『インフォーマ』に『ヴィレッジ』…ヒットメーカー・藤井道人 過去作から紐解く“飛躍の要因”
社会を裏から動かすカリスマ情報屋“インフォーマ”と、ちょっと気の弱い“ポンコツ”週刊誌記者が、日本の闇の勢力による凄惨な連続殺人の謎を追う……そんなストーリーの同名小説を基に、桐谷健太と佐野玲於(GENERATIONS)が、でこぼこコンビを演じ、森田剛、横浜流星らをはじめとする豪華出演陣が集結したことでも話題となったドラマシリーズが『インフォーマ』だ。
そんな話題のシリーズが、好評を受けて再始動する。 11月7日23時からABEMAで放送がスタートする『インフォーマ -闇を生きる獣たち-』(全8話)は、舞台をタイに移し、いままさに日本で大きな社会問題となっている“闇バイト殺人事件”をめぐっての情報戦が展開される。
前シリーズでキーパーソンとなっていたのが、企画と総監督を務めた藤井道人だ。社会派サスペンスやアクション、家族ドラマやラブストーリーに至るまで、さまざまなジャンルを横断しているクリエイターである。ここでは、映画やドラマで多彩な作品を送り出し続けている、藤井道人の作風を振り返りながら、『インフォーマ』に活かされたもの、そして新シリーズに期待されるものを考えてみたい。
いま日本映画の著名な映像作家といえば、難解な作品やアート系の作品を手がける映画監督たちの名前をまず思い浮かべがちだが、藤井監督は、そういうシネフィル、映画マニア的な資質とは異なるところで、インディーズ畑から頭角を現してきた才能だ。
興味深いのは、そういう積み上げによって世界観を作っている映像作家に比べ、むしろ藤井監督の作品からは、画作りも演出も、オーソドックスで王道的な雰囲気を感じるところだ。近年のタイトル『宇宙でいちばんあかるい屋根』(2020年)や、『余命10年』(2022年)、 『ヴィレッジ』(2023年)、『最後まで行く』(2023年)などを観ていても、斬新なショットは散見されるにせよ、ことさら奇を衒うような演出はほぼなく、映画に詳しくない観客がなんの引っかかりもなく楽しめるのが、藤井監督作の特徴だろう。
そして、なんといっても注目したいのは、映像自体のクオリティである。さまざまな過去の映画作品を引用したり、ことさら映像の理論を語りたがる映画監督は少なくないが、実際に作りあげた映像を見ると、意外に貧弱な印象だったりするのは、よくあることだ。藤井監督の画作りは、そこをいくと非常にリッチで、画面に隙がない。むしろ日本映画に製作費が多くかけられていた時代の職人性を、藤井監督の作品にこそ感じられる場合があるのだ。
これは、フィルモグラフィを確認すると、納得できるのではないか。藤井監督は、いまや年に2本ほどのペースで映画を監督し、さらにドラマシリーズも手がけているのである。なかなか演出業だけで生活していくのは難しいといわれるいまの日本映画界において、これほど集中して作品を送り出せている映像作家は、業界でも稀有だといえるだろう。
日本映画史の巨匠として君臨していた“大監督”たち、たとえば小津安二郎、成瀬巳喜男、黒澤明などは、やはり壮年にはメジャーの撮影所システムを利用して、そのくらいのペース、もしくはそれ以上に短いスパンで劇場公開作を手がけている。手がける数が多ければ、映画の撮り方が“上手くなる”のも道理である。日本映画に昔のような巨匠と呼べる存在が少なく、技術の向上が停滞する場合があるというのは、映画を量産する環境がないために、“数をこなすこと”自体がそもそも難しいという問題があるからだ。
現代において藤井監督がそれを実現できているというのは、『インフォーマ』の例を見ても分かる通り、藤井道人自身が企画を立案したり、“売れる企画”を考え出したりする、プロデューサー的なはたらきをしている面も影響しているからだろう。この発信力やバイタリティこそが、藤井監督の映像世界のクオリティが高まってきている理由だと推測できる。