ネットミーム専門家が振り返る“2023年の流行とその傾向” 「オタクをいじる側のミームが増えた」

「ミームには必ず、嘲笑の“嘲”の部分があると思うんです」

ーー今年1年のミームを振り返ってもらいましたが、昔に比べて最近のネットミームに変化はありますか?

大久保:いまでこそ小学生からスマホを持つのが当たり前のような時代になっていますが、昔はインターネットって、意識的にアクセスしないと知ることができない世界だったと思うんです。いまよりも限られた人しかいないオタクの世界というか。それが、いまは全員がアクセスできるようになったので、むしろ“オタクをいじる側のミーム”が増えたような気もしますね。

ーー具体的にはどういったミームが例になるでしょうか?

大久保:2019年に放送されたテレビ番組でメイド喫茶が取り上げられたことがあるんですけど、そのときのワンシーンでメイド喫茶にきたオタクが「ありえない確率、ヤムチャが天下一武道会で一回戦を突破したときくらいありえないよ」とめちゃくちゃ早口で話すシーンがミームになったことがあるんです。

 一部のネットの潮流は、まだまだオタクの人たちの勢力が強いと思うんですけど、だんだんオタクではない人が生んだネットミームも増えてきたなと感じています。ネットミームには、なんとなく“陽キャ寄りのミーム”と“陰キャ寄りのミーム”があると思っているんですけど、その比率がどんどん現実世界に近くなってきている気がしますね。陽キャと陰キャの境目は明確にあるわけではないので、あくまで僕の体感ですが。

ーーネット人口が増えることによって、だんだんバズるミームの性質も変わっているということでしょうか。

大久保:そうですね。いまは、陰と陽のちょうどあいだに位置している言葉がよくバズっていると思います。そもそもネットミームの元ネタを発掘する人って、メジャーどころではなく「マイナーをいきたい」という、ちょっと斜に構えたユーザーが多いと思うんです。そういう人が見つけてきたネタが爆発的に拡散されるパターンをよく見ますね。

 そして、見つけてきたもののインパクトが強く、キャッチーであればあるほどバズるんです。マイナーである“陰”と、キャッチーである“陽”の中間地点にあるものを発掘する感覚ですね。キャッチーな方が、みんなも1発で使い方がわかるので。

ーー“使い方”というのは、どういうことでしょうか?

大久保:ネットミームって、スレッドとかリプライに使われることが多いんです。1枚画像をポンっと投げるだけで意味が伝わるので、文字を打つよりもコミュニケーションをとるのに使いやすいんですよ。LINEでいうスタンプみたいな感じです。だからパッと見で状況がわかりやすく、自分の言葉にしやすいものがネットミームになりやすいのかなと思います。

 街頭インタビューとかニュース映像は、よりミームになりやすいですよね。街頭インタビューは質問に対する回答をしている映像なので、そもそも汎用性が高いんです。インタビューとかニュースって、画像が1枚あってその下にテロップがついているじゃないですか。あのテロップが、かなりバズる要因になっている気がします。わかりやすさと使いやすさがあるものが、ミームになりやすいのではないでしょうか。

ーーミームになりやすいものの傾向が少しわかってきたように感じます。わかりやすさとキャッチーさが鍵になっていたんですね。

大久保:そうですね。ただ個人的には、そこになにかしらの“悪意”はあってほしいなと思うんです。

ーーどういうことでしょうか?

大久保:たとえば「キャンピングカーが横転する」という有名なネットミームがあるんですけど、これはオタク4人がキャンピングカーに乗っていて、強風により横転するという動画なんです。まず、この狭い場所にオタク4人がいるという画がおもしろいじゃないですか。

【衝撃の瞬間】キャンピングカーが高速道路で横転する一部始終

 あとは「てんどんまんソロ」というネットミームがあるんですけど、これは誰もいないところでてんどんまんがひとりで踊っているという動画です。踊っている場所は何かしらのイベントのステージだと思うんですが、観客はひとりも写っていなくて、歓声もなく、無機質なコンクリートの上でただパフォーマンスをしているんです。

 ミームを楽しむ側は、動画を見てちょっと鼻で笑ってるくらいの感覚で見ていると思うんです。ミームはおもしろいがゆえに拡散されるんですけど、そのなかに嘲笑の“嘲”の部分や、冷笑の“冷”の部分が1個乗っていると思うんですよね。それがミームの独特な笑いを生み出しているんじゃないでしょうか。でもそういう部分って笑いの根源的なものだったりするので、それが悪いということではないんです。

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