NANAのテック・アルテミス 仕事に役立つBizテック観測所(第26回)

NVIDIAとは一体何者なのか ゲーム用GPUメーカーが「AI時代の覇者」になった理由

 近年、テック業界で急速に存在感を高めている企業がある。アメリカの半導体メーカー、NVIDIA(エヌビディア)だ。

 同社は現在、AppleやMicrosoftを上回る世界最大級の時価総額を持つ企業として注目を集めている。背景にあるのは、ChatGPTをきっかけに広がった生成AIブームだ。いま、AI開発に必要な演算基盤として、NVIDIA製GPU(およびその派生アクセラレータ)の需要が世界中で拡大している。

 ただ、NVIDIAはもともとAI企業として成長してきた会社ではない。出発点は、PCゲーム向けGPUを開発するグラフィックス企業だった。

 ゲームの映像表現を進化させてきた会社が、なぜAI時代の中心に立つようになったのか。その流れを追っていくと、いまのテック業界やクリエイティブ環境の変化も見えてくる。

「GeForce」でゲームPC市場を切り開いたNVIDIA

写真提供:NVIDIA

 NVIDIAは1993年に設立された。創業したのは、現在も同社の共同創業者兼CEOを務めるジェンスン・フアン氏ら3人。当時のフアン氏はまだ無名の起業家だったが、現在ではトレードマークの革ジャン姿でも広く知られる存在となっている。

 当時は3Dグラフィックス市場そのものが立ち上がり始めたばかりの時代だった。NVIDIAの創業資金は約4万ドルしかなく、完全な新興スタートアップに過ぎなかった。初期には複数のグラフィックスチップを開発したものの、経営は厳しく、苦しい時期が続いたという。

 1995年に投入した初製品『NV1』は、非常に先進的な設計を採用していた。しかし、Microsoftの「DirectX」が採用した三角ポリゴン方式との互換性に乏しく、市場では大きく失敗。会社は倒産寸前に追い込まれ、従業員数を100人から40人規模まで減らす大規模なリストラも実施した。

 その危機を救ったのが、1997年発売の『RIVA 128』だった。同製品はNVIDIA初のヒット作となり、発売から4カ月で100万個以上を販売。これをきっかけに、同社は業界内で徐々に存在感を高めていく。

 大きな転機になったのは、1999年に投入した『GeForce 256』だ。NVIDIAはこの製品を「GPU」として打ち出し、3D描画を高速に処理する半導体として大きな注目を集めた。その後、PCゲームの3D化が加速する中で、NVIDIAはゲーミングGPU市場を代表する企業へと成長していった。

 GPUはもともと、PCゲームなどの映像処理を高速化するために発展してきた半導体だ。3DCGを滑らかに表示したり、リアルな光や影を描写したりする場面で使われてきた。

 PCゲームに触れてきた人なら、「GeForce(ジーフォース)」という名前を聞いたことがあるかもしれない。これは現在も続くNVIDIAの代表的なGPUブランド。最新アーキテクチャ「Blackwell」を採用した『GeForce RTX 50シリーズ』など、現在もゲーミングGPU市場で高い存在感を持っている。

 その代表的な技術のひとつが、「DLSS(Deep Learning Super Sampling) 」だ。AIを使って映像を補完し、少ない負荷で高精細な映像表示を実現する。

 従来はGPUそのものの性能を上げることで描画品質を高めてきたが、近年はAIで映像を補完する方向へ進化している。低い解像度で描画した映像をAIで補完したり、中間フレームを生成したりすることで、高画質と滑らかな映像表現を両立するというものだ。

 こうした技術によって、リアルな映像表現と高フレームレートを両立しやすくなった。いまのGPUは映像を描画するだけでなく、AIで映像体験そのものを支える存在へ変化しつつある。

転機となったのがGPUを「演算機」に変えたCUDAの存在

 そして、その流れをさらに大きく変えたのが、NVIDIAが2006年に発表した「CUDA(クーダ)」だった。

 CUDAは、GPUを映像処理だけでなく、さまざまな演算に使えるようにする開発環境のことだ。それまでゲーム用途が中心だったGPUを、AIや研究開発にも活用できるようにしたことで、NVIDIAは「ゲーム向け半導体メーカー」から「演算基盤企業」へと立ち位置を変えていった。

 AIの学習においては、大量のデータを並列演算する必要がある。GPUは大量の並列演算を高速処理する設計になっており、このGPUの並列演算性能とCUDA環境が、ディープラーニング研究ととても相性が良かったのだ。

 ChatGPTをはじめとする生成AIの多くは、大規模な演算基盤の上で動いている。その裏側では、NVIDIA製GPUが大量に使われている。いまではMicrosoftやGoogle、Metaなどの巨大IT企業も、AI開発用のインフラとしてNVIDIAのGPUを導入していることで知られている。

NVIDIAはAI時代の「黒子」として成長を加速させている

 一方で、NVIDIAの技術はゲームとAIだけにとどまらない。近年は、ゲーム向け技術から派生したAI処理やリアルタイム描画技術が、映像制作や3DCG制作の現場にも広がっている。

 さらに、3D空間をリアルタイムで共有できる「Omniverse」も展開しており、映像、アニメ、建築、自動車デザインなど幅広い分野で活用が進み始めている。

 生成AIの進化によって、クリエイターが扱うツールや制作環境は大きく変わりつつある。その流れの中で、NVIDIAの技術も「ゲーム向けパーツ」の枠を超え、クリエイティブの基盤として浸透し始めている。

 ChatGPTのようなサービスは、表側ではAIそのものが注目されがちだ。しかし、その進化を支えているのは、膨大な演算を処理するGPUの存在がある。

 ゲームの映像を支えてきたGPU技術が、いまはAIや映像制作の土台になっている。NVIDIAの成長は、テック業界全体が「映像」から「演算」へ重心を移していることを象徴しているのかもしれない。

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