VTuberの核は活動者か、それともIPか 今見つめ直す、バーチャルな存在の“主体性”
VTuber、自分と、人生を大切に
過去、作曲家でVTuber楽曲を数々手掛けたエハラミオリさんはブログの中で、関わるVTuberたちについて「人生の貴重な『若い期間』を割いてくれている彼女達に、僕は少なくとも何かを残さなければならない」という決心を露にしていた。
VTuberたちはその貴重な時間をVTuberという職業、あるいは趣味、ライフワークに使っているのだ。もちろん、自分のために活動する者が多くを占めるだろうが、それでも「ファンが喜んでくれるように」と他者のために使う時間も少なくなかっただろうと思う。これはエハラミオリさんがこのブログを書いた5年前と現在であまり変わらない部分だろう。
他方、「元VTuber」が語るブログの中に名文がある。2021年にnoteユーザー・通りすがりのオタクが記した「Vtuberになりたいと思っている人へ 元Vtuberの実録記」だ。一部を引用する。
そして急遽、友人宅に泊まることになりました。
友人のためにアヒージョを作って、買ってきたつまみを食べ、一緒にニッカのシードルスイートを飲みながら映画を見る……そうして映画を見ている時に、ふと頭の中にある考えがよぎります。
あっ、Vtuberやめよう。
言い方は悪いですが、配信で見ず知らずの人と会話するより、こうやって友人と美味しいものを食べながら舞台で輝く推しを眺める方が私には幸せなんだな、ということに気付きました。
〈引用:note「Vtuberになりたいと思っている人へ 元Vtuberの実録記」)
VTuberもいち人間だ。VTuberのような職種でないにせよ、5年という期間はキャリアを考え直す人が出てくる時期でもある。VTuberが活動終了を発表すると、すぐに転生を示唆する、詮索するような心もとないコメントをするものがいるが、もしかするとそのVTuberは「友人のためにアヒージョを作って、買ってきたつまみを食べ、一緒にニッカのシードルスイートを飲みながら映画を見る」ような平穏な生活を望んでいるだけかもしれない。
自分のためだけでなく、誰かのために活動することは、決して簡単で気楽なことではない。くわえて、これはVTuberに限ったことではないが、VTuberという職種は毎日(あるいは高頻度で)配信することがもはや当たり前となっている。
多くの耳目に触れるための最短ルートではあるものの、一種の強迫観念のように「配信をしなければならない」となってしまうことは、健全とはいえない。事実、VTuberの体調不良による休止が未だに後を絶たない。YouTube JapanがVTuberに限らないがクリエイターに対して「クリエイター活動に疲れてしまったら、休息を取ることも大切ですよ」と言及したこともあった。
結びに
2023年の現状から、みずほ銀行・高野峻は「アイドル市場代替に向けては、大前提として現在のアイドルに匹敵する魅力をVTuberが有することが必須」とシーンの課題をあげており、VTuberのタレント性の向上が必要であるとあげている。
実際、にじさんじを運営するANYCOLORが自社の育成機関・VTAのオーディションで医師や弁護士といったスペシャリストを募集したこともあるように、高クオリティ人材を求める傾向が高まっていると伺える。その分、既存タレントには育成による負担が高まることも予想できる。
VTuberが長く活動するには、ファンからの応援だけではなく、運営や所属事務所、あるいは自分自身による十分かつ適切なサポートも必要だ。どうか、今活動しているVTuberたちには「自分を大切にすること」を一番に活動をおこなっていただきたい。
また、もし配信者活動を辞めるとしても、せめてX(Twitter)だけでも時たま動かしてくれると、ファンはよろこぶだろう。権利や環境、ファンなどにとって最もよい選択を、今後各VTuber運営が用意できることを願いたい。
〈サムネイル:Adobe Firefly〉
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