『Weekly Virtual News』(2023年10月16日号)

『VRChat』の“正装”にふさわしいこだわり 大丸松坂屋百貨店オリジナルアバター試着レポート

 老舗百貨店・大丸松坂屋が、ソーシャルVR『VRChat』向けにアバターの販売を開始する――これだけでも十分おどろきのニュースだ。

 しかも、販売数は一挙に5体。アサインしたクリエイターは計14名で、価格は3万円台という高価格帯……一般的なアバターがおおむね5000円前後であることを考えれば、はっきり言ってものすごく攻めている。しかし、公開されたキービジュアルからは、その価格帯でも手を取りたくなる魅力が感じられた。

 はたして、老舗百貨店が手掛ける3Dアバターとはどのようなものなのか。今回筆者は、メディア向けに実施されたアバター試着会を取材。発売されるアバターのうち4体を試着することができたので、その印象や使い心地を本記事にてお伝えしていく。

大丸松坂屋百貨店のオリジナルアバターたち テーマは「正装」

 大丸松坂屋百貨店は、10月7日にメタバース事業として『VRChat』アバター向けオリジナル3Dモデルの販売を発表した。10月17日に第1弾として、「瑚紅姫(ここひめ)」「龍青(りゅうせい)」「風璃(ふうり)」「鳳蝶(あげは)」「彩千華(さちか)」の、計5体のアバターが発売される見通しだ。

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 第1弾に発売されるアバターのテーマは「正装」。販売価格は税込で30,000〜36,000円で、『VRChat』向けアバターの平均価格を大きく上回るハイブランド帯だ。制作進行はファッションブランド・ANREALAGEのアバターを手がけるなど、アバターファッションの知見に富む株式会社Vが参加。そこへ計14名のクリエイターがくわわり、アバターごとにチームを組んで制作されている。

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 今回の試着会では「瑚紅姫」を除く4体が試着対象となった。以下、制作チームのコメントも交えながら、各アバターを紹介していこう。

つかみどころのない淑女「風璃(ふうり)」

 まずは「風璃(ふうり)」を見ていこう。モノトーンのシックな色合い、ノースリーブドレスに身を包んだ女性アバターで、「正装」というコンセプトがシンプルかつ小綺麗にまとまっている。

 特徴的なのはそのドレス。「空気を纏う」というコンセプトを掲げるその衣装は、物理的な意味で身体から“浮いている”。衣装それ自体が空気のような雰囲気を漂わせる、バーチャルならではの装いだ。

 デフォルトの表情は「凛とした淑女」を彷彿とさせるが、その他の表情は意外と豊かだ。意外とおちゃめなお姉さんなのかもしれない、という印象を与えてくる。

 試着アバターではメニューからハンディ扇風機を取り出すこともできた。涼んでゆるむ姿もどこか似合うのが不思議だ。

 「風璃」制作チームは合計4名の大所帯。イラストレーターのBALANCE氏が全体デザインを担当し、それをもとにもちひよこ氏が頭部と髪を、明日葉わがみ氏が素体を、Yzha氏が服のモデリングをそれぞれおこなった。

明日葉わがみ氏(左)、Yzha氏(中央)、もちひよこ氏(右)

 VTuberとしても名の知られたもちひよこ氏によれば、こうした「クールな子」は初挑戦だったとのことで、それでも表情を組み込む段階で豊かな表情を組み込んだと話す。また、明日葉わがみ氏は「女性らしい細さ」を、Yzha氏は小物やテクスチャなどで、元のイラストの印象を損なわないよう気を配ったと制作におけるそれぞれのコンセプトを明かしてくれた。

 不思議なドレスと、凛としたたたずまい、そしておちゃめさもある表情。リアルとバーチャルとの境界のズレなど“心地よい食い違い”を表現したという姿は、様々な面でつかみどころがない。そのあり様は自然とパーティーの中で存在感を発揮するだろう。

オリエンタルで筋肉質な男性「龍青(りゅうせい)」

 次に紹介する「龍青」は男性アバターだ。男性の中でも成人寄りのデザインで、身長はかなり高めである。

 大きく目を引くのは、腰まで伸びた白髪のポニーテールだろう。名前の通り「昇り龍」を連想させる髪型にくわえ、頭頂のヘイローや様々なアクセサリーが華やかさを醸し出す。

 衣服は青い文様の描かれた上下白のスーツ。デザインのモチーフには「中国の青磁器」が採用されており、よりオリエンタルな雰囲気を演出している。

 スーツのジャケットや各種アクセサリーは、専用メニューから脱着が可能だ。ジャケットの下の体はなかなかに高密度。腕や指先からも見て取れるが、スラッとしたフォルムとは裏腹にかなり筋肉質な男性だ。

 「龍青」も、制作チームは4名体制。イラストレーターの米室氏がデザインを手掛け、モデリングは頭部・髪担当のおとぎ かたり氏、素体担当の(仮)氏、服担当のRADIKAという編成だ。

おとぎ かたり氏(左)、RADIKA氏(右)

 おとぎ かたり氏は顔立ちの造形や、髪などの「揺れもの」の表現に気を配り、特に「揺れもの」については「つい触れてしまいたくなるような」方向性を意識したようだ。また、RADIKA氏が手がけた龍が昇るような服の文様は、青磁器の紋様がぼかし・伸ばしを行わない「ごまかしの効かない柄」であることに着目し、ベタ塗りで細かく描きこむようにしたという。

 細かなデザインにも目を引く「龍青」は、いわゆる「イケメンの男性」というアバターである。ただし、オリエンタルなデザインかつ、指先まで筋肉質な男性、というのは意外と競合がいない。これまでにない選択肢となりそうな、ユニークな個性を持つ男性アバターである。

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