「この言葉って面白かったんだ」 ダウ90000のネタ動画を成立させる“言語化能力”と“演技力”

 先日行われた『THE SECOND 〜漫才トーナメント〜』で三四郎が放った「THE THIRDの審査員はダウ90000」というくだりでも話題になったユニット・ダウ90000。主宰の蓮見翔、園田祥太、飯原僚也、上原佑太、道上珠妃、中島百依子、忽那文香、吉原怜那で構成されている男女8人組で、単独公演を開催すれば10分でチケットが即完という人気ぶり。南海キャンディーズの山里亮太や東京03の飯塚悟志と言った実力派芸人はもちろん、西田敏行や星野源などの俳優たちも絶賛する、いま最も注目すべき一組だ。そんな彼らのYouTubeチャンネル「ダウ九萬」を覗けば、彼らがどんな人間なのかを知ることができる。

 彼らの最大の魅力はなんと言っても「ネタ」だ。日常を切り取った会話劇を中心としたコントは唯一無二の面白さを誇る。特筆すべきは、どれのネタを観てもあれだけの大人数がいるにも関わらず、影の薄い人間がひとりもいないという「人数の活かし方の上手さ」。主役も脇役もなく、メンバーそれぞれに明確な役割と見せ場があり、それぞれのひと言でちゃんと大きな笑いが起きる。

ダウ90000 コント「今更」

 個人的に最も凄いと思ったのが「今更」というネタで、よくいる「女2男1のグループ」という関係性のいびつさを完璧に笑いに落とし込んだ恐ろしい作品だ。とても仲が良さげにベンチでお喋りに花を咲かせている3人。誰もがスルーしてしまいそうなありふれた光景だが、それを目撃した蓮見のツッコミが入ることで、どんどん違和感が大きくなっていき「メリットがないもん」という一言で爆発する。なんでもないテーマをここまでコントに昇華させていて、しかもそれが全くわざとらしくない「自然な会話のライン」を超えないワード、声量を保っている。そして、それを可能にしているのは、メンバーそれぞれの高い演技力と、蓮見翔の脚本力に他ならない。「若者の会話劇」というジャンルにおいて間違いなくトップクラス、固有名詞の使い方と違和感に対する言語化能力の高さは嫉妬すら覚える。蓮見翔の書く台本は「この言葉が面白いだろう」の「だろう」の部分における共感性がとても高く、「思い出した。この言葉って面白かったんだ」と観る人間の脳の海馬を絶妙に刺激してくる。

 ネタ以外の動画もとても魅力的だ。テーマも編集も良い意味でユルく、観ていてまったく疲れることがない。9人全員で行う企画や配信ラジオ『ダウ90000900000000』の他に、メンバーそれぞれが架空のモーニングルーティンを作って蓮見翔が審査をする「ウソモーニングルーティーン選手権」など8人が自由に動画をアップしているのだが、ただただ本能の赴くままに「やりたいことをアップする」、これこそがYouTubeの原点とも言うべき形なのではないだろうか。

【吉原】入れたいタトゥーランキング

 たとえば、直近でアップされたそれぞれの動画をチェックしてみても、吉原怜那は「入れたいタトゥーランキング」、上原佑太は「家にある漫画の紹介」、道上珠妃は「太鼓の達人のプレイ動画」、飯原僚也は「公演期間に食べ忘れた食材でオムライスを作って食べる」、忽那文香は「メンバーのお悩み相談」、園田祥太は「考えてきた嘘のアニメの中から本当にあるアニメを当てるクイズ」、中島百依子は「メンバーそれぞれに見立てた食材で料理を作って食べる」とあまりにもジャンルレス。もはや「エンタメの全て」がここにあると言っても過言ではないだろう。しかも、そのどれもメンバーそれぞれの個性が眩しいくらいに光っており、観れば観るほど彼らの魅力の虜になってしまう。

 このYouTubeチャンネルを観てダウ90000が気になった人はぜひ、先日行われた単独公演『また点滅に戻るだけ』の配信を観てほしい。放たれる言葉一つひとつに無駄がなく、点が線になっていく気持ち良さが味わえる極上の作品だった。演劇でもコントでもない「ダウ90000」という一つの新しいお笑いの形がここにある。

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