ゼルダの“アタリマエ”を見直した『神々のトライフォース2』と、これからの2Dゼルダに思うこと
12月26日で『ゼルダの伝説 神々のトライフォース2』(以下、トライフォース2)の発売からちょうど10年を迎える。
1991年11月21日、スーパーファミコン向けに発売された『ゼルダの伝説 神々のトライフォース』(以下、トライフォース1)。その直接の続編として、ニンテンドー3DS向けに開発されたこの作品は、10年前の2013年からその先の『ゼルダの伝説』シリーズが掲げる、“新しい開発コンセプト”のもとに作られた最初の新作でもあった。
2013年以降の「ゼルダの伝説」シリーズが掲げる、新しい開発コンセプト。それは「ゼルダのアタリマエを見直す」である。『トライフォース2』の発売から10年が経つということは、「ゼルダの伝説」シリーズが「ゼルダのアタリマエを見直す」という開発コンセプトを掲げてからも10年が経ったことを意味するのだ。
「ゼルダのアタリマエを見直す」最初の新作だった『トライフォース2』
「ゼルダのアタリマエ」を見直すという開発コンセプトが初めて公に掲げられたのは、2013年1月23日放送のオンライン情報番組「Wii U Direct Nintendo Games 2013.1.23」でのこと。この番組に「ゼルダの伝説」シリーズのプロデューサーを務める任天堂の青沼英二氏が出演し、Wii U向けに発売予定のシリーズ最新作の開発コンセプトが「ゼルダのアタリマエを見直す」であることを発表した。
「ゼルダのアタリマエ」とは、ストーリーに沿って順番にダンジョンを攻略すること、ひとりで黙々と遊ぶスタイルのことを指している。特に前者は初代『ゼルダの伝説』(1986年2月21日発売、ファミコンディスクシステム)のとき、最後のダンジョンを除いて、どこのダンジョンからも攻略可能な自由度があったのだが、『トライフォース1』から一部のダンジョン(※)を除いて決まった順序を設定。次作『ゼルダの伝説 夢をみる島』(1993年6月6日発売、ゲームボーイ)からは攻略順序が完全に固定化された。『ゼルダの伝説 時のオカリナ』(1998年11月21日発売、NINTENDO64)以降の新作もそれを踏襲し、シリーズのアタリマエとして確立された格好である。
※本編後半に登場する「ドクロの森」、「はぐれの者のアジト」のダンジョンは好きな順で攻略できた。
もともと、「ゼルダの伝説」ではダンジョンを探索し、そこで新しいアイテムを見つけ、そのアイテムを使って次のダンジョンを発見するという「ゼルダの方程式」とも呼ばれる構成が特徴であり、醍醐味となっていた。だが、そのためにはパズル的な仕掛けを解き明かす必要があり、それらを解き明かせなければ先に進められなくなって行き詰まってしまう。
結果、プレイヤーの続けたい意欲は減退し、エンディングまで遊ばずそこで終えてしまう。仕掛けを解く答えに繋がるヒントも基本、最小限しか提示されないことから、基本的に『ゼルダの伝説』というゲームはプレイヤーの発想力に加え、根気が必要とされやすい側面があった。
Wii U向けの新作は、そうした方程式に基づく構成を改めたものになる……と、宣言された。後にこのコンセプトは件の新作こと『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』(以下、BotW)に限らず、今後発売される『ゼルダの伝説』の新作すべてを指すコンセプトになり(※)、その初手として『トライフォース2』は登場するに至った。
※参考:「社長が訊く『ゼルダの伝説 神々のトライフォース2』」
https://www.nintendo.co.jp/3ds/interview/bzlj/vol1/index6.html
そんな『トライフォース2』は、「アイテムレンタル」というダンジョン攻略に必須のアイテムを貸し出しするシステムで、並列的にダンジョンを攻略していける手法を採り、シリーズのアタリマエを切り崩しにかかった。
厳密には、主人公リンクが壁画になるまでの流れは従来の一本道構成を踏襲しているが、そこから先はプレイヤーの好きな順序でダンジョンを攻略していけるようになっている。後半、「ロウラル」なる別世界に移動できるようになると、攻略順序の自由度はさらに高まり、初代『ゼルダの伝説』にやや近い進め方で楽しめるようになる。
また、このような仕組みを取ったことで、新しいアイテムを自分の持ち物にする過程も、貸し出し主であるキャラクター「ラヴィオ」に高額なルピーを支払って買い取るというものに変更。同時に買い取ったアイテムは(条件付きだが)性能の強化も可能になるなど、自分の持ち物にしたなりの恩恵も得られるようになっている。くわえて本作は「弓矢」と「爆弾」という、「ゼルダの伝説」シリーズ定番のアイテムも残数(本数)の概念を廃止。「がんばりゲージ」なる紫色のゲージがある限り、ほぼ無限に使えるようになっている。
ほかにもストーリー上の大きなイベントは序盤と終盤に集約したり、『ゼルダの伝説 時のオカリナ3D』や『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』にて導入された謎解きのヒントを充実させるといった施策が行われている。『トライフォース1』のフィールドマップをそのまま継承するなど、「ゼルダの伝説」シリーズとしては珍しく前作との強い関連性が表現された新作であることも、それまでのアタリマエを切り崩したとも言えるだろう(前述の「社長が訊く」で語られている内容の限りでは、結果論としてそうなった感じだが)。
このように『トライフォース2』は、まさに長らく「ゼルダの伝説」のアタリマエとされてきた部分にメスを入れた最初の作品になった。そして、このコンセプトを元にさらなる切り崩しにかかった『BotW』がどんなものになり、世間にどう受け入れられたのかは、もはや語るまでもないだろう。
ちなみに後の『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』(以下、TotK)では、(これも結果論ではあるが)『トライフォース2』が試みた前作のフィールドをそのまま引き継ぐというコンセプトも継承・発展させるに至っている。