23年ぶり「サイレントヒル」への来訪 現代の“密度と強度”で新生した名作サイコロジカルホラー『SILENT HILL 2』レビュー

 2001年にPS2向けに発売された『SILENT HILL 2』は、伝説的なタイトルだと言って異論はないだろう。国内外で高い評価を得て「SILENT HILL」というシリーズを確立した立役者であり、陰鬱で悲劇的なストーリーテリングで紡がれる哀切の物語。ゲームを進めるごとに主人公のジェイムスを通じて、自らの深層へ潜りこんでいくような内省的かつ自己言及的な体験は、筆者をはじめとした多数のプレイヤーに影響を与えた。

 本作をホラーゲームにおけるマスターピースとして掲げている人も多く、リメイク版の初報を聞いたときは「本当に大丈夫なのだろうか」と思った層も少なくないだろう。理由として『SILENT HILL 2』はままならなさが強調された操作感・アクションと、不鮮明で静謐でありながら不快さを感じさせる雰囲気など、2001年当時のメカニクスとグラフィックが、サイレントヒルという土地で奇跡的なバランスの上に成り立っていたと考えているからだ。

 爽快感に重きを置いたアクションや美麗で解像度の高いグラフィックなど、一般的に想像される現代的なタイトルとして復活させればそぎ落とされてしまいそうなディテールも、本作を名作に押し上げる要素だった。

SILENT HILL 2 | ストーリートレーラー 日本語ボイス版 (4K:JP/CERO) | KONAMI

 そこで本記事では10月8日にリリース予定のリメイク版『SILENT HILL 2』を先行プレイしたうえで、ネタバレに配慮しつつゲームとしての完成度やリメイクとしての納得度など、どのような作品に仕上がっていたのかについて触れていきたい。

 なお『SILENT HILL 2』のゲーム冒頭には「本作では家庭内暴力、精神的虐待、性的虐待、自殺、精神疾患、児童虐待等の成人向けのテーマが含まれています」と注意書きが存在する。本作に対して不安を覚えたりメンタルヘルスに関する情報が必要だと感じたりしたら、以下の『サイレントヒル』公式に設置されたヘルプページを参照してほしい。

https://www.konami.com/games/silenthill/help/

『SILENT HILL 2』とは

 まず『SILENT HILL 2』について紹介しよう。主人公「ジェイムス・サンダーランド(ジェイムス)」は3年前に亡くなったはずの妻「メアリー」から、「思い出の場所で、あなたを待っている」という内容の手紙が届いたことをきっかけに、2人が新婚旅行で訪れたアメリカ北東部の「サイレントヒル」に足を踏み入れることとなる。思い出の街が奇妙なことに深い霧で包まれ、住人もいないゴーストタウンと化していることに困惑。さらに人間とは思えない謎の不気味なクリーチャーに遭遇しながら、ジェイムスは妻に会いたい一心で変貌した「サイレントヒル」の探索を続けていく。

 ジェイムスは作中で、母親を探すために訪れたという精神的な危うさを持つ「アンジェラ」、穏やかで人当たりも良いがどこか卑屈さを感じさせる男性「エディー」、そしてメアリーの友人だと名乗る少女「ローラ」、メアリーと瓜二つの顔立ちでミステリアスな女性「マリア」との出会いを果たす。『SILENT HILL 2』は亡き妻の姿を追い求めながら、メアリーとマリアの関係性や恐ろしいクリーチャーの正体について思いを巡らせ、時にはキャラクターたちと交流を結びながら寂れた街をさまようストーリーになっている。

原作のテイストを残した適切な追加要素

 「サイレントヒル」にはいわゆる霧に包まれたゴーストタウンとしての「表世界」と、血と錆にまみれた「裏世界」が存在するが、ジェイムスはその2つの世界を行き来しながら探索を進めていく。探索面でオリジナル版から大きく変更された点は、見下ろし型の画面ではなく肩越しのカメラが採用されていることだろう。カメラアングルの変更は体験に大きな変化を生み出しており、カメラが固定されていた原作では鮮明でなかったレストランやアパートなどの汚れ具合やさびれ加減がハッキリと感じられるとともに、ジェイムスと自分の視点が一致し、より没入感を高めているのだ。

 リメイク版ではバトルメカニクスが根本から見直されており、回避主体だったオリジナル版と比較してマップがシームレスになったことで敵を振り切れないケースが増加。原作と同じ感覚でプレイしていると、あっという間に周りを囲まれてしまいゲームオーバーという場合が多くなり、積極的に先制攻撃を狙っていく場面が増えた。

 カメラが肩越しになったことにより射撃時にはエイムがつけられるなど、TPSタイトルと同じ感覚でプレイでき、〇ボタンによる回避(ドッジ)が可能になったが、攻撃手段は打撃武器で殴打するか、限られた弾薬をやりくりしながら銃を使うかという選択しかない。銃も構えると大きく広がった照準が徐々に絞られていく、一般的なアクションゲームとは異なるスタイルだ。

 当時と比べシュータータイトルが多数存在し、射撃に慣れたユーザーによる「銃さえ使えればなんとかなる」という本作にそぐわないアクション偏重のプレイスタイルを防止しており、あえてアクションゲームとしての爽快感や楽しさとはかけ離れた仕様を実装することで、システムを変更しながらも原作と同じプレイフィールを感じられた。アクション要素が強化されたからといって、それは「サイレントヒル」の雰囲気を壊すものではなく、あくまで一般人であるジェイムスの“慣れてなさ”と、いつ敵に攻撃されるか分からない緊張感を強調する要素のひとつとして機能していると言える。

