまうため、基本的に、自分の思考の範囲に収まるであろうところに使うことを意識している」
これを受けて、別のメンバーは、大学に入るまではハードウェアばかりでソフトウェア開発は一切やっていなかったが、AIがあることで未知の分野に踏み込むのがずっと楽になったと語る。一方で新しい技術に触れるのであれば、ちゃんと理解しなければいけない側面があると強調した。
非エンジニアの2人が挑んだ、AIとフィジカルのものづくり
また、最終プレゼンテーションでpatanを発表した「デジタルコンテンツ」も、興味深い話を聞かせてくれた。ちなみにこのチームは、ひとりは動画編集や映像制作、もうひとりはシステム開発でUI/UXのデザインや要件定義を手がけてきた、プログラミング経験がない非エンジニアのふたりからなるチームだ。

そのうちのひとりは電子工作で、マイコンにプログラムを書き込むためにAIを使い始めたというが、今では要件定義からデザイン、コーディング、パソコンのなかのファイル管理まで、Codexを活用している。もうひとりのメンバーも、背景デザインや企画構成をChatGPTに作ってもらうことがきっかけでAIを使い始め、最近は「企画構成を作るところから書き出しまで」を自動化しているそうだ。
また、ふたりはAIを活用したものづくりの難しさについて、先行事例も少ないフィジカルとAIを掛け合わせるプロダクト開発の観点からこう語った。
「Codexがフィジカルのことを認識していないという問題があった。折り紙の展開図で『こことここを接続したい』と指示しても、全然違うデザインを持ってくる。そのため、既存のペーパークラフトのデータを見せたり、自分たちで壁打ちをして答えが分かったときにイラストを描いて『これがいいです』と送ったりした。そこに時間がかかって大変だったが、面白いところでもあった」
「作る」力の先に求められる“相手に伝える力”
一方、OpenAI Japanの瀬良和弘氏は、同社にとって初の学生向けイベントとなった今回のイベントを振り返り、次のように語った。
「AIコーディングに関しては、皆さんかなり習熟していて、そこで詰まる人が思った以上に少なかったのは意外だった。一方で今回のイベントでは、自分たちはどういうプロジェクトをやっていて、何を解決して、どうCodexを活用しているかをサブミットしてもらうというもの。そのため、求められるのはちゃんと相手に伝わるプレゼンテーション能力や、ユーザー目線で『こういう見せ方をしないと伝わらない』という部分だ。そこに関しては、人間としてのスキルがまだまだ必要だと感じた」

実際、メンタータイムで相談が集まったのも技術ではなく伝え方で、学生たちは研究室やゼミでのプレゼンには慣れていても、大人がたくさんいる場で伝わるように話すことには苦労していたという。また、評価のポイントについては、次のように説明した。
「AIエージェント的なものをうまくプロダクトに組み込むというのは、まだ一般的に知られている技術ややり方ではない。実際、それをやれていた人はそう多くなかったと思う。ただ、その中でもできているものには、光るものがあった」
そのうえで、コーディングにCodexを使うこと自体はもはや当たり前だとして、プロダクトに組み込んだときに「なぜCodexのエージェントが裏側にいることでこれが良くなっているのか」を説明できるように、とイベントの冒頭から参加者に伝えていたことも明かした。
最後に瀬良氏は、開発者やビルダーを支援するイベントに取り組んでいる立場から、今後の展開について、学生だけに限らず「様々な方に同じような機会を提供できたら」と語った。
AIを使うこと自体を目的にするのではなく、それぞれが解決したい課題のためにAIをツールとして使う。今回のイベントで学生たちがそれをすでに高いレベルで実践している姿を見て、改めてこのテクノロジーとの付き合い方を考えさせられた。























