TikTokで次々ヒットを生み出す『カメ止め』監督・上田慎一郎に聞く“縦型ショートフィルムの世界” 「違った文法のエンタメ」

2秒以内で視聴者に「?」を持たせる

――テンポ感や間、画角などが異なる縦型ショートフィルム作品において、上田監督が心がけていることはありますか?

上田:1つはコメントしたくなる作品を作るというところです。やはり、YouTubeもTikTokもXもコメント数が多い作品はアルゴリズム的にも伸びるなと感じています。それから、最初の2秒以内になにかしらの「?」を作るみたいなことも意識していますね。

――2秒!? 思った以上に短いですね。

上田:ランダムで流れてきたときに、10秒も見ないうちにスワイプすることってたくさんあるじゃないですか。なので、最初の2秒が、まずは勝負かなと。

 たとえば、三井住友カードの決済手段の1つ「スマホのタッチ決済」の利用推進を目的とした縦型ショートフィルム「忙しすぎる人」でいうと、最初から倍速にしているので「なんだこれ」って思ってもらえるようにした感じですね。わざわざ見にくる人よりも、流れてきたものを見てくれる方も多いので、初めての人でも指を止めたくなるような作りにしようと。

――たしかに。

上田:それから、僕の作る縦型ショートフィルムに関しては、長編映画を見た後のような満足感を作ろうともしています。いま、世の中にある2〜3分の動画を見ていると起承転結をしっかり描いた作品って意外と少ないんです。だからこそ、僕は2〜3分のなかで起承転結をギュッと詰め込んだものにしようと心がけています。

――満足度を作るために、心がけていることはありますか? 起承転結を作ることが1つポイントなのかなとは感じたのですが。

上田:起承転結を作る以外に心がけていることで言うと、賞味期限の長い作品を目指しているということですかね。2〜3分のショート動画で、長く自分のなかに残ってるものってそんなにないと思うんですよ。すぐに消費されてしまうし、もともとそこまで求められていない。隙間時間にちょっと暇つぶしになったらいいやみたいなものが多い気がしているんです。でも、僕はそうじゃなくて作品として何度も見たくなるようなものを目指しているんです。

――なるほど。賞味期限の長い作品って、言語化するとどういうところを意識しているのでしょうか?

上田:エンターテインメント性と、見た人に考えてもらうところの両立かなと思っています。簡単に言うと、答えを言い切るのではなく、1本の物語、エンターテインメントとしては起承転結で完結はしているんだけども、そのなかになにか持って帰れるものを残すようにしているんです。「自分はこういう世界になったらどう思うだろうな」とか、ほかの人と話してみたくなったりとか。

――なるほど。ただ単にタイトルや最初に煽るような文言を入れてと言うわけではなく、最後まで見た上で考えさせるような動画を意識されているんですね。

上田:そうですね。やはりただ単にバズる動画って、消費スピードがすごく速いんです。バズったとしても次の週には違うものが流行りになっているなと。手法として、最初の数秒で引き付けるってことは大事だと思うのですが、その引き付けがハードルを越えられていないものは、視聴者をがっかりさせてしまう気がしています。そういう風に冒頭で惹きつけるなら「予想を超える」必要があるなと。

――ただ、予想を超えることって簡単ではなさそうですね。どうやっているのでしょう?

上田:「ミスリードする」っていうイメージですかね。こういう物語の場合、こうなるよねっていう展開をさせて、それから外すっていう。お約束から外すイメージかなと。

 ちょっと突っ込んだ話をすると、外すのってそんなに難しくないんです。ただ、外したときにその外したことで立ち上がってくるメッセージを、無理なく必然性を持たせることっていうのがすごく難しくて。つまり、どんでん返しをしたいがためのどんでん返しじゃなくて、どんでん返しをしたときに、見てる人の既成概念を崩すような価値観を提示できたり、見る人の偏見に気づかせたりするような必然性のあるどんでん返しを無理なく起こすっていうことを自分は意識しています。

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