 ストーリーの進行はリニアであり、探索時もシナリオに関係のない場所へは基本的に行くことができない。「屋外フィールド探索」→「イベント発生」→「屋内ダンジョンが目的地に設定」→「謎解きをしながら屋内フィールド探索」→「屋外に戻る」というサイクルでゲームが進行していく。さらにジェイムスがマップに気になる点を書き込み、目的地には赤い丸を付けてくれるため、「次に何をしたらいいか分からない」と迷うことはない。

 「それでは探索が味気ないのではないか」と思う方もいるかもしれないが、美麗かつおぞましく描かれた「サイレントヒル」を観光するのはシンプルな喜びがあるほか、本作の「逃げられない」アクションへの向き合い方や追加された探索要素により、プレイヤーは自らを有利にするため主体的な探索が求められている。

 新たな探索要素として「ガラス割り」がある。特定のスポットではオリジナル版と異なる新たな経路を切り開いて新鮮味が感じられ、放置車両の窓ガラスを割れば栄養ドリンクやハンドガンの弾などを手に入れることができる。リメイク版は先述のようにアクションが強化されたとはいえ、銃で無双することはできない。安全に探索するためにもアイテムの在庫には気を配らねばならないため、プレイヤーによってはマップの片っ端から自動車のガラスを割っていく、車上荒らしと化したジェイムスの姿を見られるのではないか。こちらもメアリーとの再会のためには、手段を選ばないジェイムスの行きすぎ加減を表現していると言えるかもしれない。

 イベントシーンもオリジナル版を膨らませる形で増加しており、ローラやエディーと再会する場所がボウリング場から映画館に変更されているなど細部の違いはあるが、原作に存在してリメイク版で存在しないシーンはほとんどない。またおおよそ10時間弱でクリアできた原作と比べ、リメイク版はクリアまで20時間ほどかかったことから、現代のグラフィックで原作を再現してしまうと物足りなくなりそうな道中に、必要な密度と強度が足されていると感じられ、オリジナル版と比べて「ただ探索をしている」シーンは減少したように思えた。

 しかし「不要な贅肉が増えた」という印象は薄く、むしろ適切な肉付けというべきだ。豊富なカットシーンやディテールの強化は、本作の情緒的なストーリーの骨子を支える要素として感じられる。まるで本来から描写されていたもののハード環境によってオミットされていたものが、ようやく表現できたかのような感覚で、オリジナル版とリメイク版の追加部分が違和感なく接続されていた。そうして原作からさらに解像度が高まった「サイレントヒル」を巡るなかで、本当にこの街が現実に存在しているのではないかという実在性を一層感じさせ、ジェイムスとともに現実と空想が混じりあう感覚を味わうことができた。

 そして、サウンド面の魅力もあらためて感じさせられる結果に。敵を感知すると音を発する「ラジオ」は身を守る護身具でありながら、PS5のコントローラーから聞こえる不快なノイズがジェイムスとプレイヤーの同一化を促し、緊張感を高めている。時おり苦悶の叫びのように聞こえる環境音やどこかで聞こえる金属音など、動的な恐怖であるジャンプスケアに頼らない本作において、じっとりと湿度高めに忍び寄るジャパニーズホラーらしい静的な恐怖を感じられるため、ぜひヘッドホンを着用してのプレイをおすすめしたい。

豊富なアクセシビリティ調整で間口が広い遊びやすさ

 個人的に本作で好感が持てた要素の1つに、難易度とアクセシビリティの幅広さを挙げたい。難易度は戦闘とパズルをイージー・ノーマル・ハードの3段階で選択可能(パズル難易度は、メモの情報量が変化するためゲーム開始時のみ変更可)で、たとえばアクションが得意だが謎解きが苦手な人は、戦闘ハード・パズルイージーで割り振ることで自分にとって適切な難易度で達成感が味わえる。

 アクセシビリティもテキストフォントや、インタラクトアイコンの大きさ調整はもちろん、残弾表示や低体力状態を示す画面端のエフェクト表示のオンオフなどの項目を細部まで調整可能。本作のような没入感を重視したいタイトルは、ゲーム的なUIをなるべくそぎ落としてプレイしたいという方も多いはずだ。

 逆に探索が苦手な人はアイテムに気づきやすくするためにアイコンを大きくしたり、白い布がかかった進行可能な通路を示す「トラバーサルアイコン」を表示したりできるなど、UIもそれぞれの技量や個性に応じて選択できる。システム面を「仕様」で通さずに調節できるところからは、一人ひとりのプレイヤーに対して適切な体験を届け、『SILENT HILL 2』を最後まで楽しくプレイしてもらいたいという気概がうかがえる。

『SILENT HILL 2』のリメイクとして

 8月に開催された世界最速試遊体験会「『SILENT HILL 2』Tokyo Media Premiere」にて語られた本作のコンセプトや目標は、「オリジナル版をそのまま踏襲するのはそこまで難しくない。ただ当時のコア体験は変えず、それでいて新しい価値や意義を見出したかった」、「未体験プレイヤーにオリジナル版のテイストを味わってもらうこと」だという。

 しかしオリジナル版のファンのなかには、リメイクにおいて大きくビジュアルが変化したキャラクターやアクションを見て、「こんなのじゃない」と複雑な感情を覚えたり、原作のディテールがわずかでも失われたと感じたりする人がいるかもしれない。だがリマスターではなく、“いま”『SILENT HILL 2』をリメイクするにあたり、本作で取り入れられた変化は適切だったと信じたい。オリジナル版のテイストは残しつつ現代的に進化した本作は「『SILENT HILL 2』はいまでも最高に面白いんだ。だからプレイして満足してほしい」という制作陣の熱気が、モニター越しに伝わるようなタイトルに仕上がっていた。

※画像は開発中のものです。

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