オーディオ評論家・野村ケンジがオススメする、最新「オープンイヤー型イヤホン」事情
現在、AirPods ProをはじめとするTWS(完全ワイヤレスイヤホン)が、イヤホンの主流であるばかりかポータブルオーディオ機器全体の主流製品となっているのはみなさんもご承知のことと思う。ワイヤレスかつ小型軽量なので屋外で扱いやすく、機能性の進化によりスマートフォンとの相性が抜群のTWSは、この先しばらくイヤホンの主流であり続けることは間違いない。
そのいっぽうで、骨伝導など新たな潮流がいくつか生まれ始めている。なかでも、いま高い注目を集めているのが“耳を塞がない”オープンイヤー型と呼ばれるワイヤレスイヤホンだ。
また、骨伝導イヤホンのようなユーザーによる向き不向きがさほど大きくなく、特に低域の量感が確保しやすいため、バランスのよい音が聴けるという特徴もある。また、カナル型イヤホンの装着感が苦手な人にも好評で、かつ聴覚への負担が少なく長時間使い続けられる点も好評だ。
もちろん、デメリットもある。特に音漏れについては、耳を塞がない構造のため致し方のないところ。それでも、骨伝導イヤホンよりは音漏れしないという印象で、ラッシュ時の電車内でもなければ周りに迷惑をかけず使えるし、最新上級モデルのなかには音漏れに配慮した製品も登場している。ということで、今回はオススメできるオープンイヤー型ワイヤレスイヤホンを5モデル紹介しようと思う。
迫力のJBLサウンドが存分に楽しめる完成度の高い製品
JBL『SOUNDGEAR SENSE』
形式:オープンイヤー型完全ワイヤレスイヤホン
最大の特長は「音漏れ防止機能」だ。ドライバーから出ている音と逆位相の音を発生させることで、音漏れを低減させる機能を持ち合わせている。いわゆるANC(アクティブノイズキャンセリング)機能と同じ仕組みだが、これを音漏れ低減のために利用しているのはとてもユニークだ。
◯野村ケンジ的オススメポイント
とはいえ、いちばんの魅力はそのサウンドだ。16.2mm口径のダイナミック型ドライバーの採用や独自のBASSエンハンスメント(低音強化アルゴリズム)、JBLならではのサウンドチューニングにより、メリハリがよくパワフル、それでいてヴォーカルがしっかり耳に届く絶妙なサウンドを楽しませてくれる。特に低域の量感に関しては、骨伝導タイプはもちろん、オープンイヤー型のなかでもいちにを争う量感の高さを持ち合わせているので、“普通”のイヤホン然としたサウンドが楽しめる。使い勝手のよい、完成度の高い製品だ。
パワフルな低音と小型軽量な筐体を両立
oladance『OWS Pro』
形式:オープンイヤー型完全ワイヤレスイヤホン
オープンイヤー型であることに加え、素材にチタン合金やシリコンを採用することで片側13.8gという軽量設計によって快適な装着感を実現。専用ケースも(オープンイヤー型としては)薄型デザインが採用されていて、屋外への持ち運びも容易だ。それでいて、イヤホン本体で16時間、専用ケースからの充電を含めると58時間という、かなりタフネスな造りともなっている。
いっぽうで、マイク性能にもこだわりが。片側3マイクずつ搭載、そのうち1つを風低減タイプとすることで、バイクで26km/h走行していても通話がはっきり聞こえるとアピールする。
◯野村ケンジ的オススメポイント
とにもかくにも、軽量ボディによる快適な装着感が魅力。長時間にわたり装着し続けても、ストレスを感じることはまずない。何よりも、音の迫力が素晴らしい。オープンイヤー型とは思えない充分な低域の量感を確保しており、メリハリのよいパワフルなサウンドを楽しむことができる。音漏れもないとまではいえないが、このタイプとしては少ないほうで、音量を控えめにすれば屋外でも周りを気にすることなく楽しめる。最新世代ならではの高い完成度をもつ。多くの人にオススメできる製品だ。
ニーズに合わせた3バリエーション展開を用意
Cleer Audio 『ARC II』
形式:オープンイヤー型完全ワイヤレスイヤホン
角度調整可能なスピーカー部にイヤーフックが付属する基本デザインはそのままに、装着感や使い勝手を向上させるためのディテール変更が行われている。機能面では、Qualcomm製最新世代SoC「QCC3071」を採用し「Snapdragon sound」認証を取得。高音質コーデックaptX adaptiveに加え、新世代コーデックLE Audioにも対応する。さらに、6軸モーションセンサーによる空間オーディオ機能も採用し、首の動きだけでイヤホンを操作できるインタラクティブコントロール機能も持ち合わせている。このほか、IPX5の防水性能やマルチポイント接続対応など、使い勝手の面でも充実した内容を持つ。連続再生時間はイヤホン本体で最大8時間、専用ケースからの充電を含めると最大35時間の使用が可能となっている。
