テレポートを駆使し、人類に復讐を果たせ――ハイスピード・ジャンプアクションの良作『Telebbit』レビュー

 2024年10月24日に発売された『Telebbit』をクリアした。IGN Japanなどを運営する株式会社産経デジタルが始動したゲームパブリッシュ事業「HYPERREAL」の記念すべき一作目だ。すでにアナウンスされている『SAEKO: Giantess Dating Sim』や『Dome-King Cabbage』などに先駆けて発売された形である。

 開発は韓国のゲームディベロッパー「IKINAGAMES」。『魔女の泉3 Re:Fine -人形魔女、『アイールディ』の物語-』や『ザ・ラムジー』など、RPGやプラットフォーマーなどをいくつか作ってきたディベロッパーだ。

 

復讐に燃えるウサギを操作する激ムズプラットフォーマー体験

 本作は『Celeste』などに代表されるいわゆる「精密プラットフォーマー」というジャンルである。即死罠だらけの空間を飛び回り、コンマ何秒という猶予のあいだに正確にキーを入力して、ゴールまで走り抜けるタイプのゲームだ。近年の「スーパーマリオ」シリーズの隠しステージがずっと続くような感じをイメージしてもらえばわかりやすいかもしれない。

 主人公は「テレビット」と呼ばれるウサギ。彼は人間によってテレポート技術の動物実験に使われていたが、テレポート先に落ちていたCPUと脳ミソが同化したことで、人間に復讐することを思いついた。

 かくしてテレビットは、彼が「ハゲ」と呼ぶ技術者集団の親玉「オーバーヒューマン」を殺すために、地下施設で暴れまわるのだった。

 基本的な操作は(Xboxコントローラー準拠で)Aボタンでジャンプ、Xボタンで綺麗な床や壁にテレポート……のたった2種類である。テレポートを行うとその先にあったものが内側から砕けるので、ふわふわと浮遊する機械などを壊してその場所に乗り移りながら、次の足場へと渡っていくのがゲームのメインとなる。

 テレポートに加え、Bボタンで転移先を予約しておく「ディレイ・テレポート」や、RBかRTボタンで遠くのものを破壊したり、追加でジャンプしたりできる「レーザー」も使用できるようになるが、そこまでゴチャゴチャしている感じはなく、最後までシンプルさを保ったまま遊べた印象があった。

 ジャンプ、テレポート、ディレイ・テレポート、レーザーという4種類の操作をガチャガチャと組み替えながら、落とし穴だらけのステージを凄まじい速度で超えていく快感はジャンルならではの魅力がある。リトライも素早く、操作のレスポンスも良いので、この点についてはなにひとつ不満点はない。

 また、LBかLTボタンを押すことで、ゲーム自体を0.5秒ほど遅らせることができる機能も存在するので、この手のジャンルが苦手という人にもオススメである。もちろん、この程度の機能で劇的に簡単になるわけではないが「危なくなったらLBを押す」というちょっとした救済措置が、ゲームバランスを壊すことなく用意されていることに、作り手の優しさと矜持を同時に感じることができた。

 全8つのマップにはA面とB面があり、それぞれ15個前後のステージが用意されている。ステージの道中には「ニンジン」という収集物もあり、これを集めようとするとさらに難易度が跳ねあがる。

 また、B面のラストにはボスとの戦闘もある。そのどれもがステージに合わせたデザインで、見た目も攻撃方法も素敵だった。テレビットとボスはどちらも4回被弾すると負けというルールが統一されているのも、フェアネスを感じられて良かった。

 そして、ゲーム全体に感じられるブラックユーモアもなかなかハイセンスである。

 テレビットの行く先には、オーバーヒューマンの手下である技術者たちが待ち受けているのだが、テレビットがぎゃあぎゃあと喚く彼らにテレポートして黙らせるとき、直接的に殺戮の瞬間は映さず、リンゴや瓶が内側から爆発するGIF画像が(まるで検閲された動画のように)表示され、画面が戻ってくると血飛沫だけが壁面に広がっているのだ。しかもこの表現をボス戦前に必ず天丼する。筆者は毎回爆笑してしまった。

 グラフィックは見たとおりの粗いドット絵で、地下施設のアンダーグラウンドな雰囲気がバッチリ出ている。音楽も終始ギザギザした高圧的なテクノがかかっており、少し耳が痛くなってくるが、雰囲気にはマッチしていた。

 1200円とは思えないほど充実感のあるプラットフォーマー体験であり、高難易度ゲームを愛するすべてのプレイヤーに向けた最高のプレゼントではあったが、気になった点もあった。

 最も気になったのは、ゲームを再開するときの仕様である。本作はスクエアという拠点からワープすることで各マップに移動するのだが、メニュー画面から「スクエアに戻る」を選択しない限り、セーブポイント(もしくは中間地点と呼ぶべきか)を作成できないのだ。

 全体の進捗に対してオートセーブがかかっているので、筆者はなんとなくゲームを中断して、また戻ってきたときに、各面の最初からになっていたのでややがっかりした。どうせ一本道のステージクリア型のプラットフォーマーなのだから、自分でセーブポイントを作成するようなまどろっこしい作りにせず、素直に最後に挑んだステージの最初からやり直しにしてくれればよかったのではないかと思う。

 そして、そもそもスクエアという拠点の存在も必要なのかどうか怪しい。たしかに、オーバーヒューマンの下で暮らす愚かで猜疑心の強い人間たちと会話することはできるのだが、そんなちょっとしたロアのためだけに、拠点とステージを行き来する仕様にする意味があったのかは疑問だ。

 とはいえ、名だたるプラットフォーマーの名作群に手が届くほど、スピーディーで心地良い良作であるのは間違いない。クリア後に解禁されるスピードランモードで腕を磨くのも楽しい。腕に覚えのあるゲーマーは、ぜひとも挑戦してみてほしい。

(このボスがIKINAGAMESの過去作『ザ・ラムジー』のオマージュであることにいま気づいた)

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