XR時代における“キーボードの価値”を語るセッションも開催 『HHKBユーザーミートアップ Vol.8』現地レポ
株式会社PFUが企画・開発するキーボード『Happy Hacking Keyboard(以下、HHKB)』のファン交流イベント『HHKBユーザーミートアップ Vol.8』が開催された。愛好家の多い同キーボードのファンが集う貴重な機会であり、先着順で販売される参加チケットは毎回すぐに完売してしまうほどの人気イベントだ。
イベントでは『HHKB』本体はもちろん、関係他社による製品の展示もおこなわれた。『HHKB』と合わせて使えるサプライの販売もあり、『くっつくクロスHHKB風呂敷』の「猫」柄が可愛くて思わず購入してしまった。
イベントの司会を務めたのは、ソフトウェアプログラマーの小山哲志氏。小山氏は、同イベントの初回から司会を務めているということだ。
冒頭ではPFUの常務執行役員・清水康也氏が挨拶をおこなった。清水氏はHHKBが28周年を迎えたことへの感謝を述べ、昨年発売したHHKBの新しいシリーズ『HHKB Studio』の発表がいかに大きな反響を呼んだかを説明。HHKB Studioは北米発の企画として生まれ、PFUにとっても“挑戦的なモデル”であったという。発売直後には130を超えるメディアで取り上げられたほか、SNSでもトレンド入りするなどの話題を集め、公式WEBサイトへのアクセス数もPFU史上最高記録を達成したという。
発表後1か月半で半年分の受注を得た結果、供給が一時的に滞ってしまったものの、現在は供給体制を整えて遅れなく出荷できる状況にあると述べた。また、最近発売した「雪モデル」は白色の品質にも気を使った仕上がりになっており、特に女性ユーザーに人気があるという。自身も視認性の高い雪モデルを重宝しているとのこと。
また、今年頭に発生した能登半島地震を受けて開始した「輪島塗」キートップのクラウドファンディングにおいては、高額な漆塗りキートップセットが完売したことを報告し、感謝を語った。
続いておこなわれたPFU販売推進統括部長山口篤氏による「2024年HHKB振り返りと展望」セッションでは、ここ3年のHHKBの成長について詳細に語られた。コロナ禍でリモートワークが普及し、HHKBの需要が高まったこと、特に複数台持ちのユーザーが増え、HHKBの販売台数がグローバルで10万台を突破するなど「急成長を遂げている」と話した。「HHKB Studio」も発売後2か月で17%までシェアを伸ばし、大きな人気を獲得しているとのことだ。
さらに英語配列が人気と思われがちなプログラマー層に日本語配列のニーズが増加している点や、若年層、特に10代の新規ユーザーが増えていることにも触れ、これが今後のマーケット拡大に大きく寄与するだろうと分析。男女比はほぼ前年と変わらないものの、雪モデルの発売で女性ユーザーのさらなる増加に期待しているという。
また山口氏は、HHKBがユーザーの声を大切にして製品開発に反映している例として、カスタマイズキートップの提供を挙げた。同社は2024年に開始したHHKB Studio用の「無刻印キートップ」の販売や「HHKB Studio」のキートップ3Dデータを提供して3Dプリンターでオリジナルのキートップを作成できるようにする取り組みを実施している。ほかにもタイピングコンテスト、エイプリルフール企画など、ファンとともに楽しむ企画を実施しており、これがエンゲージメント向上に貢献していることを報告した。新たに26の施設でタッチ&トライのスポットを設置するなど、全国的にHHKBの体験機会を増やしている。
今後はVRやXRとの連携を強化し、時代のニーズに応じたモデル開発を進めていく方針も明らかにした。
セッションの最後には、今年新たに就任したエヴァンジェリストも発表に。今年は作家の朱野帰子氏、VRアーティストのせきぐちあいみ氏、ニッポン放送のアナウンサー・吉田尚記氏が選ばれた。
朱野氏は『私、定時で帰ります。』の原作者として知られる作家で、もともとキーボードにはこだわりがなかったがHHKBの魅力に惹かれた結果、エヴァンジェリストに就任するまでに至ったという。せきぐち氏は2021年の「Forbes JAPAN 100」に選出されるなどVRの世界で活躍するアーティストであり、創作活動にもHHKBを活用している。
吉田氏は「ガジェット好き」のアナウンサーであり、HHKBだけでなくPFUの製品『Scansnap』も長年愛用しているとのことだ。ミートアップに参加していた吉田氏が急きょ登壇する一幕もあり、「僕は会社の歴史上一番企画書を書いているアナウンサーだと思いますが、冗談ではなくHHKBを使っていてよかったと思いました。疲れが違う!」とHHKBを絶賛。
山口氏による1年の振り返りののち、PFU・HHKB“しゅせき”エヴァンジェリストの松本秀樹氏が乾杯の音頭を取った。
続いて行われたトークセッションのタイトルは「ワークスタイル変革 VR,XRの今後とHHKBの可能性」。同セッションには東京大学情報学環教授/ソニーコンピュータサイエンス研究所フェロー・副所長の暦本純一教授、AIスペシャリストの清水亮氏、フリーランスライターの村上タクタ氏が登壇し、ファシリテーターを村上氏が務めた。
清水氏はAIのスペシャリストとして日常におけるAIの活用の広がりや、AIフェスティバルのプロデュース経験を紹介。彼は「人類総プログラマー計画」として、誰もがコードを書ける未来を想像し、そのための教育の必要性を訴えた。ディスカッションの一部では、iPhoneがもたらした「デスクトップクラスのアプリケーションを誰もが手元で扱える」という概念の重要性も取り上げられ、コンピュータが大衆化するきっかけとなった戦略について意見が交わされた。
暦本氏と清水氏は「キーボードが物理的に存在する意味」についても語り、清水氏は「HHKB Studio」に感謝し「良いキーボードを使うことが精神的な豊かさをもたらす」と、道具としての価値を述べた。一方、暦本氏も「毎日の仕事において満足感と価値を提供する道具」としてキーボードの重要性を述べ、キーボードが豊かな人生の一部として投資に値するものであるとした。
対談の最後に、暦本氏と清水氏は「キーボードは言葉や感情を込めるツールであり、未来のVRやAI技術が進化しても、その表現手段としての価値は変わらない」と強調、分割キーボード版『HHKB』が欲しい、というような要望も飛び出した。トークの終盤、清水氏は「キーボードが無ければ“魂”を込められない」「世界人類がキーボードを使わなくなったとしても俺は使う。俺の魂の相棒だから」と熱が入った。暦本氏も「どうでもいいキーボードでも文字は打てるけれど、人生にそんな無駄な時間があって良いのか」と応えるなど、ハートのこもった言葉を送りあってセッションは終了した。
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