◯野村ケンジ的オススメポイント
総じていえば、迫力よりも質感に重きを置いたサウンドキャラクターが特徴。特に高音質コーデックaptX adaptive(96kHz/24bit)への対応がありがたく、最新のAndroidスマートフォンでアレはかなり良質なサウンドが楽しめる。この音質のよさが、この製品の大きな魅力となっているのは確かだ。
機能性については上級クラスのTWSとほぼ同様、ANC機能以外は充分以上のものを持ち合わせている。使い勝手もよく、装着感のみ耳のかたちや好み次第といったところだろうか。
バランスのよいサウンド、装着感も良好
1MORE『S30』
形式:オープンイヤー型完全ワイヤレスイヤホン
スマートフォン用アプリ「1MORE MUSIC」も用意されており、こちらを利用してタッチコントロールをカスタマイズすることが可能だ。イヤホン本体の防水性能はIPX5を備えている。カラーはブラックとホワイトの2色展開となっている。
◯野村ケンジ的オススメポイント
いっぽうで、サウンドバランスのよさが光る。レンジ幅はややナロー、高域の伸びがそれほどではないものの、大柄なスピーカー部分が耳穴近くに置きやすいこともあってか低域に充分な量感を持つ。結果として、帯域バランスのよい、自然な音色のサウンドが楽しめる。同価格帯のカナル型と同じ、とまではいえないが、エントリークラスのTWSに対して同等以上のサウンドを確保できているのは確か。価格以上の価値を持つ、絶妙な造りの製品だ。
低価格なれど装着性も音質も本格派
SOUNDPEATS『GoFree2』
形式:オープンイヤー型完全ワイヤレスイヤホン
◯野村ケンジ的オススメポイント
大半のAndroidスマートフォンとLDACコーデックで接続してくれ、良質なサウンドで楽しめるのも嬉しいかぎり。iPhoneとのAAC接続でもなかなか良質なサウンドが楽しめる。総じて軽やかなBGM的なサウンドだが、音質がよいため充分に楽しい。なかでも解像度の高さについては、カナル型イヤホンに勝るとも劣らない実力を持ち合わせる。帯域バランスも含めて、女性ヴォーカルとの相性がよい。デザインや機能性、そして音質と、価格以上の価値を持つ製品だ。
逆相波形を使った独自の「PSZ技術」が注目
NTTソノリティ『nwm MBE001』
形式:オープンイヤー型完全ワイヤレスイヤホン
NTTグループ内で音響機器の研究開発を行うNTTソノリティの独自ブランドnwm(ヌーム)のオープンイヤー型完全ワイヤレスイヤホン。再生している音に対して180度位相を反転させた波形(逆相)を重ねるという独自技術「PSZ技術」を採用することで、音楽等の音漏れを防いでいる。こちら、簡単にいえば周囲の騒音を防ぐANC(アクティブノイズキャンセリング)機能を音漏れ対策に活用したもので、これによりかなりの音漏れを防ぐことができ、プライバシーを確保することができるという。
音楽再生時間は最大6時間で、充電時間は約2.5時間となっている。専用ケースにはバッテリーが搭載されておらず、本来の意味での収納ケースとなっている。その分、厚みが薄く軽量コンパクト、持ち運びはし易い。Bluetoothのバージョンは5.2、コーデックがSBC、AAC、aptXに対応する。イヤホン本体の重量は片側約9.5gと、比較的軽量だ。
独自デザインの装着感はなかなかいい。耳の上が大きく塞がれたり耳たぶのどこかが押され気味だったりしないため至って快適、長時間装着し続けても不快に思うことはない。装着感とともに、サウンドも自然な印象だった。音響ARという表現が妥当だろうか、リアルの世界に音楽の広がる空間が重なり、調和してくれている。おかげで、世界と音楽との区別がつきにくくなるほど。見えないスピーカーが設置されたオーディオ空間にいるかのようだった。
このように、オープンイヤー型完全ワイヤレスイヤホンは今や数多の製品が登場し、それぞれ特徴的な個性をもつオーディオジャンルとなっている。音質を重視するか、装着感を重視するか。音漏れを気にするか。今回の記事を参考に、自分好みの製品を見つけ出してほしい。